動物とヒトのキメラ(6) 科学的にも代替法で

動物性集合胚に関して規制が緩和されようとしている件ですが、今月11日に開催された科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会(専門委員会の親会)も傍聴してきました。すでに資料は下記にアップされています。

元々、この話題に対してはそれほど時間をかけないだろうと思っていましたが、やはり事務局から報告があっただけで発言はたった一人だけで終わってしまいました。それも「動物がかわいそうなどといったことで科学の進展が阻害されてはいけない」という内容のことを、京都大学大学院法学研究科の高山佳奈子教授が発言しただけでした。クローン規制法は親子間の問題が複雑になるといった人間の問題しか想定していないからというのが理由でしたが、動物愛護法も含め、現行の法律の不備について自分たちがどうにかしなければいけないという意識が法律家に全くないことは非常に残念なことです。

また、現状使えない条文になっているとはいえ動物愛護法には動物実験の代替等を求める条文があり、動物を用いる試験研究すべてにかかってくるのですから、今後作業部会で科学的な観点から議論される際には、この点も考慮されるべきだと思います。

科学者の中にも胚をいじる研究は生命操作の度合いが高いと考える人はおり、異なる方法で研究している人たちがいます。例えば、「Medical torch:外科医のための現場と症例」という専門誌の最新号に掲載されている記事では、この動物性集合胚の研究に対し、明確に代替法を検討すべきことが述べられているのでご紹介します。

連載外科医のためのトランスレーショナルリサーチ第19回「ヒト幹細胞から臓器を作る」
Medical torch 9巻(2)通巻22号(2013)

「世界的臓器不足は、臓器移植という素晴らしい治療に影を落とし続けています。ヒト臓器作製というきわめて高いハードルに世界に先駆けて日本の研究者が挑んでいます。向かうべき方向は、動物の命を犠牲にしない臓器作製であることは明確ですが、このような研究の倫理性を社会とともに常に考えながら現実に即して進むべきです。先に政府総合科学技術会議は、一定の要件条件下で動物の体内でのヒト臓器作製研究を容認しましたが、動物の命を使う、このような研究での生命操作の度合いが異なります。常にリスクの低い代替法を検討しながら、先端医学研究を推進すべきであると考えています。

書いているのは、自治医科大先端医療技術開発センターの小林英司教授です。動物性集合胚からヒトの臓器を持ったブタをつくろうとしている東大医科研の中内啓光教授の研究と、iPS細胞の培養によって臓器を作ろうとしている京大iPS細胞研究所の長船健二准教授の研究を詳しく紹介、比較し、その結論として上記のように書かれていました。細胞から臓器をつくる研究の場合でも、もちろん現段階で動物の犠牲はありますが、動物性集合胚を用いる方法では臓器を取るために毎回ブタの犠牲が強いられますから、やはり行きつく先の形が異なっていると思います。

★明治大学から文書が送られてきました

東大医科研の中内教授の共同研究先としてブタの実験を行っていた明治大学農学部に対して、指針に基づく動物実験の情報公開について問い合わせをしていましたが、先週、開示資料として2枚の紙が送られてきました。

1枚は動物実験に関する自己点検表でしたが、A4の紙の片面だけの非常に簡素なものです。しかも驚いたのは、自己点検は4年に一回だとのことです。唯一参考になりそうなのは、年間の審査数一覧程度です。確かに件数は多くはありませんが、近年増加しています。

もう1枚は、動物実験委員会内規ですが、これもA4裏表の非常に簡素なものでした。2005年の動物愛護法改正の際、日本学術会議がつくる詳細指針を参考にして各大学で動物実験についての規程をつくるのだという話がありましたが、この話も一体どこへ行ってしまったのでしょうか。少なくとも明治大学の内規は、文科省の指針に基づいた委員会を設置するだけの簡単な内容で、非常に簡素なものでした。

動物実験に関してこの程度の内規しか持っていない研究機関で、国レベルでここまで議論されている研究を担うことが許されるのか、非常に疑問に思います。

明治大学農学部慰霊碑
明治大学農学部動物慰霊碑

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