阪大のプレスリリースに動物実験の代替?!
先日、ヒトiPS細胞から小腸型の腸管上皮細胞の作製に成功したというリリースが大阪大学から出されました。まだ医薬品の消化管吸収・代謝を評価する試験系自体をつくったという話ではありませんが、そのための第一歩となる細胞の培養に成功したという公表です。
その中で、マウスなどの実験動物とヒトとの間には種差の問題があることから、今使っている評価系では正確に医薬品候補化合物の吸収・代謝を評価することができないということに明確に言及していることが印象に残りました。
以前は、日本の研究者には、動物実験の代替にもなるということは頑として言わない態度が目立ちましたが、風向きが変わってきたことを感じます。
さらに「本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)」として、医薬品候補化合物の吸収や代謝をより正確かつ簡便に評価できる可能性が高まったことなどに加え、「マウスなどの実験動物を用いた試験の代替法となるため、動物実験の『3Rの原則』を強力に推進できると期待します」とまで書いてありました。
AMEDの代替法予算について
この阪大の研究には、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の「医薬品等規制調和・評価研究事業」の研究費も投下されていると書かれています。
AMEDも、2015年(平成27年)の動物実験関係者連絡協議会(動連協) 第4回シンポジウムに参加し、当会から質問した際には動物実験代替法の予算についてはまったく意識に上っていない様子でしたが、昨年(平成29年)からは「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発)」という事業も始まっており、動物実験の代替になるような新しい評価技術の開発にも資金が投下されはじめています。
この事業については、研究不正を行い懲戒解雇された京都大学iPS細胞研究所前特定拠点助教の研究もいったん採択されていたなど幸先の悪いこともありましたが(但し不正行為認定によって不採択へ変更済)、動物ではない新たな評価方法の確立へ向け、国が新たな動きをし始めたということで、とても期待しています。
研究開発実施予定期間は課題分野ごとに、最長3年もしくは最長5年となっています。
採択内容は以下の通り。日本動物実験代替法学会の現会長や、上記阪大の研究にかかわった研究者の名前も載っています。
再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発)採択内容一覧
研究開発課題名 | 代表機関 | 研究開発代表者 | 所属 役職 |
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In-vitro安全性試験・薬物動態試験の高度化を実現するorgan/multi-organs-on-a-chipの開発とその製造技術基盤の確立 | 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 | 金森 敏幸 | 創薬基盤研究部門 研究グループ長 |
研究開発課題名 | 代表機関 | 研究開発代表者 | 所属 役職 |
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階層的共培養を基礎とするLiver/Gut on-a-chipの開発:インビトロ腸肝循環評価を目指した高度な代謝と極性輸送の再現 | 国立大学法人 東京大学 | 酒井 康行 | 大学院工学系研究科 教授 |
医薬品の脳内移行性を評価可能な3次元血液脳関門(BBB)デバイスの開発 | 国立大学法人 東京大学 | 竹内 昌治 | 生産技術研究所 教授 |
腸肝循環の薬物動態を再現可能なデバイスの開発 | 国立大学法人 京都大学 | 鳥澤 勇介 | 白眉センター 特定准教授 |
創薬における高次in vitro評価系としてのKidney-on-a-chipの開発 | 国立大学法人 東京大学 | 藤井 輝夫 | 生産技術研究所 教授 |
中枢神経系の薬物動態・安全性試験を可能にする血液脳関門チューブネットワークデバイスの開発 | 国立大学法人 大阪大学 | 松崎 典弥 | 大学院工学研究科 准教授 |
生体模倣小腸―肝臓チップ:バイオアベイラビリティ予測と安全性評価in vitroモデルの開発 | 公立大学法人 名古屋市立大学 | 松永 民秀 | 大学院薬学研究科 教授 |
創薬スクリーニングを可能にするヒトiPS細胞を用いた腎臓Organ-on-a-Chip | 国立大学法人 京都大学 | 横川 隆司 | 大学院工学研究科 准教授 |
(研究開発代表者50音順)
研究開発課題名 | 代表機関 | 研究開発代表者 | 所属 役職 |
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ヒトiPS由来腸細胞の安定供給と迅速培養システムの構築 | 国立大学法人 東京⼯業⼤学 | 粂 昭苑 | ⽣命理⼯学院 教授 |
Organ-on-a-chip等のデバイスに応用可能な薬剤スクリーニングに適したヒトiPS細胞由来三次元肝スフェロイドの安定的な製造 | 公立大学法人 横浜市立大学 | 小島 伸彦 | 国際総合科学部 准教授 |
(研究開発代表者50音順)
研究開発課題名 | 代表機関 | 研究開発代表者 | 所属 役職 |
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被血管化能を備えた腎臓細胞の安定作出 | 国立研究開発法人 理化学研究所 | 高里 実 | 多細胞システム形成研究センター チームリーダー |
高純度な国産ヒトES/iPS細胞由来肝細胞の安定的かつ安価な製造法の開発 | 国立大学法人 大阪大学 | 高山 和雄 | 薬学研究科 特任助教 |
デバイスに搭載するヒト自律神経細胞と標的臓器の安定的製造に関する研究開発 | 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 | 高山 祐三 | 創薬基盤研究部門 研究員 |
分化制御培養法によるiPS細胞由来血液脳関門モデル細胞の安定的な製造・供給体制の構築 | 公立大学法人 名古屋市立大学 | 坡下 真大 | 大学院薬学研究科 講師 |
(研究開発代表者50音順)
研究開発課題名 | 代表機関 | 研究開発代表者 | 所属 役職 |
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薬物動態・安全性試験用organ(s)-on-a-chipに搭載可能な臓器細胞/組織の基準作成 | 国立医薬品食品衛生研究所 | 石田 誠一 | 薬理部 室長 |