2013年に公開され、アメリカ「シーワールド」の経営に打撃を与えたことで知られるドキュメンタリー映画『ブラックフィッシュ(Blackfish)』。日本未公開ですが、Amazon Prime Video で日本語字幕版を見ることができます。
👉ブラックフィッシユ:「殺人シャチ」と呼ばれた黒き悲しき生物(字幕版)
映画は、フロリダ州オーランドにあるシーワールドからの救急通報音声から始まります。オスのシャチである「ティリクム」がベテラン調教師であったドーン・ブランショを襲い、彼女は死亡しました。
ティリクムが人を殺したのは、おそらく3人めです。
野生では人を襲うことがないとされるシャチが、なぜエンターテイメント業界では対人事故を起こし続けるのか。
まだ子どもだった頃に捕獲され、母親や仲間、自然の海など、シャチに必要なあらゆるものから隔離されたティリクムの悲しい生涯が、インタビューや過去の映像を交え、語られます。
シーワールドなどが行ってきたシャチ狩りでは、爆弾を海に投げ、シャチたちを船で追い込み、体の小さい子供だけを捕獲します。このシャチ狩りに関わった男性が、それがどれだけ酷い蛮行であったかを語るインタビューや、引き離されるシャチたちの出す悲壮な声に、胸が押しつぶされそうになります。
そしてティリクムは、最初に飼育されたエンターテイメント施設の極小の水槽の中で、大人のシャチたちから攻撃され、体じゅうに傷がつくような状態でした。狭い水槽の中で、けんかや小競り合いなどがおきたとき、シャチやイルカには逃げ場がありません。
この施設でもアルバイトの学生が、シャチに水中に沈められ死亡しています。この施設の廃業により、ティリクムはシーワールドに移されますが、このときの死亡事故がティリクムによるものだったことは、調教師たちには伏せられていました。
シーワールドは、野生のシャチの寿命を実際の半分程度であるかのように説明し、飼育下だと背びれがまがってしまうことについても観客に虚偽の説明をしているのですが、それだけでなく、従業員であるトレーナーたちも騙していたわけです。
映画では、過去にシーワールドで働いていたトレーナーたちがインタビューに応じており、当時、動物との絆だと思っていたことについても異なる考え方をするようになったことなどが語られます。
1日に160kmも大海を泳ぐシャチは野生動物であり、集団で連携して狩りをします。彼らには、彼らの社会や感情があります。水族館で飼育することや、ショーの調教をすることの是非について、考えさせる映画であることは間違いありません。
ショーの芸の調教は食餌を制限することによって行っており、ドーン・ブランショの事故が起きた際も、ティリクムが人が望むタイミングで芸を止めなかったことで、餌である魚をもらえなかった直後でした。
ドーン・ブランショの死亡に関連し、アメリカ労働安全衛生庁(OSHA)はシーワールドに罰金を命じていますが、シャチのいるプールの中にトレーナーが入らないようにということも命じていました。
この映画の影響により、2014年には、シーワールドを経営するシーワールド・エンターテインメント社の業績見通しも下方修正され、株価が大幅安となったことが報じられています。
2016年、同社はシャチの繁殖とショーの中止を公表。
そして、2017年1月6日、ティリクムは細菌感染により死亡しました。1983年に捕獲されてから、34年間の囚われの人生でした。
人類は、いつ、この愚かな虐待を終らわせるのでしょうか。
まだ新しいシャチの施設をつくろうとしている日本でこそ、広く見られるべき映画です。
Amazon Prime Video
- レンタル 299円(48時間視聴可能)
購入 1500円(HD高画質) - 監督:ガブリエラ・カウパースウェイト
- 1時間23分、全年齢対象
公式トイレイラー
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