家畜の飼い方は変えなくてよいのか―薬剤耐性菌問題の今

昨年11月、農林水産省が、「動物分野における薬剤耐性対策シンポジウム~G7獣医当局間の協力枠組活動の一環~」というシンポジウムを開催しました。

薬剤耐性菌の問題は、既に薬が効かないなど、抗菌剤の過剰・不適切利用によって現実のものとなっていますが、2050年には世界で年間1000万人が死亡するという予測が公表されるなど、人類にとってさらに大きな脅威となってきています。

人間の医療での利用よりもっと使用量が大きいのが、畜産・水産分野での利用ですが、こういった内容のシンポジウムを国が開くのは初めてとのことでした。

このシンポジウムは、昨年4月に開催されたG7新潟農業大臣会合で設置することが合意された、「G7獣医当局間の協力枠組」の活動の一環として開催されたとのことで、G7各国及びEUの獣医官が一堂に介し、各国の取り組みを報告するという内容でした。世界保健機関(WHO)や国際獣疫事務局(OIE)からの基調講演もあり、なかなか格調高い雰囲気の中、開催されました。

取り組みが遅いと言われてきた日本政府も、昨年4月に関係閣僚会議で決定された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」にしたがって取り組もうという雰囲気は見えてきているでしょうか…。

当日はスタッフ2名が聞きに行き、前半後半入れ替わりでの参加になりました。概要をご紹介します。

■WHOは大きな危機感

 世界保健機関(WHO)は、AMR(薬剤耐性)の問題をたいへん心配しています。それはなぜかというと、抗生物質などの抗菌剤が効かないAMRが世界的に増加・拡大しているからです。AMRは、人々が考えているよりも深刻な状況であり、今行動しなければ未来はないと言っていて、WHOはこの問題にたいへん危機感を持っていると感じました。

 AMRが増加・拡大している原因には次のようなものがあるということです。

  • 人の医療分野で、抗菌剤を濫用している。
  • 患者が、処方された抗菌剤の服用を途中でやめてしまい、体内に残った菌が耐性を持ってしまう。
  • 畜産や魚の養殖で、抗菌剤を濫用している。
  • 病院での感染症対策が不適切である。
  • 公衆衛生の意識や設備が不足している。
  • 新しい抗菌剤の開発が滞っている。

 このAMRの問題は、人の医療分野だけで取り組んでも解決することはできないので、動物の分野や食の安全の分野とも密接に連携していくことがとても重要であり、WHOはOIEやFAO(国際連合食糧農業機関)と共に「人と動物等の保健衛生の一体的な推進(ワンヘルス)」の考えに基づく取り組みを推し進めているということです。

「AMRに対する取り組みは、4~5年という短期間で解決できるものではなく、とても長い取り組みになると思うが、全世界で協力して取り組み続けていかなければならない。そうしなければ、抗菌剤のない世界になってしまう。」とも話していました。

(M.S.)

■各国の取り組み

また、各国の獣医官から、それぞれの国での取り組みについて発表がありました。

カナダ
2014年にアクションのための枠組みを、2015年にはアクションプランを公表。サーベイランス(調査監視制度)の導入や慎重な使用の促進など。

フランス
ECOANTIBIO planを公表。第一ECOANTIBIO planは、2012年から2016年の5か年計画。抗菌剤の動物への暴露量を5年間で25%減らす。既に最初の4年間で、動物への暴露量は20.1%減少した。200万ユーロの年間予算がついている。抗菌剤の使用は治療に限られるべきであり、成長促進目的での使用については避けるべき。動物が健康なら治療も要らない。ペットの所有者も対象だが、畜産の改善が非常に重要である。衛生状況、飼育状況、獣医師とのコミットメント、獣医師の関与をポイントとして挙げていた。予防にも使わない。2017年からはECOANTIBIO 2が稼働する。

ドイツ
2015年に薬剤耐性戦略(DART2020)が承認された。衛生及び健康を改善することにより家畜への抗菌剤の使用量を低減する、抗菌剤は疾病に罹患した動物の治療のために使用される(飼料に混ぜるのは不可という意味)等が基本戦略に含まれている。ドイツでは、抗菌剤は、愛玩動物・家畜いずれの場合も、獣医師による診察を受け、獣医師が発行する処方に基づく場合のみ使用可能である。2014年に、抗菌剤の使用を最小化するための戦略が施行されている。抗菌剤販売データの獣医師への年次報告などのしくみもあり、獣医師会もガイドラインを定めている。2011年から、2015年の間に、獣医師への抗菌剤の販売量は53%減少した

イタリア
2012年にすべての関係者向けに使用マニュアルを公表。豚・鶏・ウサギの農場において飼養管理を改善するための対策などが含まれている。2015年に関連部局横断型のワーキングチームを設置。現在、ガイドラインを検討中。動物福祉についての指標も検討内容に含まれている。既にウサギでは29%の削減を実現。家禽では2018年までに40%の削減を目指している。

日本
食品安全委員会でリスク評価を継続中。2013年に抗菌剤の慎重使用の基本的考え方をまとめた。2016年、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを策定。日本ではむしろ水産物の養殖における抗菌剤利用の問題があるので、今後取り組みたい。(日本政府がこの話題に触れるときはいつもですが、飼料添加についての実態や対策が見えてきません。話題を避けているとしか…)

英国
2013年から2018年までの5か年戦略を実行中。2016年にオニール氏による薬剤耐性に関する最終レポートが出され、9月に国として新たな推奨事項を公表。治療をしないのも動物福祉上の問題であり、治療に使っていけないわけではない

アメリカ
農務省動植物検疫局による対策の柱は、大統領令CARBと農務省のAMRアクションプランである。3年間の計画であり、成長促進には使わない方針である。今は自主的取り組みを求めているが、これが上手く行かなければ、2017年に規制に移行する予定である。飼料への添加を減らそうとしている。

EU
2011年に薬剤耐性菌の脅威に対するアクションプランを策定。EU加盟国が実施すべき12の取り組みについて言及されている。2016年、このアクションプランに対する評価が公表され、ワンヘルスアクションプランに関するロードマップが公表された。人と動物の健康だけではなく、自然環境についても考えなければいけない。

■アニマルウェルフェアとの関係について質問をしましたが…

各国の発表の中では、ちらほらアニマルウェルフェアという言葉が出てきていましたが、日本からの発表では当然、言及はありません。

最後に質疑応答の時間があったので、過密飼育による劣悪な家畜の健康状態について、そもそも薬剤を使うのではなく飼い方を変えることが必要なのではないかという意味で、アニマルウェルフェアの取り組みについて、特に日本で言及がなかったことを挙げ、質問をしました。

でも少々言葉足らずだったのか、日本からは、ペットの治療に使うことについての回答…。各国政府を順に回って、やっと家畜福祉について、福祉が良くなると抗菌剤の利用が30%減るというデータもあるといった回答が得られました。

ストレスのないところで飼う必要があるという話も出ましたが、まったくその通りで、飼い方を変えずに薬の使い方だけ小手先で変えようとしても限度があるはずです。家畜福祉と両輪で進めていくべき問題ではないでしょうか?

「きょうのところはこんな感じでよろしいでしょうか?」との司会の言葉に、「ええ、きょうのところは」とうっかり言いそうになりました。「やはり日本政府が取り組んでいないことについては自覚があるのかなあ?」と感じつつ、会場を後にしました。

(S.A.)

ちなみに……
雑誌「食べもの通信」2016年12月号の特集「抗生物質が効かない! 食肉から広がる耐性菌」に、日本の抗生物質の使用区分別の年間使用量の表が出ていますが、ペット用医薬品の使用量は、家畜動物用医薬品、ヒト人医薬品、養殖魚水産用医薬品、家畜飼料添加物、作物農薬(多い順)に比べると、ほとんどゼロに近いくらい少ない数値です。

記事では、国際消費者機構(CI)による、外食産業への「抗生物質をメニューから外そう!」キャンペーンなども紹介されています。

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