ゲノム編集された肉、食べたいと思いますか~体細胞クローン牛を振り返る

ここのところ、いわゆるゲノム編集技術を用いた家畜の改良について、ニュースが続いています。

それも、中国や韓国で筋肉の量を従来の2倍に増やした牛や豚をつくったといった話が若干キワモノ感も伴って報じられていましたが、いよいよ日本からも明治大や広島大などの研究チームが筋肉の量を増やしたブタをつくったと報じられました。

  • ゲノム操作でブタの筋肉倍増に成功…明大など(既にリンク切れ)
    2015年11月13日 読売新聞

記事の中で、明治大学の長嶋比呂志教授は、「食料問題の解決に貢献できる可能性がある」と話したとされています。

しかし、話はそんなに簡単でしょうか?
はたして消費者は、ゲノム編集された豚や牛の肉を食べたいと思うのでしょうか?

あまりに社会の意向を無視した発言ではないかと思います。

思い出してほしいのですが、かつて騒動になった体細胞クローン家畜の肉も、結局、農水省は流通を解禁しなかったのです。

■体細胞クローン牛・豚の騒動を振り返る

現在は、体細胞クローン牛の研究はほぼ中止状態であり(下図参照)、すでに過去の話になりつつある感もありますが、かつてはクローン技術が肉の増産につながるのではないか等、さかんに言われていたものでした。

体細胞クローン牛 出生数 グラフ

実際に、2009年(平成21年)、厚生労働省からの諮問を受けて内閣府の食品安全委員会は、体細胞クローン牛・豚の肉の安全性について、従来の肉と変わらないとの見解を示しました。

ただし、詳細を見れば、死産、産後直死、病気などが多く、生後半年を超えないと従来の家畜と同じとは言えないとの結論だったのですが、食品安全委員会の結論を受けて、厚生労働省も、食品衛生法に基づくリスク管理措置を講じることは困難、つまり流通を禁じたり制限したりすることはできないとの見解を示しました。

これで流通してしまうのかと消費者団体なども懸念を持ちましたが、その後も農林水産省は出荷自粛要請を解かず、これは現在も継続しています。

当時の農林水産省の見解は、「 体細胞クローン技術の取扱いに係る対応方針」としてまとめられましたが、そこではまず生産性が低いことが理由として挙げられています。しかし次に注目すべきは、消費者・国民の理解を得なければいけないことについても繰り返し述べられている点です。

実態として、当時、農水省は体細胞クローン肉が売れないことを懸念していたわけではありませんでした。消費者が体細胞クローン肉に対する懸念を持っているため、そういったものが流通することによって肉の消費全体が落ちることを懸念していました。

意外に感じましたが、社会の忌避感情が政策に反映されたのです。これは畜産関係者の意向を汲んだものでもあったようです。

そして、こういった問題については、ゲノム編集家畜の肉にも同じことが言えるのではないでしょうか。

体細胞クローンは、もともと経済的にペイしないほどコストが割高と言われており、実用化には常に疑問符が付きまとっていましたが、その生産性の低さについては今後の研究を待つとされました。しかし、写真のクローン牛を見学した2012年(平成24年)には研究自体も中止されていると聞きました。流通しないものに研究のインセンティブはないのです。

▼畜産草地研究所の体細胞クローン牛2012 そのほかの写真

体細胞クローン牛 畜産草地研究所

流通がOKとなっている受精卵クローン(Cクローン)についても現時点で飼育頭数6頭と、ごくわずかであり、「クローンで増産!」は夢に終わった状態だと思います。

現在はむしろ、牛の遺伝的多様性が失われてきていることが問題となっている状況すらあります。

■動物のゲノム編集は倫理的議論もなされないのか

一方、農林水産省は、今度は今年から農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業として「ゲノム編集による家畜系統造成の加速化」に予算をつけていますが、この過去に学ばないのだろうかと不思議です。

もちろん、この事業はまだ技術的に可能かどうかを試すあたりにあるとのことですが、研究者がいろいろ研究に手を広げる前に、それが本当に必要な技術なのか、倫理的に問題はないのか、検討するようにはならないのでしょうか。

ゲノム編集技術CRISPR-Cas9については、ハーバード大のグループがブタの遺伝子62個を同時に改変することに成功した例もあり、そこまでやっていいのかと驚きが隠せませんが、これは食べるためではなく臓器移植を目的とした研究です。

体細胞クローン豚の6割を作出したのも明治大学でしたが、長嶋比呂志教授は、このブタで臓器をつくる研究にも関わっています。ヒトと動物のキメラ作成にあたる動物性集合胚の研究でも中心的な研究者の一人であり、先日文部科学省の作業部会で話をされたのを聞きました。こちらの件についても、遅れてしまっていて申し訳ないのですが、追ってご報告したいと思っています。

「食べたくない」といった人間中心の観点だけではなく、動物倫理そのものについても社会が関心を寄せるようになってほしいと思います。

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