麻布大学の研究不正公表から1年。撤回されたのは論文21本のうち3本のみ

昨年の11月24日、麻布大学から研究不正についての公表がありました。比較毒性学の和久井准教授(当時)の論文21本に、捏造・改ざん・不適切なオーナーシップ・自己盗用が認められるという内容でした。

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11月24日、獣医大である麻布大学が、教員による研究活動上の不正行為を認定したと公表した。[blogcard url=https://www.azabu-u.ac.jp/important/2022/1124_40217.html][…]

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ちょうど1年が経とうとしていますが、捏造などにより撤回が勧告された21本の論文のうち、実際に撤回に至ったことが確認できるのは、現時点で3本だけです。(一覧はこちら

しかも、撤回理由を見ると、改ざん・捏造が問題になったというよりは、不適切なオーナーシップの問題から撤回の判断がされているようです。本人は認めないため、他の連名著者に撤回の意向を確認し、ジャーナルとして判断したことが見てとれます。

また、まだ撤回されていない不正論文のうち1本は日本動物実験代替法学会の学会誌に掲載されたものであったため、当会代表個人が会員として問い合わせたところ、今年6月時点の大学からの情報として、①和久井氏本人が論文不正を認めていないこと、②麻布大は、近日中に和久井氏に再度、不正認定された全論文の取下げ勧告を通知する予定であること、③現在、麻布大では所属の外れた和久井氏と意思疎通ができず対応に苦慮していることの3点を教えてもらいました。学会としては状況を注視して対応を考えていくとのことでした。

そこで、遅くなってしまいましたが、ちょうど1年も経ったことから、麻布大学に再度の取下げ勧告の結果はどうなっているかを問い合わせました。

また、大学からの去年の回答を以下に掲載しますが、このなかで、アメリカの国立衛生研究所(NIH)及び公衆衛生局(PHS)ポリシーによって定められたガイドラインに従った旨が論文に書かれていることについては、大学側も意図がわからないとのことでしたので、論文が撤回ではなく訂正になる場合には、この部分も削除もしくは修正を行うよう求めました。

現在、回答待ちです。

麻布大学からの回答 (2022年12月19日付け)

昨年12月、麻布大学からはすぐ回答が来ており、動物実験に関する要望については、以下の答えをいただいていました。当該研究者が動物実験を行うことはないとのことだったので、ほっとしました。

今後、和久井氏が本学において動物実験を含む研究活動を行うことはありません。処分については、厳格かつ慎重に対処しておりますが、本学の関係規則に基づき公表の予定はありません。

質問及び回答

※大学からは回答のみが並んだ状態でレターをいただいていますが、わかりやすくするため、質問と回答を交互に並べました。

質問1 現在、和久井准教授に対し動物実験実施停止の対応は行われていますか。停止が行われているとすれば、いつからですか。
動物が研究不正の犠牲になることは許されないことであり、特に、問題となる論文が1本だけではないことが発覚し、多数の論文の調査に着手した第二次本調査が開始された時点では少なくとも動物実験の実施が停止される必要があったと考えますが、そのような予防的な措置がとられていたか、教えてください。

和久井氏に対し、調査を開始した2021年8月以降は、科学研究費助成事業の経費執行停止や所属研究室への立入り制限を行い、実質的に研究活動が行えない措置を講じました。

質問2 不正が認定された論文のうち、本文が確認できた全ての論文で、実験動物の人道的使用とケアに関し“the National Institutes of Health and Public Health Service Policy”(国立衛生研究所(NIH)及び公衆衛生局(PHS)ポリシー)によって定められたガイドラインに従った旨が書かれていますが、これは事実ですか。事実であれば、何を意味しているのか、教えてください。
明らかに米国NIHとPHSポリシーのことを指すと感じますが、そうではなく、日本の何らかの機関のポリシーのことを指しているのでしょうか。アメリカのPHSポリシーでは、少なくとも毎年1回、NIH長官に対する報告義務等が定められていますが、麻布大学はそのような対応を行っているのでしょうか。
NIHから研究資金を得ているのでなければ、このポリシーを遵守する必要はないかと思いますが、わざわざアメリカのガイドラインに準拠した旨を定型文のように入れて書くのは、単なる箔付けではないかという疑問を感じたため、質問させていただきました。
麻布大学として、この記載をどのように解釈されているか教えてください。できれば、和久井准教授が守ったというガイドラインの文面の写しをご提供ください。

ご指摘の記述について、和久井氏が論文に記載した意図は、本学としても不明です。本学における動物実験については、「麻布大学動物実験規程」、「動物の愛護及び監理に関する法律」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」、「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」、「動物の殺処分方法に関する指針」その他の法令等に定めがあるものを基に実施しております。なお、和久井氏の動物実験計画書は、動物実験委員会で審査をされており、適切な手法で実験が実施されたことは確認されています。

質問3 報告書末尾の論文一覧で、論文に調査が振られており、31番までありました。少なくとも31本の論文を第二次本調査で調査されたように感じたのですが、報告書2ページの表では22編が調査対象と書かれています。実際に調査された論文の数は何本だったのでしょうか。

実際に調査した論文数は22編です。予備調査において、和久井氏がファーストオーサー又はコレスポンディングオーサーではない論文も含めて通し番号を振っていたため、番号が多くなっているものです。

質問4 3のご回答がいずれであったとしても、和久井准教授の業績の全てを調査したわけではないと思います。調査した論文としなかった論文をふるい分けた基準はどのようなものだったのでしょうか。

調査対象とした基準は、和久井氏が所属研究室の主宰となった2002年以降に投稿した論文のうち、ファーストオーサー又はコレスポンディングオーサーである論文となります。

質問5 報告書最終頁調査No.28の論文が「in press」表記となっていますが、本年1月20日に既に公表されている“In Utero Exposure to 3,3′,4,4′, 5-Pentachlorobiphenyl Dose-Dependently Induces N-butyl-4-(hydroxybutyl) Nitrosamine in Rats With Urinary Bladder Carcinoma”(50巻3号)のことでしょうか。

No28の論文は、ご認識のとおりの論文となります。調査時には出版前だったため、「inpress」の表記としております。

質問6 第一次本調査の対象となった論文は公表されておらず、リジェクトされたとのことですが、タイトルが調査No.28の論文に似ています。授乳期であること(Lactational)だけがタイトルから消えていますが、他は同じことを言っているように読み取れます。

(1) つまり、和久井准教授は第一次調査が行われていることを認知しているにもかかわらず、調査対象の論文と同じ内容(もしくは一部を削るなどした内容)で新たに別雑誌に投稿したのではないかという疑問を持ちました。
そのようなことが行われていたのかどうか教えてください。(第一次調査の対象となった論文の内容は公表されていないため、外部からは同一性を確かめることができません。)

第一次本調査における不正認定論文と第二次本調査におけるNo28の不正認定論文は、ご賢察のとおり、ほぼ同一内容を別雑誌に投稿したものと認識しております。

(2) もし第一次調査の対象論文のデータが、第二次調査No.28の論文と共通である場合、第一次調査が終わってから1か月余でNo.28の論文が出版されているという時系列から考えて、調査結果も待たず別雑誌へ投稿していたこと自体が疑問です。そのことが問題視されなかったのかどうか、教えてください。

本学としてもこのことは第二次本調査時に判明しており、問題視をいたしました。
論文の不正認定にあたっては、各論文における不正内容から判断いたしました。なお、論文投稿は研究者が各自で行うものであるめ、大学が把握できるのは論文が公表されてからになります。

(3) 逆に2論文の根拠データが同一でない場合は、不正調査が行われているにもかかわらず類似の実験を繰り返したことになり、そのことが問題です。動物実験委員会がそれを許したのかという問題になりますが、こうした不正調査と動物実験委員会の審査とはリンクしているのでしょうか。

2論文の根拠データは、ほぼ同一のものです。基となる実験は、過去に実施されたものであると和久井氏から証言がありました。また、研究活動上の不正行為における調査では、規程により秘密保護義務があるため、調査中は動物実験委員会の審査とはリンクしておりません。

質問7 調査委員会は、本件の動物倫理・福祉上の問題についてご認識されていたでしょうか。

調査委員会は、研究活動上の不正行為(捏造、改ざん、盗用等)についての調査を行ったものであり、動物倫理・福祉上の観点での調査でないことをご理解ください。
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