フランスの水族館、マリンランド・アンティーブが1月5日、閉園しました。シャチやイルカの行き先が決まっていないこと、シャチの行き先として日本を阻止できたことについて、ようやく日本語でも報道がありました。
フランス南部カンヌ近郊の水族館が閉園に追い込まれ、人気者のシャチ2頭など動物たちの行き先をめぐって激しい論議が巻き起こっ…
この記事だけで知った人たちが、保護団体の提案は海にダイレクトにシャチやイルカを放流するものだと勘違いしている向きも感じますので、昨年、フランス政府の「環境・持続可能な開発監査局(IGEDD)」がベストな選択として選んだカナダの「ホエール・サンクチュアリ・プロジェクト」のサンクチュアリについて、ご紹介したいと思います。
IGEDDの勧告については、昨年こちらの記事でご紹介しましたが、この報告書で比較検討された保護団体からの提案には、シーシェパード・フランス等を含む複数の保護団体からの5つの提案が含まれていました。海洋に大きな生簀を作るものから、マリンランドの施設を譲り受けて自分たちが管理する案まで様々なものがあり、それらの中から資金面の調達等の要件がクリアされればベストとして選ばれたのが「ホエール・サンクチュアリ・プロジェクト」になります。
2024年11月26日、フランスの大臣が、マリンランドの2頭のシャチたちを日本に輸出することに反対すると公表しました! この成功をもって、署名は終了となっています。皆さま、ご協力をありがとうございました! 詳しくはこちらをご覧ください。[…]
ホエール・サンクチュアリ・プロジェクト~水槽からの解放と自然の海での終生飼育
The Whale Sanctuary Project(サイトは英語です)
https://whalesanctuaryproject.org/
Creating a model seaside sanctuary where captive whales and …
ホエール・サンクチュアリ・プロジェクトは、イルカやシャチを狭いコンクリートの水槽から解放し、可能な限り自然の生息地に近い環境の海で終生飼育するサンクチュアリ(疑似自然保護区)を建設しています。
ホエールサンクチュアリはカナダのノバスコシア州ポートヒルフォード湾にあり、2025年に鯨類を受け入れることを目標としています。受け入れの対象となるのは水族館から引退した鯨類や、負傷したり座礁したり、捕獲された鯨類などです。場合によってはケアの後に海にリリースもありえるでしょう。
水族館に監禁されていたイルカやシャチが生息していた海に戻り、もとの群れに合流することができればそれが望ましいのですが、捕らえられてから長く水槽に閉じ込められていたり、外海での生活の経験がない場合、すべてが野生に戻れるわけではありません。
サンクチュアリでは科学者や専門家の日々の観察やケアと医療を受けることができるので、生涯にわたり保護されて暮らすことができます。イルカやシャチの幸福が最優先されるので、人間を楽しませるためのショーやふれあいはありません。そして飼育される動物はなくしていくべきだという考えから、繁殖も行われません。
ホエールサンクチュアリのネットで囲まれた保護海域は100 エーカー(約404,685m²)以上、最大水深は18mあり、保護されたイルカまたはシャチは海底を探検したり、潮の流れや波を感じたり、魚や海鳥に出会ったりと、変化に富んだ生活を送ることができます。無機質、殺風景でコンクリートを青く塗装した、波を感じることすらできない水族館の塩素入りの狭い水槽とは大きな違いです。
この保護海域は季節ごとに微生物、水圧、温度などが2年間にわたり分析され、陸上と海底の土壌と岩石も調査されました。
サンクチュアリで心身ともに健康になり、より自然な行動を取り戻したイルカやシャチたちは、科学者や専門家の研究を進歩させ、鯨類の科学と理解を深めることができるでしょう。狭い水槽の中で不健康でストレスに苦しむ、本来の姿ではないイルカで行うよりも進んだ研究ができるのです。
ウィキーとケイジョの受け入れ先として
2025年1月5日にフランスのマリンランド・アンティーブが閉館されました。マリンランドにいた2頭のシャチ、母親のウィキーと息子のケイジョの受け入れ先の候補として保護団体側が挙げているのが、このカナダのホエール・サンクチュアリ・プロジェクトのサンクチュアリです。ホエール・サンクチュアリ・プロジェクト側もこの2頭のシャチの受け入れに積極的です。
スペインのロロパルケ(ロロパーク、 Loro Parque)も受け入れ先の候補にあがっていますが、シャチショーやイルカショーが行われている娯楽施設で、ウィキーとケイジョがまた狭い水槽に閉じ込められることには変わりありません。
カナダまで長距離輸送になってしまいますが、自然の生息環境に近い海で保護されるホエール・サンクチュアリ・プロジェクトが彼らの今後の生活には最適といえるでしょう。
ホエール・サンクチュアリ・プロジェクトのメンバーは実績のある専門家たち
ホエール・サンクチュアリ・プロジェクトがより最適であるもう一つの理由は、海洋哺乳類の科学者や、シャチのリハビリの経験のあるメンバーなど、あらゆる面での専門家がそろっていることです。
会長のロリ・マリノ博士は神経科学者で、動物の脳と行動の専門家です。シャチショーへの抗議をさらに高めた 『ブラックフィッシュ(Blackfish)』 などの鯨類のドキュメンタリーにも出演しています。また、理事のナオミ・ローズ博士も著名な海洋哺乳類の科学者で、捕らわれた18頭のシロイルカのドキュメンタリー『自由を求めて Born to be Free』に出演しています。
そして映画『フリー・ウィリー』の撮影に使われたシャチのケイコをリハビリし、故郷のアイスランドの海に戻したプロジェクトのメンバーもいます。
ケイコはまだ幼いうちにアイスランドで捕獲され、故郷の海よりも高温で劣悪なメキシコの水槽で、運動不足や皮膚病、胃腸や心臓の不調、そして孤独に苦しみました。1993年に公開された映画『フリー・ウィリー』にケイコがウィリー役で出演すると、「ウィリーは水族館から海に戻れたのに、ケイコは戻れないの? ケイコを海に帰したい!」という声が高まりました。
子どもたちの募金運動など、ケイコを救いたいという声はさらに高まり「フリー・ウィリー・ケイコ基金」が立ち上がりました。数々の困難とリハビリを経て、体力と健康を取り戻したケイコは19年ぶりに故郷のアイスランドの海に戻ることができたのです。(映画『フリー・ウィリー』はケイコとシャチのロボットで撮影されており、両胸びれの付け根に皮膚病のイボがあるのがケイコです。ケイコという名前ですがオスのシャチです。)
ホエール・サンクチュアリ・プロジェクトの理事であり会計を務めるデイビッド・フィリップスはこの時の「フリー・ウィリー・ケイコ基金」の会長です。
ナオミ・ローズ博士や事務局長のチャールズ・ヴィニック、ジェフリー・フォスターなど、ホエール・サンクチュアリ・プロジェクトにいる他数名のメンバーが当時のケイコ解放のプロジェクトに関わっていました。
ケイコは1998年に故郷のアイスランドの海に戻り、保護海域でのさらなるケアやトレーニングの後に、やがて野生の群れに合流したり自力で魚をとったりしていたとされています。しかし、残念ながら2003年に亡くなってしまいました。ケイコの死は痛ましいことですが、シャチを狭いコンクリートの水槽やショーから解放し、シャチの尊厳を取り戻すための努力と願いは今日まで続いているのです。
保護と敬意の対象に、そして希望へ
サンクチュアリでは、イルカやシャチは自然な環境のなかで保護され、終生飼育されますが、水族館の水槽から海までの道のりは容易ではありません。例えば、海にはない雑菌もある水族館の水槽で感染症を患っていた場合、そのまま海に戻すと海の環境にも影響してしまいます。健康状態と行動の分析、治療やリハビリ、移動までの準備とリハーサルなど、イルカやシャチの安全のために入念な準備が行われます。
ホエール・サンクチュアリ・プロジェクトは、マイアミのシークアリウムの狭く劣悪な水槽に52年間もとらわれていたシャチのトキタエ(シークアリウムではロリータと呼ばれていた)を、故郷のセイリッシュ海の保護海域に解放して、ケアを受けながら余生を送るための計画を進めていました。しかし、悲しいことにトキタエはその計画が実現する前に亡くなってしまいました。2023年のことでした。
監禁生活が長すぎたトキタエはサンクチュアリへの解放がかなわず、無念でなりません。それだけにウィキーとケイジョがホエール・サンクチュアリ・プロジェクトのサンクチュアリに解放されることを強く願います。それは海の生き物の娯楽消費から、保護と敬意の対象へと人々の意識を変え、いまなお水槽に監禁されている多くのイルカやシャチたちにとって希望となるでしょう。
In August 1970, when she was just four years old, the orca c…
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『フリー・ウィリー』予告編(英語)