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動物とヒトのキメラ(2) 内閣府では、緩和の見解が出る

先日、「動物性集合胚」を子宮に入れて出産させてもよいとすること(つまり動物とヒトのキメラをつくること)に対して反対の意見を内閣府に送付しましたが、その件に関して一昨日、内閣府の総合科学技術会議で生命倫理専門調査会が開催され、見解案が示されました。

既に今日、配布資料が内閣府のページにアップされていますので、ぜひご覧ください。

結論から言うと、見解案では「動物胎内への移植、個体産生については、人の尊厳の保持等に影響を与えるおそれのないよう科学的合理性、社会的妥当性に係る一定の要件を満たす場合には、実施を認め得るとするのが適当」とされ、動物福祉に関しては「個体産生では、動物愛護の観点からの配慮も必要ではないか」の1行が入っただけです。(最終的な文書は、まだこれから出てきます)

生命倫理専門調査会は、あくまでヒトの倫理問題しか扱わないところなので、そこでこの一言が入っただけでもありがたいと考えるべきかもしれませんが、今回の議論ではまったく動物実験そのものに対する話も出ず、あまりにないがしろにされているのではないかと感じました。

また、調査会の開催は夕方からでしたが、開催前の朝の時点で読売新聞が「動物体内でヒト臓器作製…政府、研究容認へ」と報じており、調査会が茶番であることが国民にばれてしまった形です。これについては委員からも「マスコミはいつも、あまりにも早く報道しすぎ。不必要な期待を患者に与える。調査会前に資料がもれていたのなら問題だ」といった批判が出ていました。

科学者からも同様に、「この技術は臓器作成のためだけに行われるわけではない。もっとほかに疾患動物モデルの作成などにつかえるのだから、そういうことをマスコミは報じてほしい」といった意見が出、メディア報道に関する議論にかなり時間が使われました。(科学者にとっては臓器移植はあまりにも遠い目標であり、他にも方法があるし、この技術で実現するのかどうかもわからないのだからもっと手近かなところにも利点はあるよと言ったほうが得策だと考えているということだと思います。)

しかし、その読売新聞のフライング記事のせいか、今回は終了後のマスコミの取材もかなり活発な様子でした。昨日報じられた各紙の記事のほうが、やはり正しく雰囲気を伝えているのではないかと感じますし、倫理的な問題にもふれてくれています。

ただ、生命倫理専門調査会が出した見解がそのまま文科省での指針の改正に反映される仕組みでもなく、文科省は文科省で検討を行うこと、さらに文科省の検討後にもう一度内閣府に諮問されることなどが明確に報道されていないように思います。また、読売が調査会の最終見解を7月と報じていましたが、それも若干遅れるかもしれないような雰囲気でした。

各紙の報道は以下の通りです。

胎内移植解禁で条件整理へ=動物・ヒトの集合胚―科技会議調査会 時事通信(既にリンク切れ)

動物体内で人の臓器 政府の倫理専門調査会、集合胚の子宮移植を容認 共同通信

共同通信は、解説の一番最後で動物福祉の問題にもふれてくれていますが、配信はされたものの、ネットで新聞社のサイトを見る限りではカットされてしまっているようです。以下のように書かれていました。

「研究用の細胞提供者にどう説明し同意を得るのか、移植用臓器のための動物を誕生させることが動物愛護の点から妥当なのかなどを含め、社会としての受け入れ可能性を引き続き議論すべきだ。」

動物体内でヒト臓器、研究容認へ 移植用、倫理面で課題(リンク切れ) 朝日新聞デジタル

<ヒト臓器作製>動物使う基礎研究容認 生命倫理調査会 毎日新聞

時事通信が書いている、「ヒトと動物の境目が崩れてしまうような研究はダメだと書いてほしい」という発言は、私もとても印象的でした。また、「直近2回の議論でずいぶんポジティブになってしまったのではないか。以前はもう少し慎重だったのではないか」という意見もありました。(正直、だれが出席し、だれが欠席するかで、かなり雰囲気が変わってしまう審議会なのではないかと感じます)

一方で、「人と動物のキメラを作って研究をする過程で人面のブタが生まれてきても、それは気持ちは悪いかもしれないが、問題はない」という発言もありました。これが科学なのだとしたら、やはり科学は人の思考までおかしくさせる恐ろしいものを生み出しつつあるのではないでしょうか。

意図的にせよ、失敗にせよ、もし誰かが人間の胚をいじってブタ顔の人間をつくりだしたら、仮に何不自由なく生活できたとしても、大問題とされることでしょう。それが逆に、ブタであればやっていいと思えてしまう根拠は一体どこにあるのでしょうか。本質的には同じことではないでしょうか。

かろうじて見解案の中に、「個体産生を認めるかどうかはケースバイケースで判断する仕組みが必要ではないか」と入っており、座長もこの段階を設けることを最後の歯止めとするのがよいのではないかと考えているようだったのは救いでしたが、今後の文科省の議論でどうなるかわかりませんから、ウォッチングしていく必要があります。

また今回も、「海外では動物性集合胚に対する規制はない」との発言がありましたが、EUは、これに限らず動物実験自体が国や州による審査の対象であり、アメリカは霊長類に対しては禁じているのだから、日本で各機関が勝手に承認できる状態にゆだねるのとは話が段違いに違います。

この点については、毎日新聞が、東京財団生命倫理サロンでお世話になったぬで島さんのコメントを掲載してます。

代替法検討を
 生命倫理に詳しい〓(ぬで)島次郎・東京財団研究員は『動物性集合胚は生命操作の度合いが高い。実施の審査では、動物性集合胚よりもリスクが低い動物の胎児を使った臓器作製など、代替法についても検討すべきだ。また日本は個別の研究施設に実験の管理が任されており、生命操作の度合いが高い動物実験を認める体制が整っているのかという視点からの検討も求められる』と話している。」

ちなみに、文科省でも6月6日に生命倫理・安全部会 特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会が開催されていたとのことで、文科省の資料を見ると、動物性集合胚の技術的な問題点などについて、かなり意見が出ていたようです。

(S.A)

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