以下の学会等の雑誌投稿規定に、研究が動物実験である場合は、1980年の学術会議決議による「実験動物取扱い指針」に従うよう書かれています。
また下記の学会は完全に間違えているかとは思いますが、現・環境省の飼養保管基準のことか?と思われる名称を記載し、それが1980年の学術会議決議だと補足しています。(1980年に旧・総理府が告示「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」を策定していますが、3 月27日付けです。学術会議の勧告はそれより後に出されており、同一のものではありません)
しかし、1980年といえば、昭和55年です。動物実験に関する批判が国際的にも高まり、日本も指針を策定するよう日本学術会議が勧告を行ったことは事実ですが、当時の文部省が局長通知を出すだけで終わりました。それも昭和62年にです。その後、2006年に改正動物愛護法が施行されるまで、動物実験委員会すらなかった研究機関もありました。
しかし、上記の学会は日本学術会議の決議による「実験動物取扱い指針」に従うよう投稿規定を定めています。
日本学術会議のウェブサイトにも1980年7月14日付けの勧告「動物実験ガイドラインの策定について」が掲載されていますが、指針の本文と思われるものが添付されており、これを指しているものと思われます。
さらに、上記の学会のうちいくつかは、指針の名称の後ろに「(以後の改定を含む)」と書いていました。あまりに古い投稿規定が改訂されないままきているとは感じましたが、現在日本学術会議が出している「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」が上記指針の改訂版の位置づけであれば、投稿規定の修正まで求めることはできないかもしれません。
現「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」も各機関の動物実験規程の雛形として提示されているものであって、学会がそのまま依拠するのはおかしいようには思うのですが、日本学術会議にこの2つのバージョンの関係について問い合わせを行ってみました。
また、その他の学会が言及する国の指針等にばらつきがあることも気になっており、学術会議として各学会が依拠すべき指針は何が最もふさわしいと考えているのかも質問しました。
日本学術会議への質問内容
1.現在では、各動物実験実施機関が策定する指針のひな型として「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」が公表されていますが、1980年の「実験動物取扱い指針」は廃止となったものでしょうか。それとも、「実験動物取扱い指針」の改正がなされて「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」となったものでしょうか。もしくは、両方が生きているのでしょうか。その場合は位置づけの正確な違いについて教えていただけないでしょうか。
2.動物実験の倫理規定として各学会が依拠すべき指針は何が最もふさわしいと日本学術会議ではお考えでしょうか。
学会ごとに定めるべきとお考えなのか、文部科学省・厚生労働省の指針によるべきとお考えなのか、あくまで各機関の規程で十分なのか、見解をお聞かせください。
ご回答の程、よろしくお願い申し上げます。
日本学術会議からの回答(全文)
- 問い合せにある「1980年の日本学術会議決議による『実験動物取扱い指針』」は存在しない。日本学術会議は、日本学術会議第80回総会の議決に基づき、昭和55年(1980年)11月5日に内閣総理大臣宛に「動物実験ガイドラインの策定について(勧告)」を勧告している。同勧告は「動物実験ガイドライン草案」を付して、政府にガイドライン策定を求めている。この勧告は、その通りに実現されることはなかったが、文部科学省、厚生労働省の指針作成に繋がった。
- ガイドラインとしては、平成18年(2006年)6月1日に日本学術会議が公表した「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」が唯一のものである。同ガイドラインは、文部科学省および厚生労働省の依頼により、「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(平成18年6月1日文科学省告示第71号)、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」(平成18年6月1日厚生労働省大臣官房厚生科学課長通知)及び「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(平成18年4月28日環境省告示第88号)を踏まえて、日本学術会議が各研究機関が動物実験等に関する規定等を整備するに際してモデルとなる共通ガイドラインを作成したものである。
2に対する回答
- 動物実験等の適正な実施に資するため、各省が基本指針を定め、研究機関等の長に規程の策定等の基本指針を遵守する責務があることを明記している。
- 1に対する回答で記したように、基本指針を踏まえて各研究機関等が動物実験等に関する規程等を整備するに際してモデルとなる共通ガイドラインとして、日本学術会議が「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を公表しているものである。
- 例えば、文部科学省の「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」には、以下のように定められている。
第2 研究機関等の長の責務
1研究機関等の長の責務
研究機関等の長は、研究機関等における動物実験等の実施に関する最終的な責任を有し、動物実験委員会の設置、2に規定する機関内規程の策定、動物実験計画の承認、動物実験計画の実施の結果の把握その他動物実験等の適正な実施のために必要な措置を講じること。 - 厚生労働省の「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」及び農林水産省の「農林水産省の所管する研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」も、同様の内容を定めている。
- 環境省が定めた「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」においても、管理者(研究機関の長等の実験動物の飼養又は保管に関して責任を有する者を含む。)の責務を明記している。
以上
回答は以上です。つまり、先述の学会が投稿規定に記している「1980年の日本学術会議決議による『実験動物取扱い指針』」は、これまで存在したことはないということになります。
そうすると、今まで存在したことのない指針への準拠を求めている学会の動物倫理に対する取り組みというのは、実体があるのでしょうか? 大変疑問です。
この回答をもとに、これらの学会に対し、投稿規定改定を求める要望書を本日送付する予定です。
※2016.06.01追記 日本組織適合性学会への要望書をこちらにアップしました。