動物との「ふれあい」による集団感染事例
動物との「ふれあい」を行う施設や「ふれあい」行事による感染症の集団発生は、件数はそれほど多くはありませんが、まったく起きていないわけではなく、死亡例もあります。日本で起きたこれまでの集団感染事例を一覧にまとめてみました(高校までの学校での飼育も含む)。
こういった動物との「ふれあい」行事等による感染症については、諸外国でも問題になっており、ガイドライン化も進んでいますが、海外でも話題になった日本の事例が影響を与えたとも言われています。
また、諸外国の感染事例一覧をまとめた専門家ら*によれば、アルコール消毒では感染を防ぎきれておらず、最も重要なのは手洗いであるとのことです。
このことは、日本で作成された「ふれあい動物施設等における衛生管理に関するガイドライン」にも反映されていますが(「消毒薬の設置も有用だが、必ず手洗いし、除水の後に使用する」)、実際の動物ふれあいイベントでは、消毒用アルコールが置いてあるだけの場合もあり、移動動物園や1日の催事など、営利色の強いものになればなるほど、衛生面が意識されていないように思います。
またこのガイドラインは、感染の機会をできるだけ減らすため、エキゾチック動物や気性の荒い動物種、幼弱な反芻獣、家禽、爬虫類、病気の動物の使用に関し警告を発していますが、守られていないことは明白です。
さらに、動物ストレスにさらさないことも重要とされていますが、そもそもふれあい(特に移動を伴うもの)自体が高ストレスです。人間が一方的に触るだけの「ふれあい」イベントは、人間・動物双方の健康のためにも見直していく必要があるのではないでしょうか。
参考
- 厚生労働研究班:「動物展示施設における人と動物の共通感染症対策ガイドライン2003追補版 ふれあい動物施設等における衛生管理に関するガイドライン」
(ただし、厚生労働省によれば、この内容もすでに古いとのこと) - 環境省:「人と動物の共通感染症に関するガイドライン」
- 厚生労働省・農林水産省通知 動物とのふれあいイベント等における衛生管理の徹底について
- 厚生労働省:ミドリガメ等のハ虫類の取扱いQ&A
日本では小さいお子さんに動物を1日だけでも、ただ与えていじらせれば情操教育になるという根拠不明の固定観念が広まっていますが(なんらか根拠らしきものがあるのは、家庭での飼育など長期的関与がある場合、もしくは教育的関与がある場合くらいではないで[…]
日本の集団感染事例(ふれあい、学校飼育)
時期 | 感染症 | 患者数 | 感染源 | 発生地 |
2014年6月 | クリプトスポリジウム | 府中市の小学校:生徒47名、文京区の小学校:生徒54名と校長、補助員の56名 | 長野県の牧場での酪農体験、子牛とのふれあいなどの疑い | 東京都 |
2014年5月 | 腸管出血性大腸菌O121:H19 | 3、無症状4 | 高校での牛の飼育 | 兵庫県 |
2013年7月 | クリプトスポリジウム | 76 | 市内の牧場で実施された自然体験学習 | 北海道帯広市 |
2009年8‐9月 | 腸管出血性大腸菌O157 | 5 | ホクレン農協連合会主催の酪農PRイベントに連れてこられていた子牛との接触 | 札幌市 |
2006年5-6月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7(VT1&2)、O26(VT1) | O157VT1&2は19(うち死亡1)、 O26VT1は20 | テーマパーク「秋田ふるさと村」ドーム劇場内の「赤ちゃん動物園」(県外の業者による移動動物園) | 秋田県及び隣県 |
2006年9月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7(VT1&2) | 5 | (株)雪印こどもの国牧場の搾乳体験 | 横浜市青葉区 |
2006年9月 | 腸管出血性大腸菌O26(VT1) | 18 | 野外体験教室(搾乳体験)の疑い | 静岡県 |
2006年9月 | 腸管出血性大腸菌O111(VT1&2) | 3、うち1名は溶血性尿毒症症候群を発症 | 野外体験教室(搾乳体験)の疑い | 静岡県 |
2006年7月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 (VT1&2) | 16 | 牧場でのふれあい体験(ウシの搾乳および給餌等) | 青森県 |
2006年7月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7(VT1&2) | 発症1、無症状1 | 学校飼育動物(羊) | 新潟県 |
2005年12月 | オウム病 | 肺炎発症は19、確定は3 | 神戸花鳥園(当時) | 神戸市 |
2002年1月 | オウム病 | 17(来園者及び従業員) | 松江フォーゲルパーク(高圧洗浄機での病原菌飛散の疑い) | 松江市 |
2002年5月 | クリプトスポリジウム | 8 | 修学旅行先の北海道の牧場での仔牛の世話体験 | 千葉県 |
1997年6月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7(VT1&2) | 2 | 観光牧場 | 富山県 |
1991年8月 | サルモネラ | 42(園児) | 保育園で飼育していたチャボ | 広島市 |
日本のサルモネラ感染事例(2000年以降)
2021年の『日本小児学会雑誌』に、「室内で飼育されているヘビが感染源と考えられた生後2か月児の爬虫類サルモネラ症」という論文が掲載されています。総合母子保健センター愛育病院小児科からの症例報告です。生後2か月の女児が嘔吐、発熱、活[…]
時期 | 動物種 | 患者 | 症状 | 発生地 |
2013年 | ミドリガメ | 2歳 男児 4歳 女児 4カ月 乳児 (3名とも同じ市内に在住) | 胃腸炎 | 秋田県 |
2009年 | リクガメ | 8 カ月~ 3 歳(9人) | 胃腸炎 | 静岡県 |
2007年 | 室内犬 | 1か月男児 | 胃腸炎 | 東京都 |
2006年 | ケヅメリクガメ | 7か月男児 | 胃腸炎、敗血症 | 新潟県 |
2005年 | ミドリガメ | 6歳男児 | 胃腸炎 | 長崎県 |
2005年 | ミドリガメ | 1 歳3 カ月女児 | 髄膜炎 | 千葉県 |
2005年 | ミドリガメ | 6 歳2 カ月女児 | 急性腸炎、敗血症 | 千葉県 |
2004年 | イグアナ | 生後27 日男児 | 腸炎 | 千葉県 |
2003年 | カメ | 2 カ月男児 3 歳女児 | 胃腸炎 | 秋田県 |
2003年 | ミドリガメ | 62 歳女性 | 敗血性ショック | 宮城県 |
2000年 | ミドリガメ | 5歳男児 | 中枢神経症状 | 和歌山県 |
参考文献
1.「爬虫類とサルモネラ」(林谷秀樹ほか,モダンメディア 54 巻 6 号 2008)
2.「新世紀・「One Health」としてのZoonosis 〈第40回〉カメ、イヌ等からサルモネラ(胃腸炎)が感染する!?」(ほか,大塚薬報 2015 年 5 月号(No.705))
ペットショップで、ヘビ類100%、カメ類72.2%、トカゲ類74.6%
家庭飼育で、ヘビ類90.0%、カメ類18.0%、トカゲ類53.6%
となっており、爬虫類にとってサルモネラは腸管内の常在細菌と考えられるとしている。
諸外国のふれあいイベント等からの感染事例
時期 | 感染症 | 患者数 | 感染源 | 発生地 |
2014年8月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 13 | ふれあい動物園 | ミネソタ州 |
2012年10月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 10 | ふれあい動物園 | ワシントン州 |
2012年10月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 1名死亡、106名発症 | カントリーフェアのふれあい動物園 | ノースカロライナ州 |
2011年10月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 25 うち4名が溶血性尿毒症を発症 | カントリーフェア(の疑い) | ノースカロライナ州 |
2011年9月 | 志賀毒素産生性大腸菌 | 3 うち1名が溶血性尿毒症を発症 | ロイヤル・アデレード・ショー | オーストラリア |
2011年8月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 6 | 動物牧場 | イギリス |
2011年6月 | 大腸菌 | 4 | 森林公園動物ふれあい牧場 | ワシントン州 |
2011年4月 | クリプトスポリジウム | 12 但し調査された疑い例がさらに4 | 羊ふれあい牧場 | イギリス ウェールズ |
2010年7月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 1 | 暴れ羊ロディオ | テキサス州 |
2010年7月 | 大腸菌 | 2 | カントリーフェア | インディアナ州 |
2009年12月 | サルモネラ | 1 | ペットショップ | ウィスコンシン州 |
2009年9月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 93 | 牧場 | イギリス |
2009年9月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 3 | 牧場 | イギリス |
2009年8月 | 大腸菌 | 36 (10歳以下の子どもは12) | ふれあい動物園 | イギリス |
2009年5月 | 腸管出血性大腸菌O26 | 9 | ふれあい牧場 | ノルウェー |
2009年5月 | カンピロバクター・ジェジュニ | 12 | ふれあい牧場 | ノルウェー |
2009年5月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 7 | ふれあい動物園 | フロリダ州 |
2009年2月 | 大腸菌 | 20(19名が子ども) | ふれあい動物園 | コロラド州 |
2007年6月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 7 | 6名はデイキャンプのふれあい牧場、1名はそのきょうだい | フロリダ州 |
2005年10月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 6 うち1名が溶血性尿毒症を発症 | フェア | カリフォルニア州 |
2005年7月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 2 | ふれあい動物園 | アリゾナ州 |
2005年6月 | カンピロバクター | 14 | 牧場へのキャンピング旅行 | ワシントン州 |
2005年5月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 22 うち7名が溶血性尿毒症を発症 | ステートフェア | フロリダ州 |
2005年2-5月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 22 45名の疑い事例があり、6名が二次感染 | ステートフェア | フロリダ州 |
2004年10月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 108 | ふれあい動物園 | ノースカロライナ州 |
2003年11月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 25 | カントリーフェア | テキサス州 |
2002年 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 1 | ふれあい動物園 | オランダ |
2002年8月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 131 14名が二次感染と推定される | カントリーフェアで56名の感染と14名の二次感染。12名の子どもを含む75名はパイプの上にたまった汚れに含まれる微生物によって感染 | オレゴン州 |
2001年 | クリプトスポリジウム | 23名が確定、総計は不明 | 牧場の教育行事 | ニュージーランド、ウェリントン |
2001年9月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 92 27名が確定、2名が溶血性尿毒症の疑い | カントリーフェア | オハイオ州 |
2001年9月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 23 | カントリーフェア | オハイオ州 |
2001年8月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 59 25名が確定 | カントリーフェア | ウィスコンシン州 |
2000年9月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 61 | O157に感染した16名は牧場のふれあい動物園、45名は二次感染 | ペンシルヴァニア州 |
2000年8月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 51 | 酪農牧場 | ペンシルヴァニア州 |
2000年8月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 48 | 45名がカントリーフェア、5名の子どもは同じ場所で開かれたハロウィーンイベントで | オハイオ州 |
2000年5月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 5 | ふれあい動物園で3名、その牛が飼育されていた牧場で1名。5人目は不明 | ワシントン州 |
2000年4月 | サルモネラ菌 | 32 うち4名が入院 | 保育園で2歳~4歳までの32名が、教室で飼育開始されたヒヨコやコガモとの接触により発症。園児たちはトリとの接触が禁止されていたが、守られていなかった。 | イギリス ニューカッスル・アポン・タイン |
1999年 | 大腸菌 | 202 | 牧草地で開かれたパーティ | イリノイ州 |
1999年9月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 ファージ型(PT)27,14 | 202 | フェア | オンタリオ州 |
1999年8月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 及び カンピロバクター・ジェジュニ | 781 | フェア | ニューヨーク州 |
1999年6月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 16 | 解放牧場 | イギリス、ウェールズ |
1998年9月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 10(2名が子ども) | フェア | ワシントン州 |
1998年9月 | 大腸菌 | 7 | 農業フェア | カナダ、ブリティッシュコロンビア |
1997年7月 | クリプトスポリジウム | 396 | ミネソタ動物園 | ミネソタ州 |
1997年6-7月 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 3 | 子ども1名は牧場在住、2名は訪問 | イギリス、コーンウォールと西デヴォン |
1995年夏 | クリプトスポリジウム | 13 | 解放牧場 | アイルランド、デブリン |
1995年4月 | クリプトスポリジウム | 43 | 牧場(最も確かな情報源によれば牛への接触) | イギリス、ウェールズ |
1994年夏 | 腸管出血性大腸菌O157:H7 | 4 | 牧場訪問後 | イギリス、ノッティンガム、ランカスター |
*参考文献:
Erdozain G, Kukanich K, Chapman B, Powell D. 2012. Observation of public health risk behaviours, risk communication and hand hygiene at Kansas and Missouri petting zoos – 2010-2011. Zoonoses Public Health. 2012 Jul 30. doi: 10.1111/j.1863-2378.2012.01531.x.
http://bites.ksu.edu/petting-zoos-outbreaks
※注:イベントやふれあい動物園の名称など、固有名詞は一部を除き翻訳していません。
また、一部事例をほかの情報源から追加しています。
東京都の平成30年度動物由来感染症検討会の資料が公表されていますが、動物園のヤギで病原性大腸菌である腸管出血性大腸菌(EHEC)が検出され、除菌治療をやった記録が載っていました。(ただし、除菌については抗生物質の乱用との指摘あり) […]
日本では小さいお子さんに動物を1日だけでも、ただ与えていじらせれば情操教育になるという根拠不明の固定観念が広まっていますが(なんらか根拠らしきものがあるのは、家庭での飼育など長期的関与がある場合、もしくは教育的関与がある場合くらいではないで[…]
以前、「アメリカでペット販売されたハリネズミからサルモネラ感染 CDC『5歳未満に勧めない』」という投稿をしましたが、5月31日にアメリカ疾病予防管理センター(CDC)がアップデートされた情報をリリースし、サルモネラ菌に感染した人がさらに1[…]
以前にもご紹介しましたが、アメリカの疾病対策センター(CDC)は、5歳未満の子どもとエキゾチックアニマルの接触に警告を発しています。先日、毎日新聞が報道していましたが、昨年アメリカではペット販売されたハリネズミからのサルモネラ症のア[…]
先週、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、珍しいタイプのサルモネラ菌感染が全米で発生中であり、原因は飼育下のフトアゴヒゲトカゲとの接触によるものだとするレポートを公表しました。2012年2月21日から2014年4月21日までの[…]
米国疾病予防管理センター(CDC)は、現在アメリカで起きているサルモネラ感染症のアウトブレイクに、家庭で飼育されているアゴヒゲトカゲ類が関連していると警告しており、報道もされています。[blogcard url=https://ww[…]