畜産分野における薬剤耐性菌対策に関する意見交換会

先日、農林水産省が開催した「食品に関するリスクコミュニケーション -畜産分野における薬剤耐性菌対策に関する意見交換会-」に参加してきました。

このテーマでの開催は平成15年以来なかったようで、日本でも何らかの政策転換が行われるのかと期待したのですが、そういうわけではなく、日本では順次、各抗生剤について科学的な評価を行っている最中とのことでした。

畜産において抗生物質は、病気の予防や治療目的だけではなく家畜の成長を促進する目的でも使われていますが、EUは既にそういった成長促進目的での抗生物質の利用を禁止しています。また昨年末、アメリカでもFDA(食品医薬品局)が、人と共通の抗生物質については、成長促進目的での利用を自主的取り組みを促すことで廃止していくという方針を打ち出しました。

こういった流れも意識しての開催か?と思いつつ、勉強する目的で参加したのですが、それぞれの話題提供者の発表時間が短く、資料の説明もかなり端折られている印象で、もっと濃い情報提供があってもいいのではないかと感じました。例えば、「日本でも成長促進目的での処方はもうほとんどされていない」との発言がある一方、委員から「飼料に添加されているわけで」との指摘もあり、この問題を知っていないと混乱をきたすのではないかという印象も受けました。

また、薬剤利用を減らしていくにはアニマルウェルフェアの実践が不可欠だと思いますが、この点については、発表者側では養豚の現状について発表された開業獣医師の方がふれていただけです。

しかし、委員からは「食品と暮らしの安全基金」の方が、過密飼育が根本的な問題としてあることを指摘してくださっていました。同基金は、人の医療現場(特に小児科医療)で既に抗生物質が効かなくなってきている問題について、これまで取り組みをされてきています。

人の健康被害といえば、また逆の側面ですが、これだけ薬剤が投下されていながら一方で、「1940年以降新たに出現したヒトの感染症の約7割は動物起源だ」とする報告書をFAO(国際連合食糧農業機関)が昨年末に出しています。

このレポートは、世界的に肉食需要がふえ、家畜・家禽の数が増加、過密で衛生管理のできていない施設がふえたこと、また原生林を切り開いて畜産が行われていること、野生動物を捕獲して食べる「ブッシュ・ミート」の利用がふえていること等が、人々を新たな感染症の危機に晒していると報告しています。

委員からは新たな薬剤を求める声もありましたが、やはり、そもそも家畜をストレスに晒さず、健康かつ衛生的に飼うこと、そのために肉の大量消費を抑えることが重要だと思わざるを得ません。

意見交換会では、会場からの意見がさえぎられてしまったことが少し悔しかったこともあり、農林水産省には、後日以下のお便りを出しました。

意見交換会の資料は、農林水産省のサイトで見ることができます。


農林水産省
大臣官房審議官 池田一樹様

拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。先日は、「畜産分野における薬剤耐性菌対策に関する意見交換会」の開催を大変ありがとうございました。傍聴者として参加しました動物保護団体PEACEの東と申します。突然お便りを差し上げまして、大変申し訳ありません、意見交換会当日、会場から発言をしようと思ったのですが、一瞬迷った隙に議事が進んでしまったので、お便りにいたしました。
 
私たちは、現代社会のシステムの中で動物たちが苦しんでいる現実を少しでも変えるべく活動をしているグループです。特に、集約的な、いわゆる「工場畜産」については現状を強く憂えていますが、そのストレスの高い過密飼育を支えているのが、抗生剤だと考えます。抗生物質によって生じている薬剤耐性菌の問題は世界的課題となっているかと思いますが、その背景としてこの問題は常に指摘されていると思います。

そういった意味で、今回、家畜に対して用いられている抗生物質の問題が意見交換会の形で取り上げられたことを非常に歓迎しておりますが、現在、日本において何らかの政策の見直し等が進んでいるわけではないとも伺いました。すでに禁止されているEUはもちろんですが、アメリカも昨年12月、FDAが自主的な取り組みを求める形で、家畜における抗生物質の成長促進目的の利用を段階的に削減する方針を打ち出しているかと思います。

日本においても、同様に抗生物質の使用を抑制する政策を積極的に打ち出すべきだと考えますが、そのためには、意見交換会でも意見が出ていたように、過密集合飼育を見直すことによって家畜を健康に飼育し、抗生物質の使用量も減らす政策への転換が必要だと思います。その意味でも、ぜひアニマルウェルフェア型の畜産へ政策転換を進めていただきたく、よろしくお願い申し上げます。

EUでは既に、アニマルウェルフェアに対応した畜産業に対する補助金を優遇することで、アニマルウェルフェア畜産品のほうが安くなっている国もあります。日本でも畜産業には多くの補助金が投下されていますので、その配分を、放牧・循環型の酪農・養豚や、バタリーケージを使わない養鶏などに重点的に配分することで、方向性を転換させることができるのではないでしょうか。そして、こういった政策を実施できるのは、農林水産省だけだと思います。

日本ではアニマルウェルフェアに対する消費者の理解が進んでいないと言われますが、日本人の国民性は、どちらかというと国の意向に従うところがあるように感じます。農林水産省が積極的に国民に周知を行い、「薬剤の利用を減らすことのできる畜産への転換が、国民の健康維持や医療にも寄与する」と言ってくだされば、人間と動物の両方の福祉にとって良い結果がもたらされることと思います。

大きな課題ではありますが、ぜひこの問題について積極的に取り組んでいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

敬具

(S.A.)

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