鹿児島市の平川動物公園とカンボジア・カンポット州のTeuk Chhou動物園の間で動物交換の話が持ち上がっています。通常、こういった交渉は水面下でなされるものですが、今回は、カンボジアの動物園のゾウの飼育に現地のNGOが関与していたため、反対運動が起こり、表ざたとなりました。国際署名も立ち上がっています。
平川動物公園の2頭のゾウは共に39歳と高齢化しており、若い個体を入れたいという希望があったことから始まった話のようですが、Teuk Chhou動物園は現地で「恐怖の動物園」として報道されるような劣悪な環境の動物園であり、私的に同園を運営しているカンボジアの上級大臣、ニュム・バンダー氏もお金がないことを認めている状況です。
平川動物公園との動物交換の交渉に浮上しているTeuk Chhou動物園の2頭のゾウ、キリとセイラについても、もともと状態が悪かったために現地のNGOが飼育に関与し、回復をしてきていましたが、この動物交換に反対したタイミングでNGOは動物園から追い出され、再び状況が悪化していると伝えられていました。
そこに突然登場したのが、日本の動物実験受託企業である株式会社新日本科学(略称SNBL)です。
特にサルをつかった動物実験で知られ、発祥は鹿児島ですが、アメリカ、中国での展開も行っている企業です。同社はカンボジアに実験用サルの繁殖・育成・検疫施設を有していますが、突然、同社の名前の入った看板がキリとセイラの飼育場の横に立ったことを、写真入りでプノンペンポストが報じました。しかも、キリとセイラが同社の支援を受けているとされているが、環境は悪いままだと報じられているのです。
同社については動物福祉上の問題がこれまでも国際的にも取りざたされてきており(概略はHUNTERの記事「新日本科学の動物実験事業に暗雲―鹿児島・メディポリス構想の闇― 」参照)、同社東京本社に質問書を送りましたが、なんと回答しかねるとのこと。その旨を文書でもらうということすらできませんでした。
確かに質問数は多くなってしまいましたが、真っ当な社会貢献であれば、一切回答できないなどということがあるでしょうか? 質問は下記のページに掲載しました。
キリとセイラについては、動物福祉の観点から反対運動が展開されている状況があります。動物福祉は、動物実験企業が最も注意を払わなければいけない部分であるはずです。
さらに野生動物保護の観点からも疑いの目を向けられているカニクイザル事業を同社が展開しているカンボジアで国会議員への私的な金銭支援を行っているとも受け取れる状況があるにもかかわらず、一切説明しないというのは企業の態度としていかがなものなのでしょうか。
鹿児島県のサイトには、Teuk Chhou動物園を個人的に運営するバンダー上級大臣が知事を表敬訪問した際の写真が載っていますが(注:その後、削除されました)、県に確認したところ、知事と大臣に並んで写っているのは、新日本科学の永田良一代表取締役社長と同社社員2名とのことでした。
この表敬訪問を伝える南日本新聞の記事に、ゾウの入手については平川動物公園側から新日本科学に働きかけをしたことが書かれていました。
プノンペンポストの元記事の翻訳はつくしさんの「つくしのブログ」をご覧ください。平川動物公園の動物交換に関わるこれまでの経緯もまとめられています。
- つくしのブログ:キリとセイラの支援を動物実験会社であるSNBLが行っていた?でもやせ衰えている なるほど・・・(リンク切れ)
ちなみに、カンボジア現地での報道は、Teuk Chhou動物園側が動物交換でほしがっている動物種などについて、平川側が公式に聞いている話とは全く違うことも書かれているそうです。
Teuk Chhou動物園が公式に何を希望しているのかは明らかではないですが、運営者であるバンダー氏は、あれもこれもと夢を勝手に現地の記者に語っているのではないかと思われます。日本でも、劣悪多頭飼育の個人動物園のオーナーに似たような傾向があるのではないでしょうか。
国内外から意見が行き、今回お写真をお借りした「動物園に行く前に」実行委員会も既に申し入れを行っているなど、平川動物公園側も状況は察知しており、先方に飼育管理や獣医療などの体制についての質問を行っている段階と聞いています。
また、今年度予算がついていたゾウ受け入れのための改築については、現在工事は行っておらず、このままであれば2月の議会の補正予算でゼロ計上に戻されることになるそうです。ただし、ゾウが入ることになれば、その年度で予算をつけて着工の運びになります。
また、平川動物公園は、新日本科学の関与については同社の社会貢献活動だということしか聞いていないとのことですが、社会貢献活動について胸を張って回答できない企業というのはありうるのでしょうか。
新日本科学は、以前、中国・桂林の「桂林雄森熊虎山庄」という野生動物の繁殖施設からホワイトタイガーを平川動物公園に寄贈しています。しかし、この中国の繁殖施設はトラ600頭、クマ300頭を有し、ショーを大々的に行い、熊胆(クマノイ)・補骨酒(虎骨酒)なども扱う怪しい施設です。
ナショナルジオグラフィックが、桂林雄森熊虎山庄などの観光名所の多くはトラの不法飼育場としての裏の顔を持ち、飼っているトラを解体して臓器や肉などを取っていると報じていますし、ニューヨークタイムズも、ここの何百匹もケージに入れられているサルたちの行く末は薬の原料になるか動物実験だと報じています。
サルの動物実験と言えば新日本科学の本業ですが、野生動物の利用を促す施設として国際的に批判を浴びる施設から来たホワイトタイガーの寄贈をありがたく受ける動物園というのもいかがなものなのでしょうか。企業もクリーンなイメージは大切ですが、動物園も今後は同様でしょう。
ちなみに、新日本科学が回答拒否であるのは、先日、同じ霊長類を扱う実験動物中央研究所(実中研)から回答が来たこととも非常に対照的だと思います。実中研も納得のいく回答とは言いかねますが、こちらは本業の動物実験について尋ねたにも関わらず、回答が来ました。ちなみに実中研の関連企業である日本クレアは、インドネシアのカニクイザル繁殖事業から撤退しています。
これからの企業は対話的なイメージも大切でしょう。
鹿児島市に、カンボジアの動物園との動物交換は止めるよう、ぜひご意見をお送りください。
キリとセイラにはカンボジア野生動物サンクチュアリ(The Cambodia Wildlife Sanctuary)に行くという選択肢が残されており、その機会を奪わないでほしいこと、キリとセイラはTeuk Chhou動物園で長らく栄養失調の状態に置かれていたために繁殖はのぞめない可能性があること、動物園の動物の福祉を担保するような法令のないカンボジアに鹿児島の動物を送らないでほしいこと、かつて1万頭いたカンボジアのゾウは500頭にまで減っていることなども理由です。よろしくお願いします。
メールは下記から送ることができます。
キリとセイラの来日は見送りになりました。皆さま、ご意見を送ってくださり、ありがとうございました! 詳しくはまとめページをご覧ください。
[caption id="attachment_12842" align="aligncenter" width="500"] 平川動物公園ゾウ舎 遠景[/caption]鹿児島市の平川動物公園に、カンボジアの劣悪動物園と動物交換を[…]