鶏肉 食鳥処理場 写真

食鳥処理場が切り落として隠す過密劣悪飼育の痕跡 ニワトリがあなたの口に入るまで

動画は、処理羽数が一日約6万羽、年間で2000万羽を超える、国内の大規模食鳥処理場(家禽の屠殺場)です。この食鳥処理場の仕事に従事した方から情報提供していただきました。

動画の中の鶏は、市場流通する肉用鶏のほぼ100%*1を占める「ブロイラー」と呼ばれる鶏たちです。私たちがスーパーで購入したり、ファストフード店などで外食するときに食べたりする鶏肉は、ほぼ100%がこの動画と同じブロイラー種になります。

映像では、ブロイラーの足の関節にできた黒いカサブタをナイフでそぎ落とす作業が行われています。この黒いカサブタは、湿った床やアンモニアなどにより引き起こされる「炎症」で、ホックバーン(Hock burn)とも呼ばれ、劣悪な飼育環境で発生します*2

ホックバーンは歩行に悪影響を及ぼし、餌や水にたどり着くことが困難になり、痛みで鶏を苦しめます。

このような炎症が起こる原因は、床(敷料)が糞尿まみれで汚いこと、過密飼育、ブロイラーが急激に太るように育種されていること、などです。

床(敷料)の状況

通常、ブロイラーを屠殺のために出荷するまで、オガクズなどの敷料は交換されません。ブロイラー鶏舎の管理は「オールイン・オールアウト」で行われ、ブロイラーをすべて出荷した後で汚れた敷料をすべて搬出し、鶏舎を空にしてから消毒→新しい敷料を入れて次の新しい雛を入れるというやり方が普通です。

敷料はブロイラーが成長して出荷されるまでそのままです。そのためブロイラーが出荷されるころには、敷料というよりむしろ「堆積した糞尿」という有様になります。

調査によると、日本のブロイラー飼養方法で敷料を交換している農場の割合はたった3.5%*3です。この3.5%も、おそらくはごく一部の敷料を交換しているだけのはずです。なぜなら鶏でいっぱいになった鶏舎の中にホイールローダなどの大型機械を入れて敷料の入れ替えをすることは不可能ですし、かといってスコップなどを使い手作業で敷料を交換するということも考えられません。現代の工場型養鶏の巨大な鶏舎の中の、鶏の糞尿で重く固い敷料をすべて、手作業で掘り返して手作業で鶏舎の外まで運ぶというのは非現実的でありえない話です。

そもそも敷料はタダではありません。1トン当たり数千円、近年はさらに敷料価格が高騰しています。糞尿まみれの環境に鶏を閉じ込めても、屠殺して湯漬けして脱羽して洗浄してきれいにパッケージングされてスーパーの棚に並んでしまえばわかりません。ブロイラー養鶏業者にしてみれば、無駄なコストはかけたくないでしょう。

過密飼育

ブロイラーの飼育は生産性を高めるため、異様な過密飼育となっています。日本国内の平均飼育密度は16〜19羽/平方メートル、最大で約22羽(59kg)/平方メートル*3。1メートル四方に体重2.5~3kgの鶏が16羽もいれば、すぐに床は糞尿で汚れます。成長して体重がふえるにつれ、過密度は増します。糞の量も増加します。ブロイラーたちは過密のため移動することが難しくなり、汚い床に座っているしかない時間がふえていきます。

急激に太る育種

ブロイラー種は、短期間で急速に成長させることを目的として育種されています。鶏は通常、成鶏に達するのに4 ~ 5か月かかりますが、ブロイラーは40 ~50日です。この成長率の高さはブロイラーに非常に有害で、腹水症や突然死などの代謝障害を引き起こし、骨格構造の成熟よりも速く体重が増加することで、肢の障害は多発します。

イギリスでは、このような過度な品種改変が行われたブロイラー種は動物福祉法に反するとして、訴訟が起こっているほどです*6

ブロイラー種では、跛行(歩行障害)率は 14.1% から 57% の範囲と言われています*4(75%という研究もあります*5)。

肢の障害は鶏の自発的な運動能力を損ない、多くの時間を床に座ったまま過ごす時間が増えていきます*7。糞尿だらけの床に足が接する時間が長くなり炎症リスクは高まります。

ブロイラーのホックバーンの罹患率は、35%から88%と言われています*8

動画には映っていませんが、情報提供者によると、炎症部分の黒いカサブタをナイフでそぐと、膿が出てきたり、鮮血が出てくることもあったそうです。

また問題はカサブタだけではありません。腿の付け根が骨折していたり、肢がOの字を描くように大きく湾曲していたり、肢がねじれていたりする鶏もいて、次から次へ運ばれてくる屠体から、鶏が苦しんできたことが伝わってきたそうです。

黒いカサブタをそのままにしておくと、消費者が食べる時にガリっとした食感になるため、取り除かれます。ナイフでそぎ落とされてフライドチキンになって食卓に並べば、そこから鶏の痛みや苦しみを想像することはできません。

しかしこの動画の中の黒いカサブタは、鶏が劣悪な状況で飼育されていた間違いない証拠です。

日本国内だけで、一年間に7億羽をこえる肉用鶏が屠殺されています*9。鎮痛剤や抗炎症剤を使用した研究は、多くのブロイラーが痛みに苦しんでいることを示しています*10。鶏には選択の自由は用意されていません。しかし私たちはこの苦しみに加担しない選択ができるはずです。

参考文献

*1 農林水産省「特集1 とり(1)」(aff, 2016年12月号)

*2 Emanuela Tullo ほか“Risk factors for footpad dermatitis and hock burns in broiler chicken” (2015)

*3 公益社団法人畜産技術協会「ブロイラーの飼養実態アンケート調査報告書 平成27年3月」(2014)

*4 Samaneh Azarpajouh “Automatic lameness detection using smart broiler farming” (Poultry World, 19 Sep. 2022)

*5 CIWF Trust “THE WELFARE OF BROILER CHICKENS IN THE EUROPEAN UNION” (2005)

*6 日本の行政訴訟にあたる司法審査制度が利用されている。Tony Mcdougal “Judicial review challenging the use of fast-growing broilers granted” (Poultry World, 5 Oct. 2022)“UK government faces court challenge over ‘Frankenchickens’”(Guardian, 21 Sep 2022)

*7 Stephanie Torrey ほか “Final Research Results Report Prepared for Global Animal Partnership”(Global Animal Partnership, 23 July 2020)

*8 Helen Louton ほか “Validation of an automatic scoring system for the assessment of hock burn in broiler”(Poultry Science, 101(9), Sep. 2022)

*9 農林水産省「令和3年食鳥流通統計調査結果」

*10 D. McGeown ほか “Effect of carprofen on lameness in broiler chickens” (VetRecord, 144(24), 12 June 1999)

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