動物実験を9割削減すると予測! 経済産業省の動物実験代替法開発プロジェクト


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経済産業省予算10億4千万円(5年間)の研究開発プロジェクトの「中間評価」の審査が終了

去年の12月26日、経済産業省で開催された第1回「省エネ型電子デバイス材料の評価技術の開発事業(機能性材料の社会実装を支える高速・高効率な安全性評価技術の開発)」研究開発プロジェクト中間評価検討会を傍聴してきました。

何やらとても長い名前ですが、この研究開発プロジェクトは、動物実験に替わる高速・高効率な安全性予測手法の開発に、経済産業省が10億4千万円の予算(5年間)を出しているもので、2017年から始まっています。

これからの新しい電子デバイス材料等の開発・実用化のイノベーションを促進させるため、現在、規制(化審法)で求められている動物試験を代替する手法を開発するのが大きな目標です。具体的には、ラットが犠牲になる28日間反復投与毒性試験(OECDテストガイドライン407)が代替のターゲットです。

昨年末から、3年程度ごとに行う中間評価のステップが始まっていて、この日が第1回でした。

研究の背景や進行状況などについてプロジェクト実施者から説明があり、審査委員からの質問についてやり取りがあったのち、最終的に評価報告書としてまとめる進め方などのが話し合われました。

第二回は書類持ち回りでの審査となり会議の開催はなく(2回目は、だいたいこの形になるそうです)、了承された技術評価報告書案について、最終的に、親会にあたる「産業構造審議会産業技術環境分科会 研究開発・イノベーション小委員会評価ワーキンググループ(第52回)」にも報告され、3月25日に審議されました。

技術評価報告書は、コメントが付されたのち、経済産業省のサイトで公表されます。本日時点で、まだ公表されていませんが、先に概要をご報告します。


事業期間(計画):
平成29年度~平成33年度(令和3年度)
委託先:東京大学、昭和薬科大学、静岡県公立大学法人、化学物質評価研究機構、産業技術総合研究所、明治薬科大学、システム計画研究所
略称:AI-SHIPS(毒性関連ビッグデータを用いた人工知能による次世代型安全性予測手法)プロジェクト

プロジェクト終了10年後に動物実験の90%を削減する!

このプロジェクトではなんと、化審法に基づく新規化学物質の動物実験を、研究開発事業終了後10年時点で9割削減すると予測されていました! 事業のアウトカム指標として下記のように書かれています。

動物実験の代替による省エネ効果(原油換算)開発段階での安全性評価のための動物飼育・実験施設での電気使用量を264,000,000kWh/年と見積り。本事業終了10年後には、動物実験数が現在より90%削減されると予測。CO2排出係数から、約9万t-CO2のCO2削減を見込む。

数値指標として省エネ効果に換算して計算されているのは今風というか、若干驚きましたが、要は、減らす!ということです。

資料には、きちんと「動物福祉」と書かれていますし(上記図参照)、プロジェクト開始前の事前評価では、「国際的な動物実験禁止の流れ、高効率な安全性評価手法を他国に先駆けて早期に確立するという観点から、本件は非常に重要であり、国として実施すべきもの。」とされていたそうです。

また、試算として、このプロジェクトで開発された代替手法に置き換わったとすると、1物質の新規化学物質の開発にかかる安全性試験の費用として8,500万円が節約できると見積もられており、現在年間に新規に届出されている物質数(動物実験が求められているもの)が約110なので、約100億円の経費が削減できるとされていました。

これは大きなメリットであり、経済産業省がリードするのも納得です。

でももちろん、動物実験は費用面だけでネックになっているわけではありません。

物質の毒性について、動物実験は、なぜ生体でそういうことが起きるのかがわからずブラックボックスになっていることが、まず挙げられます。また、欧米でインビトロ試験(細胞試験など動物生体を用いない試験)を使ったハイスル―プット試験系の開発を進めるTox21などの取り組みが進んでいることなどが背景にあります。

経産省のプロジェクトは、日本が有するこれまでの毒性試験データやAI技術を活用し、コンピューターモデル予測をしようとする日本初の試みとしても意義があるとのことでした。

経済産業省では、このプロジェクト以前にも、5年ごとに代替法開発に関係する事業を代々行ってきました。以前の研究報告では、ラットの遺伝子発現の推移を見るに、投与開始後1週間程度で変化は起きてしまい、その後変わらないので28日間もやる必要はないという結論だったので、なんと無駄な苦痛が強いられているのか!と驚いたことを覚えています。

しかも、ラットは小さな人間ではありません。人間で毒性がどう出るかはまた別の話ですが、薬ではないので、化審法対象の一般化学物質は人では試しません。

あの時からやっと、試験そのものの代替の話にまでたどりつきました。

内容は?

このプロジェクトでは、大きく分けて以下の技術開発の研究が進められています。

研究開発項目①毒性発現メカニズムに基づく毒性評価技術の開発
(a) 薬物動態モデル等を活用した化学物質の体内動態評価技術の開発
(b) 細胞の化学物質応答性評価を基盤とする毒性評価技術の開発
 
研究開発項目②人工知能を活用した予測モデルの開発(生体レベルでの毒性評価・予測を実現する情報技術の開発)

研究開発項目①-(a) 薬物動態モデル等を活用した化学物質の体内動態評価技術の開発
既存のデータベースにはラットの薬物代謝以外の体内動態情報がまったくないこと、また、齧歯類とヒトの間にはしばしば薬物代謝や体内動態に種差が認められるため、ヒト毒性予測にはこれらのギャップをつなぐ技術の開発が必要なことなどから、進められている研究です。ラットとヒトの薬物代謝や体内動態の種差に関する研究もし、ラットのデータからヒトの薬物動態を予測する数理モデルの構築等を目指します。

中間評価の報告では、インビトロの膜透過実験により腸管吸収予測モデルを構築、ラットの既存データをつかって3パラメーター値(吸収、分布容積、肝代謝消失)を算出、これらから数理予測モデルを構築したとの報告がありました。

研究開発項目①-(b) 細胞の化学物質応答性評価を基盤とする毒性評価技術の開発

化学物質の毒性は化学構造により決定されるにも関わらず、全身毒性を化学物質の部分化学構造や物理化学的性状等から予測する手法は確立されていませんが、それには化学物質のプロファイリングのレベルをあげなければなりません。そこを人工知能(AI)で埋めるため、様々なインビトロ毒性試験データをAIに学習させることができるかどうかを検証し、実用化に向け適切と判断できるインビトロ試験系を選択するのがこのプロジェクトです。

生体でどうなるか等の情報がわかっている肝毒性を取り上げ、どのインビトロ試験のデータが使えるかを見るために、スループット性が高い試験を選択してそれら網羅的に実施したとの報告がありました。

研究開発項目②人工知能を活用した予測モデルの開発(生体レベルでの毒性評価・予測を実現する情報技術の開発)

物質の特性と毒性との間のつながりをAIによって明らかにし、それに基づいて、動物実験を必要としない、毒性を高精度に類推する情報基盤技術を開発します。

28日間反復投与毒性試験の結果を予測するシステムの開発を目指し、肝毒性予測プロトタイプシステムの構築を行ったとの報告がありました。

質疑では……

委員からは「対象となっている毒性が肝毒性に限られているが」等、本当に代替に至るのだろうかと思っていそうに感じる質問などがありましたが、現在は、肝、血液、腎毒性を見ているが、この考え方で進めていってよいのだということになれば、当然ニーズがあれば拡張していくというフェーズに入るといったやりとりがありました。

9割削減の数値実現へ向け、今後の研究開発に期待します。

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