動物実験において、医薬品として製造されていない試薬や工業用の化学物質等を動物の苦痛除去に用いることは国際的にも許されなくなってきています。
この最たる例として挙げられるのがエーテル(ジエチルエーテル)ではないでしょうか。簡便に使えるために、吸入麻酔や安楽殺の手段として広範囲に使われてきていますが、気道への刺激などの副作用が報告されており、動物福祉の観点から、使用を継続することは問題だと思います。そもそも引火性があるので、安全性の意味でも適切な薬剤とは言われてきませんでした。(下記引用参照)
とはいえ、多くの機関で用いられ続けているのが実態ではないかと思いますが、このたび東京大学からエーテル使用を禁止とするよう「東京大学動物実験実施マニュアル」補遺を改正したとのご連絡をいただきました。
記載上は「原則禁止」であり、移行に時間的猶予が与えられているようですが、当会が安楽殺に関する詳細な規定を情報公開請求し、今年1月に手に入れた時点では使用可となっていましたので、大転回です。その後、改正が行われていたとのことでした。
他の複数の大学の動物実験委員会の議事録には、エーテルを禁止までしている大学はないかのような発言の記録が残っているのですが、東北大学も既に施設への持ち込み自体が禁止とのことですから、今後は他の大学も認識を改めていっていただきたいと思います。
「安易な解剖実習は止める」というのも一つの対応策ではないでしょうか。
ちなみに、東京大学に対しては、下記2点についても改正をお願いをしていますが、今年度中に対応いただけるとのことでした。
- げっ歯類の炭酸ガスによる安楽死の方法としてドライアイスが使用可となっていること
- げっ歯類以外の動物(霊長類、大動物等)の安楽死法として炭酸ガスが可となっている表が残っていること
いずれも現状、実験計画書の審査では使用例がないようですので、ほっとしました。
エーテルに関して言われていること
ジエチル エーテル(エーテル)吸入麻酔
本剤は吸入 麻酔法が発見された時に用いられた歴史的に麻酔学上極めて重要な薬剤である。多くの吸入麻酔薬の作用機序等は本剤を中心に研究されてきた。
しかし、本剤は引火性があること気道刺激、それにともなう気道分泌物過剰および喉頭痙攣などの副作用があることが報告された。欧米の最近の専門教科書では本剤による吸入麻酔は不適切であるとしている(Fish et al 2008, Flecknell 2010)。これらの短所を克服すべく、ハロセン、 セボフルレン、イソフルレンなどが新たに開発され、臨床的には十分普及している。またその薬理作用なども十分研究がすすんでいる。
臨床的に使用されなくなったためもあり、本剤は麻酔薬としては既に市販されていない。試薬、工業用薬品として販売されているが、それらについては労働安全衛生法、消防法などにより規制されている。
麻酔に医薬品以外を用いることは倫理的に許されない。また麻酔が苦痛の軽減のためであれば、健康被害が知られている化学物質を麻酔の目的に使用することは適切ではない。(大阪大学「実験動物の不適切な麻酔方法」より)
エーテルは血中溶解度が高く導入が遅い、また眼や鼻腔への刺激性があり,引火性を有する爆発性吸入麻酔薬であるため、安楽死に使用することは推奨されない。吸入麻酔薬を使用するのであれば、イソフルランなど他の吸入麻酔薬を使用することが推奨される。(「公私立大学実験動物施設協議会アドバイザー委員会会員校からの質問およびそれに対する回答例」(現在リンク切れ)より)
エーテルの使用だけで論文がリジェクトされた例もあるそうです!