サルは個人飼育禁止が妥当 世界の禁止状況など

更新履歴:2023年12月24日 イギリスの規制を更新

人間も霊長類であるため、他種のサル・類人猿のみを指す場合、本来であれば「ヒト以外の霊長類(Non-human primate)」と言わなければ正確ではありませんが、日本語として読みづらくなることを回避するため、便宜上「霊長類」と表記しています。(「ペット」など、その他の言葉の使い方についての方針は、こちら)

霊長類を飼ってはいけない理由

野生のサルや類人猿は社会的な集団で生活し、高い認知能力を身につけた野生動物です。手を使い、好奇心があり、他のサルとのコミュニケーションを求め、擬人化もされやすい動物です。しかし、いわゆる「ペット」として飼われている霊長類は、多くの場合、同種の動物から隔離され、狭いケージのなかで退屈な生活を強いられています。

彼らは、健康や幸せのために必要な本来の環境をすべて奪われた状況で飼われ、 どんなに良くあれと飼育する飼い主であっても、彼らの複雑なニーズを満たすことはできません。

霊長類は、赤ちゃんの頃はとてもかわいく、懐くように感じます。しかし、すぐに力強く成長し、攻撃的になることもあり、少なくとも、噛まれることは普通です。また、常同行動や毛引き、自傷など、深刻な行動上の問題が生じたり、ストレスから獣医学上の問題が発生し、若くして死ぬことも多いとみられています。サルを診る動物病院も少なく、診てもらえたとしてもわからないことも多いです。

動物福祉上、霊長類をペットとして飼育することは不適切であり、飼育を禁止している国や州もあります。また、世界各地で、動物福祉団体が霊長類のペット飼育禁止を求めてアクションを起こしています。このページには、そういった情報をまとめていきます。

そのほか、霊長類の飼育には、このような問題もあります。

  • ヒトに近縁なため、霊長類の飼育は、人獣共通感染症についても特に注意が必要です。日本では2005年7月から、感染症法により、愛玩目的での霊長類の輸入は禁止されました。エボラ出血熱やマールブルグ病の侵入を防ぐためです。
  • にもかかわらず、違法な国際取引が行われています。例えば、タイのファームで繁殖された小型のサルが、多数、密輸で日本に入ってきています。水際で摘発されることもありますが、氷山の一角です。そういった密輸由来のサルを元手に、繁殖・販売を行っている業者もいます。
  • 多くの霊長類が絶滅の危機にあります。2017年に公表された論文では、霊長類の約4分の3で、個体数の減少が深刻な状況にあると報告されています1
  • 繁殖されたサルがペットとして流通するのであっても、種の保全にとって障害となることが指摘されています2。ペットして売られているサルを、人々は、絶滅の危機にあるとは思わなくなるからです。

EUの飼育規制~8カ国が全ての霊長類を飼育禁止にしている

2010年からEU全域で霊長類を使った医学研究が原則禁止となり、特に類人猿は実験に使えなくなったにもかかわらず、多くの加盟国では霊長類(可能性としては類人猿も)をペットとして飼うことができます。しかし、飼育を全面的に禁止している国もあります。

  • EU加盟国のうち8カ国はすべての霊長類について、ペットとして飼育することを禁止している。(ベルギー、ブルガリア、チェコ共和国、リトアニア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、スウェーデン)
  • 一方、9カ国は、すべての霊長類について、ペットとしての飼育を認めている。(クロアチア、キプロス、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア)
  • 残りの国々は、一部の種のみ、飼育を禁止している。(オーストリア、デンマーク、エストニア、フランス、ハンガリー、イタリア、ラトビア、マルタ、ポーランド、北アイルランド)

※イギリスがEUを脱退しているので、上記のリストから除きました。(下記参照)

※2019年時点のデータです。各国で許可されている種数については、下記の図を参照ください4

▼クリックで拡大表示されます

※EUでは、そもそもペットの飼育に関し、飼育してよい種を定め、それ以外を飼育禁止とするポジティブリスト制をとっている国が複数あります。(詳細はお待ち下さい)

イギリスも霊長類の家庭飼育禁止へ

イギリスは現在、約半数の種のみ飼育可能ですが、2021年5月に公表された「動物福祉のための行動計画(Action Plan for Animal Welfare )」において、「認可された動物園と同等の福祉水準を提供できる飼育者に限り、要件や検査を経た上で、新しい許可制度のもとで霊長類を個人で飼育できる」という条項案が示されました3

これに対し、RSPCAなどの市民団体が、許可制の実効性を疑問として全面飼育禁止を求めていましたが、2023年12月14日、DEFRA(環境・食料・農村地域省)は霊長類の飼育は新しい法令のもと霊長類の家庭飼育は禁止されることになると公表しました。 ただし、高度な福祉要件をクリアして許可を得れば飼うことはできることになっています。許可は3年ごとに見直され、要件を満たさなくなった場合、許可は取消され動物の移送が行われます。

GOV.UK

New legislation on primates as pets introduced today.…

アメリカの法規制~26州がペットしての飼育を禁止

連邦法

ヒト以外の霊長類のペットとしての取引や飼育を禁止する連邦法はありません。ただし、1975年以降、ペット売買のために国外から霊長類を輸入することは禁止されています。研究や販売、展示に供される霊長類は、動物福祉法によって、ある程度保護されています。しかし、 個人の家で飼われている霊長類には適用されません。

州法

  • 26の州では、霊長類をペットとして飼うことを禁止しています。( アラスカ州、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、ジョージア州、ハワイ州、イリノイ州、アイオワ州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、メイン州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、モンタナ州、ニューハンプシャー州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、ニューヨーク州、オハイオ州、オレゴン州、ペンシルベニア州、ユタ州、バーモント州、ワシントン州、ウェストバージニア州
  • 12の州では、霊長類をペットとして飼うことができ、ほとんど規制はありません。(アラバマ州、インディアナ州、カンザス州、ミシガン州、ネブラスカ州、ネバダ州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、サウスカロライナ州、テキサス州、バージニア州、ウィスコンシン州)
  • 8つの州では、何らかのライセンスを必要とします。(デラウェア州、フロリダ州、 アイダホ州, ミズーリ州、ノースダコタ州、ロードアイランド州、サウスダコタ州、ワイオミング州
  • 残りの4州は、飼育が認められている種と認められていない種があります。アーカンソー州、アリゾナ州、ミシシッピ州、テネシー州

※禁止されている州でも、禁止される前に所有していた霊長類の飼育は認められています。30年以上生きるなど寿命が長期に及ぶため、これらの州でも、多くのサルや類人猿が救出の見込みのないまま、ペットとして飼われています。

※飼育が禁止されていない州でも、いくつかの市や郡で、霊長類のペットとしての飼育を免許制としたり、禁止したりする条例が制定されています。バージニア州フェアファックス郡、アーカンソー州フェイエットビル、カンザス州トピカ、ミズーリ州カンザスシティ、ノースカロライナ州シャーロット、アリゾナ州ツーソンなどです。

※データは2015年時点のものです5

日本~特定動物・特定外来生物のみペット飼育禁止

2020年6月から、動物愛護法により特定動物に指定されている霊長類は、ペット飼育禁止になりました。また、外来生物法により特定外来生物に指定されている霊長類も、ペットとして飼育することはできません。いずれの法律の場合も、禁止前から許可を受けていた人しか飼育ができない状況です。

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2019年動物愛護法改正解説

しかしながら、規制対象種以外の、マーモセット、リスザル、ショウガラゴなどの小型のサル類が多数売られています。そのほかにもフザオマキザルや、ワシントン条約附属書Iで種の保存法の規制対象であるスローロリスなどが売られていることがあります。全面的な禁止が望まれます。

特定動物に指定されている霊長目一覧

霊長目
アテリダエ科アロウアタ属(ホエザル属)全種
アテレス属(クモザル属)全種
ブラキュテレス属(ウーリークモザル属)全種
ラゴトリクス属(ウーリーモンキー属)全種
オレオナクス・フラヴィカウダ(ヘンディーウーリーモンキー)
おながざる科ケルコケブス属(マンガベイ属)全種
ケルコピテクス属(オナガザル属)全種
クロロケブス属全種
コロブス属全種
エリュトロケブス・パタス(パタスモンキー)
ロフォケブス属全種
マカカ属(マカク属)全種(特定外来生物であるタイワンザル、カニクイザル、アカゲザルを除く。)
マンドリルルス属(マンドリル属)全種
ナサリス・ラルヴァトゥス(テングザル)
パピオ属(ヒヒ属)全種
ピリオコロブス属(アカコロブス属)全種
プレスビュティス属(リーフモンキー属)全種
プロコロブス・ヴェルス(オリーブコロブス)
ピュガトリクス属(ドゥクモンキー属)全種
リノピテクス属全種
センノピテクス属全種
シミアス・コンコロル(メンタウェーコバナテングザル)
テロピテクス・ゲラダ(ゲラダヒヒ)
トラキュピテクス属全種
てながざる科てながざる科全種
ひと科ゴリルラ属(ゴリラ属)全種
パン属(チンパンジー属)全種
ポンゴ属(オランウータン属)全種

特定外来動物に指定されている霊長目一覧

オナガザル科
Cercopithecidae
マカカ属
Macaca
タイワンザル
(M. cyclopis)
マカカ属の全種
ただし、次のものを除く。
・タイワンザル
・カニクイザル
・アカゲザル
・ニホンザル
マカカ属の全種
カニクイザル
(M. fascicularis)
アカゲザル
(M. mulatta)
タイワンザル×ニホンザル
(M. cyclopis×M. fuscata)
マカカ属に属する
種間の交雑により生じた生物
ただし、次のものを除く。
・タイワンザル×ニホンザル
・アカゲザル×ニホンザル
マカカ属に属する
種間の交雑により生じた生物
アカゲザル×ニホンザル
(M. mulatta×M. fuscata)

参考文献

1. Estrada, A., Garber, P. A., Rylands, A. B., Roos, C., Fernandez-Duque, E., Di Fiore, A., … & Rovero, F. (2017). Impending extinction crisis of the world’s primates: Why primates matter. Science advances, 3(1), e1600946. doi:10.1126/sciadv.1600946

2. Seaboch, Melissa S., Cahoon, Sydney N.(2021).  Pet primates for sale in the United States. PLOS  doi:10.1371/journal.pone.0256552

3. Department for Environment, Food & Rural Affairs(2021). Action Plan for Animal Welfare. GOV.UK

4. Stichting AAP(2019). The big cat in the room: The problems with European rules on exotic pets. 

5. Animal Welfare Institute(AWI). PRIMATES ARE NOT PETS.

 

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