家庭飼育のヘビ(ボールパイソン)が感染源の生後2か月児のサルモネラ症の事例から考える

2021年の『日本小児学会雑誌』に、「室内で飼育されているヘビが感染源と考えられた生後2か月児の爬虫類サルモネラ症」という論文が掲載されています。総合母子保健センター愛育病院小児科からの症例報告です。

生後2か月の女児が嘔吐、発熱、活気不良、哺乳緩慢を主訴に来院し、6日間入院。食中毒は考えにくい母乳栄養児だったが、退院後に便からサルモネラ菌が分離された。問診票では「動物の飼育はない」に印がつけられていたのに、親に再度確認すると、実は自宅で2匹のヘビを飼っていることがわかったという事例です。

ヘビはボールパイソンとコーンスネークでしたが、ボールパイソンの便から患児と同一の薬剤感受性を持つサルモネラ菌が検出され、感染源はボールパイソンと考えられました。両親の便培養や、ヘビの皮膚表面の擦過培養からは検出されませんでした。

飼育状況は、以下のような感じだったそうです。

  • ヘビは水槽の中のみで生活し、居間などを這わせることはなかった
  • ヘビの水槽は女児の生活スペースとは別の部屋に設置していた
  • 餌のネズミは専用の冷凍庫で保存
  • 接触前後で手洗いはしていたが、来客には徹底できていなかった
  • ヘビを体に這わせたあと、洋服を着替えていなかった

両親は、爬虫類にサルモネラがいることを漠然とは知っていたが、室内で飼育されるヘビにもいるという認識はなかったそうです。感染予防・安全対策を指導し、生後4か月と6カ月の便検査では保菌は確認されませんでした。

この論文では、サルモネラ菌について「水槽魚や爬虫類、特にカメが感染源となるため、これらをペットとして飼育する家庭において、小児は常に感染の危険に曝されていることに留意すべきである。」と述べられています。

サルモネラ菌は母ヘビから子ヘビへ卵殻表面汚染により垂直感染している可能性が考えられていること、垂直感染した子ヘビは生後300日以上にわたり多量の菌を排菌し続けていることなどが報告されており、ヘビ類におけるサルモネラ保有率は高いものと推測されるとも書かれています。爬虫類では無症状であることが多いです。

動物との接触歴や飼育歴を確認することは「問診の基本」とありますが、本例のように、親が爬虫類の飼育を公にすることをためらう場合もあり、注意を要すると警告されていました。

国内外の乳幼児の感染例のリストが載っていますが、敗血症ショックで死亡した生後3週の子の例もあります。

また、リストに載っているすべての例で、感染源である爬虫類と直接の接触はなかったそう。家族が頻繁に手で触れていた例、生物学の教員であった父親が職場で自分の肩に大蛇を乗せていたが着替えることなく自宅で乳児を抱きしめていた例、飼育ケージを哺乳瓶の乳首の置いてある台所で洗っていた例(!)など、間接の接触による感染だそうです。

サルモネラは乾燥した環境でも数週間、水の中でも数か月間は生存可能であり、室内の感染対策は容易ではありません。手洗いの徹底や、爬虫類に口づけしない、世話をしながら飲食や喫煙をしないといった基本的な事項はもちろん、爬虫類と接触した衣類を着て乳幼児を抱かない、居住スペースに爬虫類を這わせない、飼育容器の洗浄で周囲を汚さない、爬虫類に触れた水はトイレに流すなどの対策が挙げられています。

また、結論として「乳幼児のいる家庭において、爬虫類は危険なペットであることを認識する必要がある」と断言されていました。

サルモネラ症が爬虫類由来だと特定できるケースはおそらく氷山の一角と思われますが、その理由はこちらの記事に書きました。

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5歳未満の子どもに直接触れ合わせてはいけない動物については、過去にこちらの記事もあげました。エキゾチックアニマルの飼育をもてはやす傾向が止まりませんが、お子さんの健康のことも考えてほしいものです。販売する側、触れ合わせる側、イベント主催者等も、もっと注意喚起するべきではないでしょうか。

ふれあい感染事例参考文献

河野香ほか「症例報告 室内で飼育されているヘビが感染源と考えられた生後2か月児の爬虫類サルモネラ症」(日本小児科学会雑誌, 125巻7号, 2021)


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