日本では? 化粧品成分と動物実験


2013年、EUでは化粧品の動物実験の完全禁止が実現しました。では日本では、化粧品の動物実験に関する制度は、どのようになっているのでしょうか。
ここで一つ注意しなければいけないのは、EUの法律上の「化粧品」には、日本の法律上の「化粧品」と「医薬部外品」の両方が含まれているということです。欧米には医薬部外品というカテゴリはなく、「化粧品」か「医薬品」のいずれかしかありません。日本ではこれが、医薬品医療機器等法(旧薬事法)のもとに「化粧品」「医薬部外品」「医薬品」の3つに分かれています。
ですから、日本では、医薬部外品を含めた化粧品の動物実験を求めていかなければならず、一段高いハードルがあるとも言えます。
化粧品は動物実験せずに新製品を開発できます
化粧品は、医薬品医療機器等法(旧薬事法)上の規制を受けていますが、日本でも、新しい化粧品を製造・販売する際に、基本的には動物実験は求められていません。2001年に旧薬事法が改正され、化粧品には全成分表示が義務づけられるとともに、事前承認制度はなくなり、メーカーは自らの責任において安全性を証明すればよいことになりました。(資生堂も、安全性の確認手法を独自に確立したため、動物実験を止めるとプレスリリースに書いています)
つまりそれまでは、化粧品に使われたことのない成分を化粧品に使う場合には動物実験が求められてきたのですが、現在はこの改正により、新規成分であっても動物実験は不要となっています。
ただし、現在でも防腐剤、紫外線吸収剤、タール色素に関しては、使ってよい成分や量が「化粧品基準」の中で決められており(ポジティブリスト)、これを改正して新規成分を使いたい場合などには、動物実験が求められてきます。
ボジティブリスト収載要領について (平成13年3月29日 厚生労働省厚生労働省医薬局審査管理課長通知)
2001年に旧薬事法が改正されてからこれまで、どのような企業が動物実験のデータをつかって基準改正の申請を行ってきたか、その際何匹くらいの動物が犠牲となったかについては、こちらのページをごらんください。
医薬部外品もすべての製品に動物実験が必要なわけではありません
いわゆる化粧品のうち「しみ・そばかすを防ぐ」「育毛」「薬用」など、効能・効果をうたえるものが薬用化粧品といわれるもので、法律上は医薬部外品に分類されます。
これらの医薬部外品を販売するためには製品ごとの承認申請が必要で、これまで薬用化粧品には3つの区分があるだけでしたが、旧薬事法の改正に伴って、平成26年11月25日から区分が下記のように変更になりました。すべての医薬部外品に対して動物実験が行われているわけではなく、この中で必ず動物実験が必要になるのは区分1、部分的もしくは場合により必要になるのは区分(2)-2~5と区分(3)です。
年間2千件近い承認数のうち、ほとんどを占めるのは、動物実験の要らない区分(4)と区分(5)-1の製品です。医薬部外品であっても、新製品のほとんどは実は動物実験は必要ないのです。

“注)原則として、○は添付を×は添付の不要を△は個々の医薬部外品により判断されることを意味する。
×が付されている資料であっても、個々の品目の申請内容に応じて、添付が必要となる場合がある。
医薬部外品等の承認申請について
平成26年11月25日
ちなみに、薬事法が医薬品医療機器法に変更になる前の旧区分は以下の通りで、動物実験が要求される可能性があるのは区分1と区分3でした。
旧区分1……既承認のものと異なる成分・用法
旧区分2……既承認のものと同一性が認められるもの
旧区分3……新規成分配合、有効成分増量など
厚生労働省によると、動物実験が行われていた申請の件数は、平成23年度は38件とのこと。(平成24年5月15日開催の「化粧品の動物実験を考える院内集会」資料より)
また、平成24年度には、申請ベースでは区分1は3件、区分3は69件申請がありましたが、区分3はこの全てに動物実験がされているわけではありません。この年の承認数は、区分1は0件、区分3は39件で、この39件のうち動物実験がされなかったものが24品目、動物実験がされたものが15品目でした。さらにその15件のうち、化粧品は12品目で、化粧水3品目、クリーム6品目、リンス1品目、育毛剤2品目でした。全体の承認数が1,968件だったので、動物実験が行われた品目は0.6%だけ。今でもすぐ、動物実験は止められるのです。(平成26年5月13日開催のヒューメイン・ソサエティ・インターナショナルの議員向け勉強会資料)
特に区分1は、カネボウのロドデノール以降開発意欲が落ちており、ほとんど開発されていないだろうといわれています。現在は、効能のためではなく、新たな添加剤のために動物実験が使われていることが多く、それも消費者のナチュラル志向によって「○○エキス」などが多い傾向にあると言われています。実際の効果というよりは、商品のイメージアップのために、動物実験が行われている実態があります。
どのような動物実験が求められているか
平成18年、厚生労働省が「医薬部外品の製造販売承認申請及び化粧品基準改正要請に添付する資料に関する質疑応答集(Q&A)」を出し、その中で、必要な安全性試験と、その代替法として使える試験法について初めて目安を示しました。また、JaCVAMが行政に代替試験法を順次提案して行っており、OECDで認められた試験法と合わせ、それらの試験法が使えるようになってきています。しかしそれだけでは行政的受け入れが進まなかった現実もあり、日本で動物実験の代替をより推進するためのガイダンスを順次厚生労働省が発出しています。
平成30年に出された新しいQ&Aでは、以下のような試験が必要な試験として挙げられており、その代替試験法やガイダンスについても触れられています。(必ずこれらの試験が必要といったものではなく、必要に応じた試験の実施が求められています)
【単回投与毒性試験】
通常1種のげっ歯類(TG420,423,425)。
反復投与毒性試験を経口投与で行っていて急性毒性を評価できる場合は省略可。
初回投与量の設定法として、細胞毒性試験。
【反復投与毒性試験】
通常1種のげっ歯類(TG407~411)。投与期間は90日以上。
【遺伝毒性試験】
細菌を用いる復帰突然変異試験、in vitro分裂中期での染色体異常試験または
in vitro小核試験、またはマウスリンフォーマTk試験。
これらで毒性が認められる場合、動物実験(TG474,475,488,489など)。
【がん原性試験】
がん原性の懸念がある場合のみ。動物実験(TG451)。
【生殖発生毒性試験】
動物実験(TG414,416,421,422,426,443)。
【皮膚一次刺激性試験】
ウサギ(TG404)。
【連続皮膚刺激性試験】
ウサギ。
【眼粘膜一次刺激性試験】
代替試験法であるICE法、BCOP法、STE法、RhCE法。
動物実験で行う場合はウサギを用いる改良されたドレイズテスト(TG405)。
鎮痛剤の利用などについて厚労省が出した留意事項はこちら。
ふつう、動物実験では被験物質以外の薬剤の影響は避けるため、苦痛除去のための薬は使われませんが、ドレイズテストでは例外的に利用が認められるようになりました(詳しくはこちら)。しかし、動物が重篤な苦痛を示した場合や眼に傷害を起こした場合はその時点で安楽殺します。またいずれにしても、最終的には安楽殺です。
人間とまぶたや角膜、涙の量など異なるウサギでテストすることは信頼性に欠けるという批判もあります。早くから代替法開発が行われてきましたが、現在でも完全な置き換えはできていません。
【眼粘膜連続刺激性試験】
ウサギを用いる改良されたドレイズテスト(TG405)。
鎮痛剤の利用などについて厚労省が出した留意事項はこちら。
【口腔粘膜一次刺激性試験】
ラット、モルモット等。
【皮膚感作性試験】
代替試験法として、動物を用いるLLNA法、LLNA:DA、LLNA:BrdU-ELISA法⇒
動物を用いないDPRA、KeratinoSens、h-CLATによるボトムアップ3 out of 3
TG406,429,442A~E。
マウスの耳に塗布して、解剖後にリンパ節を調べる代替法がありますが、日本はなかなか切り替えが進みませんでした。さらに、今は動物を用いない代替法の採用が進みつつあります。
【光毒性試験】
代替試験法としてin vitro 3T3 NRU光毒性試験、ROSアッセイ。
動物実験の場合はウサギ、モルモット等。
【吸収・分布・代謝・排泄】
動物実験(TG427,428,SCCS/1358/10)。皮膚に使う場合、経皮吸収試験。
ただし、このリストのすべての実験が必ず必要というわけではなく、化学物質の特徴や目的、これまでの知見などにより、行われない実験、追加で行われる実験はあります。また、これらの試験にプラスして、人間の被験者によるヒトパッチテストが必要です。皮膚に使う製剤等の場合、ヒト長期投与(安全性)試験も求められるようになりました。
実際にはどんな試験が行われている?
実際の申請内容の概要をご覧になりたい方は、以下のページから各成分のページへ行き、PDFファイルをごらんください。ただし、開発段階で効能・効果について研究するための動物実験などは表には出てきませんので、申請分だけが化粧品の動物実験とは限りません。
日本で今使える動物実験代替法
行政的受け入れができている動物実験代替法については、逐次JaCVAMのホームページにアップされています。
また、代替法の利用については、厚生労働省が以下のQ&Aおよびガイダンスを出しています。(苦痛を軽減させる方法への改善など、広い意味での代替法を含みます)
- 医薬部外品・化粧品の光安全性試験評価体系に関するガイダンスについて
令和4年10月27日 - 医薬部外品・化粧品の安全性評価における皮膚刺激性評価体系に関するガイダンスについて
令和3年4月 2 2 日 - 医薬部外品・化粧品の単回投与毒性評価のための複数の安全性データを組み合わせた評価体系に関するガイダンスについて
令和3年4月 2 2 日 - 医薬部外品・化粧品の安全性評価における眼刺激性試験代替法としての再構築ヒト角膜様上皮モデル法(RhCE法)に関するガイダンス
令和元年年6月24日 - 医薬部外品・化粧品の安全性評価における眼刺激性試験代替法としてのウサギ角膜由来株化細胞を用いた短時間暴露法(STE法)に関するガイダンスについて
平成30年12月18日 - 医薬部外品・化粧品の安全性評価のための複数の皮膚感作性試験代替法を 組合せた評価体系に関するガイダンスについて
平成30年1月11日 - In vitro皮膚透過試験(In vitro経皮吸収試験)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に資するためのガイダンスについて
平成28年11月15日 - 眼刺激性試験代替法としてのニワトリ摘出眼球を用いた眼刺激性試験法(ICE)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に資するためのガイダンス」について
平成27年11月16日 - 事務連絡「眼刺激性試験を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するための留意事項について」
平成27年2月27日 - 事務連絡「眼刺激性試験代替法としての牛摘出角膜の混濁および透過性試験法(BCOP)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に資するためのガイダンス」について
平成26年2月4日 - 事務連絡「皮膚感作性試験代替法(LLNA:DA、LLNA:BrdU-ELISA)を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンスについて」
平成25年5月30日 - 事務連絡「皮膚感作性試験代替法及び光毒性試験代替法を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンスについて」
平成24年4月26日 - 事務連絡「医薬部外品の承認申請資料作成等における動物実験代替法の利用とJaCVAMの活用促進について」
平成23年2月4日
●添付資料に関する国の見解
下記のQ&Aで代替試験法等に関する国の見解が詳細に示されています。
(新しいものから上に並んでいます)
事務連絡「医薬部外品の製造販売承認申請及び化粧品基準改正要請に添付する資料に関する質疑応答集(Q&A)について」
平成 30 年3月 29 日
事務連絡「化粧品基準及び医薬部外品の製造販売承認申請に関する質疑応答集(Q&A)について」
平成28年3月30日
※この事務連絡が出たときに平成26年6月13日の事務連絡が廃止されました。
事務連絡「医薬部外品の製造販売承認申請に関する質疑応答集(Q&A)について(その2)」
平成27年8月26日
※主に区分に関するQ&Aです。これが出たときに平成18年事務連絡のQ&AのQ23が廃止されました。
事務連絡「医薬部外品の製造販売承認申請に関する質疑応答集(Q&A)について(その1)」
平成26年11月25日
※このQ&Aが出たときに、平成18年事務連絡のQ&AのQ11、Q12、Q13、Q22、Q26及びQ37が廃止されました。
※平成30年事務連絡が出た際に、このQ&AのQ18、Q19 及びQ21 が削除されました。
廃止済⇒事務連絡「化粧品基準及び医薬部外品の製造販売承認申請に関する質疑応答集(Q&A)について」
平成26年6月13日
※平成28年事務連絡が出た際に廃止されました。
廃止済⇒事務連絡「医薬部外品の製造販売承認申請及び化粧品基準改正要請に添付する資料に関する質疑応答集(Q&A)」
平成18年7月19日
※当時、動物実験代替法に関する見解を示したものとして画期的な文書でしたが、その後Q11、Q12、Q13、Q22、Q23、Q26及びQ37が廃止され、現在は全体が新しいものに差し替えられています。
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