実験動物に関する改正についての再要望書(2019年3月)

2019年の動物愛護法改正のロビーの中で、実験動物の扱いについて危機感を感じ、超党派議連のPTに改めて要望書を提出しました。

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2019年動物愛護法改正解説

要望書全文

2019年3月29日

犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟
動物愛護法改正プロジェクトチーム 御中

実験動物に関する改正についての再要望書
動物実験関係者からのヒアリングにおいて
明確な反対理由は示されず、改正の必要性が明確になりました

日頃は動物愛護法の改正のご尽力いただきまして、心から感謝申し上げます。

「3Rの義務化」や「動物取扱業への追加」といった実験動物の保護・福祉に関連する改正が、これまで実現しなかったのは、動物実験を自ら行う人々が自由にさせてほしいと反対してきたことが最大の理由です。

動物愛護法改正第16回プロジェクトチームの会議において、動物実験関係者を代表して日本実験動物医学会からのヒアリングが行われましたが、これにより、骨子案、そして別紙に盛り込まれている実験動物に関する改正を行うことに問題はなく、これらの改正は不可欠であることが明確になったと言えます。

そのようなことから、下記の実験動物に関する2点の改正を改めてお願い申し上げます。
また、日本実験動物医学会の主張に対する私どもの反論を次ページに列挙いたしました。

[1] 骨子案「第五 その他 二 動物の科学上の利用の減少に向けた取組の強化」について

  • この骨子案の改正をお願いします。
  • 「科学上の利用の目的を達することができる範囲において」を骨子案から削除してください。

[2] 別紙「1.学校、実験動物を取り扱う者、畜産業者等の動物取扱業への追加」について

  • 骨子案に盛り込み、動物実験施設や実験動物販売業を動物取扱業の対象にしてください。
  • 動物実験関連施設は、営利目的で実験動物を扱う者(生産販売や企業等)を第一種、非営利で扱う者(大学等)を第二種としてください。

動物実験の代替・削減について

(1)3R義務化反対の主張に根拠がない

  • 日本実験動物医学会が、骨子案、つまり「動物実験の3R(代替法の利用・使用数の削減・苦痛の軽減)の義務化」の改正に反対する理由は「法規制、法化されると、2R(代替と削減)は「配慮事項」という2006年の体制を壊すのではないかということで気分的にはやりにくくなる。」でしたが、これは改正を拒むに値する理由にならならないと考えます。
  • 特に代替について、義務表現としていただきたいのが、今回の私どもの要望の要です。一言一句動物愛護法を変えるべきでないという動物実験関係者の主張は、国際潮流を無視したものであり、2005年の法改正以降、2回目の改正を迎えるというのに理念の強化すら行わないような国が先進国を名乗ることは恥ずかしいとすら考えます。
    諸外国の例:

    • EU実験動物保護指令(加盟国に強制力あり):3Rは義務表現
      (代替は”~ shall be used instead of a procedure.”)
    • イギリス科学的処置法:3Rは義務表現
      (代替は”~must be used instead of a regulated procedure.”)
    • 韓国動物保護法:3Rは義務表現
      (代替は「動物実験をしようとする場合には、これを代替することができる方法を優先的に考慮しなければならない。」)
  • そもそも、適正に代替や削減の取り組みを行っていれば、改正に反対する意見が出てくるはずはありません。私どもは、実験動物医学会の主張を聞いたことで、逆に疑念を深めております。
  • 医学会からは、「動物実験の適正化というタイトルならよい」との意見があり、動物実験の適正化には3Rの確実な遂行が含まれると考えられます。3Rの強化に反対する必要はないはずです。

(2)骨子案にある「科学上の利用の目的を達することができる範囲において」は削除すべき

  • 骨子案に「科学上の利用の目的を達することができる範囲において」があることによって、「3Rの原則」を用いるか否かの裁量を利用者に委ねることになってしまいます。
  • 実験動物医学会も「『科学上の利用の目的を達することができる範囲において』の判断を誰がするか、人によって違う可能性がある。そうすると必要でないところでその議論をしなければならなくなる可能性がある。」と述べており、削除することでその懸念もなくなります。
  • 「できる限り」が入っているため、強制ではなく、「科学上の利用の目的を達することができる範囲において」を削除しても何ら研究に支障はないと考えます。
  • 国際的には近年では、目的を達することより、管理獣医師の判断のもと動物の苦痛除去(治療や安楽死)が優先される場合もあるという考え方になっています。
    例えば、NIHの研究資金とリンクしており国際的な施設認証でも用いられているアメリカILARの「実験動物の管理と使用に関する指針」でも、「エンドポイントが人道的であるように、可能なら研究の目的が達成されるように、獣医師や実験実施者が適用の時期を速やかに決定する。」とあり、研究の目的の達成は必須条件となっていません。

動物実験施設の登録制について

(1)動物福祉目的の指導・監視こそが必要

  • 動物福祉目的での動物実験関連施設の把握と指導・監視こそ、動物愛護法がやらなければならない課題です。
  • あくまで動物取扱業としての登録であり、動物実験の内容まで登録させることまでは求めていません。よって動物実験の実施に影響はありません。
  • ヒアリングの場で、環境省から「環境省の実験動物の飼養保管基準が守られているか否かを直接的に確認する法的な仕組みはない」との説明がありました。守らせる仕組みがなければ基準があっても意味はなく、その守らせる仕組みとして、まず動物実験施設を動物取扱業の対象にして登録を義務付けることが必要です。
    ちなみに、PTの場で法制局が実験動物の飼養保管基準について守らなければならないと述べていますが、法律に遵守義務は明記されていません。書かれていないことは守られません。

(2)「動物実験施設が把握できている」は嘘

  • 日本実験動物医学会は、他の法制度で動物実験施設が把握されていると主張していましたが、他の規制は他の目的があって行われているものであって、実験動物福祉を目的として動物実験関連施設(生体販売を含む)を把握する仕組みは現在、一切存在しません。
  • 動物園も、博物館法や都市公園法等、他の法律がかかっていますが、動物の取扱いについては第一種動物取扱業の登録を受け、営業しています。動物カフェ等も、飲食店としての営業については食品安全法等の関連法規がかかっていますが、動物の取扱いについては第一種動物取扱業の登録を受けて営業しています。
    これは、動物の取扱いには専門知識や適正な施設・管理が伴わなければならないと国民が考えるからこそ、実現してきた規制です。
  • 動物実験の関係者は、動物福祉目的の規制が必要だということを理解しておらず、いたずらに他法令を列挙しているにすぎません。他法令では、動物福祉は担保されませんので、その現状を以下に列挙します。いくら他法令をあげつらっても、動物実験関連施設の一部をカバーするだけにすぎません。①医薬品等のGLPは実験手順等の適正化を図る目的のものであり、動物試験と非動物試験(細胞試験等)の両方が対象です。厚生労働省にも確認しましたが、GLP適合施設から動物実験を行う施設のみを抽出し一覧をつくることすら不可能とのことです。まして、動物福祉を目的とした指導監視を行ったり統計をとったりすることはできません。海外ではGLPにも動物福祉を連動させる動きがありますが、日本のGLPの運用はそうなっていません。犬の登録は狂犬病予防を目的としたものであり、書類を提出するだけです。実験動物かどうかの記入欄もありません。動物福祉を求める仕組みもありません。当たり前ですが、犬しかカバーしません。
    狂犬病ワクチンを接種させるなど、狂犬病の流入・蔓延を防ぐのが目的ですが、以前は動物実験施設では法律違反(無登録で注射もしない)が横行していました。改善されたのは近年のことで、現在も犬を扱う全ての動物実験施設が狂犬病予防法を守っているかどうかは、わかりません。(例:静岡県の過去の立入りの記録では、狂犬病予防法遵守の指導の記録が散見される。)②特定動物の飼養許可は、危険な動物の飼育規制であって、逸走防止の観点で制度がつくられています。許可施設において動物福祉が全く担保されておらず、悲惨な状態があることは長年問題になっており、今回の動物愛護法改正でもその点について改善を求めてきました。許可施設だから動物が適正に扱われているということは一切ありません。
    また、実験用では主にニホンザルしかカバーしていません。マーモセットなど小型のサルは規制対象外です。③特定外来生物の飼養許可は、外来生物の逸走・遺棄等の防止を目的とした規制であって、実験動物の福祉の担保を目的とした仕組みは存在しません。許可に際し、通常、立ち入りも行われません。カニクイザルなど一部の実験動物しかカバーしません。

(3)登録制にしても支障はない

  • 兵庫県では、平成5年から条例において動物実験施設の届け出が義務付けられ、71施設が届け出されていますが、何ら問題は起きていません。
  • 大学、独立行政法人、大手企業等の研究施設はウェブサイトにも所在地が書かれており、特段隠されている情報、隠すべき情報ではないです。実験動物医学会も「動物実験施設を隠しているわけではない」と述べています。

災害時対応について

  • 実験動物には、家畜化された野生動物や遺伝子組換え操作がされた動物、病原菌やウィルスに感染させられた動物等、人体や環境に影響を与えるものも少なくありません。そういった動物がどこで、どのように、どれくらい飼養されているかを行政が把握できていなければ、災害時に脱走してしまった場合など対応ができません。
  • 東日本大震災時、津波によって流されたり、放置されたりした動物実験施設もあったと思われますが、誰も把握はしていません。登録等の仕組みがないためです。
  • 東北大学は被害状況を報告書にまとめていますが、特殊な例です。開胸手術中の犬を安楽死せず放置するなど、問題は起きていたことがイベント等でも公表されていました。
    http://www.ilas.med.tohoku.ac.jp/others/report_earthquake2011.pdf

「獣医学的ケア」の文言が必要である背景について

  • 日本実験動物医学会は日本獣医師会の下部組織であり、「獣医学的ケア」の文言を環境省の基準や指針に入れるよう求めていましたが、この「獣医学的ケア」が何であるかの説明がありませんでした。
  • 獣医学的ケアは、動物実験が、動物を不自然な環境で飼育し、苦痛を与える行為を伴うからこそ必要とされている概念であって、実験動物福祉の根幹です。獣医師が中心となってその役割を果たすことが国際的には常識となっています。前出のアメリカの「実験動物の管理と使用に関する指針」では「獣医学的ケアは動物の使用と管理に関する活動計画の要である」と述べ、検疫から苦痛の軽減、安楽死に至るまで、丁寧に一章を割いています。
  • 日本実験動物医学会が日本でもこの文言が必要だと考える理由は、研究者が獣医師のアドバイスを聞く体制や意識が日本にはないという大きな問題があることが背景にありますが、そのことを説明せず、まるで動物愛護法の改正に反対の意見を述べに来たかのような状態であったことを、私たちは深く憂慮します。
  • 日本には獣医師すらいない動物実験施設が多数存在していますが、その理由は、法律が動物福祉を担保する制度をおろそかにしているからです。

京都大学iPS細胞研究所 山中伸弥教授からの回答

「私たち研究者も動物実験をできる限り削減したいという思いを強く持っており、
引き続き3Rの原則を遵守することは当然のことであります。」

実験動物医学会が配布した資料には、ノーベル賞を受賞された山中伸弥京都大学教授の意見として、動物愛護法における実験動物に対する取組強化の改正を行うことに「なぜ改正を行うのか分からない」「改正された場合、自分自身の研究の推進に悪影響が出る」と記されていました。
またこの山中教授の意見は、吉田統彦衆議院議員(立憲民主党)が3月12日の衆議院厚生労働委員会での質疑においても触れておりました。

しかし、私どもが山中教授に書面にてご見解を確認したところ、裏面のとおりのご回答がありまして、3Rを義務付けする改正骨子案に反対のお考えであるとは受け止められないものでした。特に「私たち研究者も動物実験をできる限り削減したいという思いを強く持っており、引き続き3Rの原則を遵守することは当然のことであります。」というご見解は、3Rの強化の後押しとなると存じます。

動物の愛護及び管理に関する法律は、あくまで科学上の目的で動物を利用する場合にはどのように扱うべきかを定めた法律であって、動物実験の必要性を否定してはおりません。動物実験が行われている現実を踏まえ、3Rが同法に盛り込まれています。
この3Rの理念の強化が動物実験の遂行を妨げるのであれば、それは現在の動物実験の実施の在り方が適正ではないことを物語っているにほかなりません。

山中教授のおっしゃるとおり、現在の生命科学研究の在り方において動物実験をすぐになくせないことは私どもも理解しております。ただ、例えばICHのガイドラインにおいても、代替法の採用や実験動物数の削減をする改訂がなされるなど、日々、3Rの推進は進んでいると感じます。
動物実験の代替におけるiPS細胞の利用が大変期待されているように、科学の発展は、動物実験の代替を可能にし、将来的には動物実験の廃止も実現できるものと信じております。

ぜひとも先生方におかれましても、引き続き3Rの推進、特に動物実験の代替につきまして、ご尽力いただきたくお願い申し上げます。


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