実験室 ラット ケージ

麻布大学獣医学部で21編もの論文に不正認定。犠牲となった動物の数は2000匹以上!?

11月24日、獣医大である麻布大学が、教員による研究活動上の不正行為を認定したと公表した。

麻布大学

麻布大学の公式サイトです。「獣医」、「動物」、「健康」、「食物」、「環境」という5つの視点から、いのちが抱えるさまざまな…

なんと21本もの論文に取下げ勧告がなされており、データの改ざんや画像の使いまわしなどの捏造や、研究に関与していない者を共著者とした不適切なオーサーシップなど、多くの不正が認定されていた。

名前を挙げられたのは、獣医学部動物応用科学科所属の和久井信准教授だ。専門は、比較毒性学。

公開された文書「麻布大学における研究活動上の不正行為に関する調査結果について(概要)概要」によれば、本人は10本の論文撤回にしか同意しておらず、大学はこれからも説得していくようだが、それにしても21本は規模が大きい。

大学が過去にさかのぼって調べたために本数がふえたとは考えられるが、長年ずさんな実態があったことが伺える。実験ノートや生データがないとされたものも多かった。

不正が認定された論文は全てラットの動物実験によるものだった!

驚愕したのだが、大学が公表した報告文書には、この准教授が「熱心に実験に取り組んでいたと判断できる」と書かれていた。

しかし、それは動物実験ではないのだろうか。

PEACEでは、麻布大が公表した一覧にあった論文に当たってみたが、やはり21本すべてがラットを用いる動物実験だった。

不正調査の発端となった論文はリジェクト(掲載拒否)されており、タイトルから判断するしかなかったが、ほかは全て、アブストラクト(要旨)もしくは本文からラット使用が確認できた。

そして、使用されたラットの数を足すと、なんと2,000匹を超えていた

妊娠させたラットから生まれた子どものうち、10匹(オス5メス5)や8匹(オス4メス4)を残し、残りは殺処分する論文が複数あり、間引いた子どもの数は不明であるため正確な犠牲数は数えられないが、何とおびただしい数だろうか。

しかも、有料の論文のうちいくつかが手に入っていないため、実際には3,000匹に届くかもしれない

殺処分は、ペントバルビタールを使ったものもあったが、炭酸ガス(CO2)が使われていたものもあった。

このように多くの動物が、実験ノートや生データ残されていない研究や、見栄えをよくしようとした不正な論文、不適切なオーサーシップで箔をつけようとした論文などの犠牲になった。

このようなことが許されるのだろうか。

PEACEは昨日、和久井准教授が懲戒解雇とならないのであれば、動物実験停止の処分を行うよう、麻布大学に要望書を送付した。

大学公表文書をもとに当会で作成した一覧

近年の不正公表の中では詳しいほう?

研究不正自体の問題は大きかったが、今回の麻布大学による公表は、近年の他大学の不正調査より開示度は高かったように思う。

不正が認定された研究者の氏名公表も行われており、該当論文の一覧はもちろん、不適切なオーサーシップがあったとされた他の教授(当時)および准教授の氏名も出ている。特に元教授陣は獣医学の世界では名の知れた方々なので、氏名が出ている点は目を引いた。

論文のどの部分が捏造だったかの詳細までは公表されていないが、これは、社会的・科学的関心が集まっているわけではないので、仕方がないのかもしれない。本来は公表すべきだが、21編もあっては量が相当多くなることは想像できる。

そして、動物実験と明示はしないまでも、動物飼育歴等の言葉は出てくるので、動物実験だということを隠してはいなかった。最近の他大学の研究不正に関する調査結果公表では、明らかに動物を使ったことを隠そうとしているとしか思えないものもあり、首をかしげるばかりだ。

報告書からは、何が起きていたのかわからないところはもちろんあり、一部は質問書を送ったが(下記参照)、公表は詳しいほうであったと感じる。

それにしても、捏造・改ざん論文が公表されたままでは、その部分を信じて間違った前提で新たに動物実験を行う人が出るかもしれない。

まだ1本も撤回はされていなかったが、速やかな撤回と厳しい処分が行われることを願う。

その後についての記事

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昨年の11月24日、麻布大学から研究不正についての公表がありました。比較毒性学の和久井准教授(当時)の論文21本に、捏造・改ざん・不適切なオーナーシップ・自己盗用が認められるという内容でした。[sitecard subtitle=関[…]

麻布大学への要望及び質問書

※回答をこちらに掲載しました。

2022年12月11日

麻布大学
学長 川上 泰 殿

和久井信准教授(獣医学部動物応用科学科)の研究不正について
要望及び質問書

拝啓
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、私どもは、動物の権利・福祉の観点から活動する市民グループとして、先般、貴学から公表された和久井信准教授(獣医学部応用動物科学科・比較毒性学)の研究不正の規模の大きさに大変衝撃を受けました。

11月24日に公表された「麻布大学における研究活動上の不正行為に関する調査結果について(概要)」によれば、21編もの論文が取下げ勧告を受けているとのことですが、その全てがラットを用いた動物実験に基づく論文であることを確認いたしました。

本人は熱心に実験を行っていたとの記述もありましたが、実験ノートも残さず、論文は捏造し、何のために動物を犠牲にする実験を続けていたのか疑問です。研究倫理の問題だけではなく、動物倫理上の問題を強く感じる次第です。

このようなことが二度とあってはならないとの思いは貴学と共通であると信じておりますが、同准教授に二度と動物実験を許してはいけないとの私どもの思いをお伝えするとともに、今後の同准教授の処分について以下の要望をいたします。

【要望事項】
研究不正が認定された和久井信准教授に関し、学内処分等については就業規則等に基づき今後検討されるとのことですが、万が一懲戒解雇とならない場合は、動物実験を今後一切禁止とする処分を併せてお願いいたします。また、処分について、公表をお願いいたします。

さらに、本件の詳細につきまして疑問点などを別紙にまとめました。上記要望に関するご見解並びに質問事項につきまして、文書にてご回答をお願いしたく、何卒よろしくお願い申し上げます。

敬具

和久井信准教授(獣医学部動物応用科学科)の研究不正に関連した
質問事項

1. 現在、和久井准教授に対し動物実験実施停止の対応は行われていますか。停止が行われているとすれば、いつからですか。
動物が研究不正の犠牲になることは許されないことであり、特に、問題となる論文が1本だけではないことが発覚し、多数の論文の調査に着手した第二次本調査が開始された時点では少なくとも動物実験の実施が停止される必要があったと考えますが、そのような予防的な措置がとられていたか、教えてください。

2.不正が認定された論文のうち、本文が確認できた全ての論文で、実験動物の人道的使用とケアに関し“the National Institutes of Health and Public Health Service Policy”(国立衛生研究所(NIH)及び公衆衛生局(PHS)ポリシー)によって定められたガイドラインに従った旨が書かれていますが、これは事実ですか。事実であれば、何を意味しているのか、教えてください。
明らかに米国NIHとPHSポリシーのことを指すと感じますが、そうではなく、日本の何らかの機関のポリシーのことを指しているのでしょうか。アメリカのPHSポリシーでは、少なくとも毎年1回、NIH長官に対する報告義務等が定められていますが、麻布大学はそのような対応を行っているのでしょうか。
NIHから研究資金を得ているのでなければ、このポリシーを遵守する必要はないかと思いますが、わざわざアメリカのガイドラインに準拠した旨を定型文のように入れて書くのは、単なる箔付けではないかという疑問を感じたため、質問させていただきました。
麻布大学として、この記載をどのように解釈されているか教えてください。できれば、和久井准教授が守ったというガイドラインの文面の写しをご提供ください。

3.報告書末尾の論文一覧で、論文に調査が振られており、31番までありました。少なくとも31本の論文を第二次本調査で調査されたように感じたのですが、報告書2ページの表では22編が調査対象と書かれています。実際に調査された論文の数は何本だったのでしょうか。

4.3のご回答がいずれであったとしても、和久井准教授の業績の全てを調査したわけではないと思います。調査した論文としなかった論文をふるい分けた基準はどのようなものだったのでしょうか。

5.報告書最終頁調査No.28の論文が「in press」表記となっていますが、本年1月20日に既に公表されている“In Utero Exposure to 3,3′,4,4′, 5-Pentachlorobiphenyl Dose-Dependently Induces N-butyl-4-(hydroxybutyl) Nitrosamine in Rats With Urinary Bladder Carcinoma”(50巻3号)のことでしょうか。

6.第一次本調査の対象となった論文は公表されておらず、リジェクトされたとのことですが、タイトルが調査No.28の論文に似ています。授乳期であること(Lactational)だけがタイトルから消えていますが、他は同じことを言っているように読み取れます。

(1) つまり、和久井准教授は第一次調査が行われていることを認知しているにもかかわらず、調査対象の論文と同じ内容(もしくは一部を削るなどした内容)で新たに別雑誌に投稿したのではないかという疑問を持ちました。
そのようなことが行われていたのかどうか教えてください。(第一次調査の対象となった論文の内容は公表されていないため、外部からは同一性を確かめることができません。)

(2) もし第一次調査の対象論文のデータが、第二次調査No.28の論文と共通である場合、第一次調査が終わってから1か月余でNo.28の論文が出版されているという時系列から考えて、調査結果も待たず別雑誌へ投稿していたこと自体が疑問です。そのことが問題視されなかったのかどうか、教えてください。

(3) 逆に2論文の根拠データが同一でない場合は、不正調査が行われているにもかかわらず類似の実験を繰り返したことになり、そのことが問題です。動物実験委員会がそれを許したのかという問題になりますが、こうした不正調査と動物実験委員会の審査とはリンクしているのでしょうか。

7.調査委員会は、本件の動物倫理・福祉上の問題についてご認識されていたでしょうか。

以上、ご回答のほどよろしくお願い申し上げます。

ラットたちにも大事な命があり、喜怒哀楽がある

追記

麻布大学から回答をいただきました。別途、ブログでご報告します。

追記

公表から1年経ちますが、撤回されているのは21本中、3本だけです。詳しくはこちらをご覧ください。

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