文部科学省が毎年公表している動物実験の実施等に関するアンケートの最新版が公表されました。文部科学省の動物実験基本指針の対象となっている大学等の研究機関に聞いているもので、回答しているのは、ほとんどが大学です。(その他は、大学共同利用機関法人、国公私立高等専門学校、文部科学省が所管する独立行政法人・国立研究開発法人)
今回公表されたのは令和3年(2021年)度に調査票を送った調査の結果です。
動物実験を行っている大学等の機関数は15減
驚いたことに、今年は動物実験等を実施している機関数が 394 機関となり、調査開始以降初めて、400機関を下回りました! 前年の409機関から、15機関が減です。
ただし、実際には、学部新設などで動物実験を新たに開始した大学もある可能性があるので、動物実験を止めた機関数(中断などを含む)がいくつかを特定することはできません。15より多い機関が止めている可能性もありますが、文部科学省は、情報公開請求をしても機関の一覧は公開しません。なので、どこが止めたかというポジティブな情報もわからないのです。
調査対象機関数は 1,210で、およそ3割の機関で動物実験が行われていることになります。
PEACEでは、動物実験を行っている大学等文部科学省所管の研究機関について、上記のマップを公開しています。文部科学省は毎年アンケート調査を行っており、動物実験が行われている文科省所管の研究機関の数を毎年公表していますが、機[…]
結果を修正してから公表する意味のないアンケート
このアンケートは、例年、文科省が定める基本指針のうち幾つかの項目を守っているかどうかだけを聞く、おそろしく簡素なものでした。
しかも、守っていないと回答した大学には文部科学省から指導して対応させ、100%の機関が守っているように修正してから結果を公表していました。このことは過去の情報開示請求で判明しています。このような指導が行われた大学名だけは、情報公開請求をすれば公開されます。(しなければ公開されない)
動物実験基本指針には遵守義務がないので、守っていなくても法的に問題があるわけではないのですが、「日本の動物実験の自主管理はうまくいっている!」と主張する根拠にしたいので、こうした作為的なアンケートがなされてきたわけです。
文科省が調べるべきは、規定等の内容は十分なものか、動物実験委員会が動物福祉に関して厳しく審査できるような機能を果たしているのか等の中身であって、「全ての機関に動物実験に関する規定がありました」「動物実験委員会がありました」等、毎年毎年公表しても意味はありません。規定や動物実験委員会があるのは、当たり前のことです。
しかしながら、今年は質問事項が増えていて、若干の変化が見られました。
令和2年度、27,810 件の動物実験計画が全国で承認された
今回初めて、全機関での年間の動物実験計画書の承認数と不承認数(総計)が公開されました。表にまとめると下記の通りです。
不承認数は2%に満たず、実験計画書は出せばほぼすべて承認されるものだという実態をよく表しています。1年で1.3%から1.9%に微増していることは期待が持てますが、承認されないことはほぼない審査の実態の一端を示しています。
改善措置を行った機関数は72機関
今回初めて、問6で「動物実験等の終了の後、動物実験計画の実施の結果について報告を受け、必要に応じ適正な動物実験等の実施のための改善措置を行っていますか」という質問が登場しました。
結果として「72 機関において改善措置を行いました」と書かれています。
改善措置がどういったものを指すのか全く不明なので、これが何らかの改善に寄与したのかどうかよくわかりませんが、これまで文部科学省も動物実験関係者も「日本の動物実験は適正に行われている!」と毎度毎度繰り返してきたわけで、そのことを否定する内容です。
ちゃんとやっているなら、改善措置などとられるはずがありません。
動物実験等に関する情報の公表について、1機関のみWEB公開していない
文部科学省の実験動物基本指針には、下記の通り情報公開についても定めがあります。
研究機関等の長は、研究機関等における動物実験等に関する情報(例:機関内規程、動物実験等に関する点検及び評価、当該研究機関等以外の者による検証の結果、実験動物の飼養及び保管の状況等)を、毎年1回程度、インターネットの利用、年報の配付その他の適切な方法により公表すること。
これを守っているかどうかの質問に対し、全ての機関が公表しているとしたものの、WEBでの公表をしているのは394 機関中393機関でした。つまり、1機関だけ、WEBではない方法で公表していることになります。
さらに注意が必要なのは、「予定を含む」とされていることです。少し調べれば毎年の自己点検や実験動物の飼養及び保管の状況など、一部を公開していない大学はすぐ出てきますが、「公表の予定がある」とすることで、この問いへの回答は「YES」にカウントされるのだと思います。
科研費の配分停止・取消とのリンクを周知しているか
問12で、「文部科学省の競争的資金等において、関係法令・指針等に違反し研究を実施した場合には、研究費の配分の停止や、研究費の配分決定を取り消すことがあり、本基本指針についても、その対象とされていることを承知していますか。また、そのことを機関内に周知していますか。」という質問が新たに登場しました。
結果は以下の通りで、周知していない機関がかなりあります。
しかしこれは当然のことで、科研費などと無縁の動物実験しか行っていない大学が多いということでしょう。文部科学省は、遵守義務も罰則もない動物実験基本指針について、科研費等の停止・取消処分が罰則のような役割を果たすと考えているのですが、実際には科研費等に無関係な機関が相当数あるのだと思います。
外部検証は、15年経っても4分の1が受ける意向なし
問13は、動物実験施設の外部検証についてです。これも新しい設問です。2005年(平成17年)に行われた動物愛護法改正に際し、動物実験関係者らは自分たちで相互検証をやるから法律での届出制は止めてほしいと訴えていました。それから既に15年が経ちましたが、外部検証が全ての動物実験施設を網羅するなどということは全くできていません。
今回公表されたアンケートの段階でも以下の通りで、4分の1の施設は外部検証を受ける気がありません。
また、旭川医科大学の例を思い起こしていただければですが、10年前に1度受けた検証結果に、はたして意味があるでしょうか。施設は既に増改築により更新されています。また、人員が変わると管理が変わってしまうことがあります。アメリカなら動物福祉法に基づく研究施設への査察は毎年です。また、問題が起きた時にも農務省(USDA)が苦情申し立てなどに対応します。機関から申し込みがあったときに、おおまかな仕組みしか見ない外部検証に、そうした役割は果たせません。
外部検証の説明会を知らない機関が18機関
最後に、外部検証の説明会の参加についても質問がありました。そもそも開催を知らない機関が18機関、知っていても参加したことがない機関が67機関。2割程度は関心がないことになりますし、問13の結果と照らし合わせると、説明会に参加したが今後数年のうちに受検するつもりはないという機関も16機関程度はあることになります。
外部検証に関心のない機関は、おそらくそれほど動物実験の実施件数が多くないのだろうと推測します。文科省が外部検証を重視するのであれば、これらの機関に対し、動物実験を廃止するよう指導していくべきではないでしょうか。
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