厚生労働省の研究費で行われている子宮頸がんワクチンの研究のうち健康被害について研究している通称「池田班」(研究代表者:池田修一教授(信州大学医学部脳神経内科、リウマチ・膠原病内科))が今年3月16日に成果発表を行った内容について、捏造だと指摘する記事が雑誌「Wedge」(ウェッジ)6月号に掲載されました。
指摘されていた内容は主に、使われている遺伝子組み換えマウスが、そもそも飼育しているだけでも脳に自然に神経細胞死を起こすマウスだということと、使われた写真はワクチンを接種されたマウスのものではなく、接種済マウスの血清を別のマウスの脳切片に振りかけて撮られたものだというものでした。実際に実験を分担した研究者「A氏」による説明を聞きとって書かれた記事でした。
これらのことがインターネット上で話題になるとともに、信州大学は予備調査に入り、その後、本調査に移行しています。
もし「Wedge」の記事が書いているように実験結果を捏造するようなことがあったとすれば、またしてもマウスの命を無駄に犠牲にする実験が行われたわけですから、当会では、このマウス実験(「ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に乗じた生じた症状厚生労働科学研究事業」の実験)を指定して、6月20日付けで情報公開請求を行いました。
■情報公開の結果は……なんと実験計画書の事前承認がされていなかった!
開示請求結果は、驚くべきことに、該当する動物実験に関し実験計画書の提出が失念されており、後追いで動物実験委員会による承認がなされていた!というものでした。当会が開示請求したために発覚したようで、動物実験委員会は7月22日に実験計画書を承認しています。
マウスの実験の発表があったのは3月にもかかわらず、承認は7月だったわけです。
同日に実験報告書も出されており、その2日前に実験終了となっていました。
▼とんでもないことが書かれている議事録が出てきた!
▼実験計画書そのものはこちら
(発表や報道では、NFκ-β p50ノックアウトマウスとなっていますが、ここでは計画書の通りNF-κβp50ノックアウトマウスと記載しました)
報告書の内容を見ても、真実が書かれているのかよくわからない状況ですが、詳細な事実関係については研究不正の調査が終わらない限り回答は得られないだろうと判断しているところです。
■大学はウェブサイトでお詫び済
そして、なんと8月10日に信州大学はこの件について、既にウェブサイト上にお詫び文を載せていました。(※既にリンク切れ)
8月10日というのは、当会宛に情報公開文書を発送した日付でもあります。この2つが同時に行われました。
「誠に遺憾なことに、本学医学部の教員が、学長の承認を得ずに平成28年2月から5月の間、遺伝子組換え実験を、ならびに平成26年7月から平成28年7月の間、マウスを用いる動物実験を実施していた事実が明らかになりました。遺伝子組換え実験においては、学長承認を受けた実験計画の期間終了後も、実験計画の再申請を行わずに実施していたことから、信州大学遺伝子組換え実験等安全管理規程に違反していました。動物実験においては、同じく、動物実験計画の再申請を行わず、学長承認を得ずに実施していたことから、文部科学省の研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針及び信州大学動物実験等実施規程に違反していました。」と書かれています。(全文下記に掲載)
2種類言及されているように感じますが、実際には同じ実験であり、遺伝子組換え実験と動物実験計画書では有効期間が違うことから、このような違いが生じたとのこと。
当会が知ったときには後付けで動物実験計画書の承認が行われた後で、お詫び文も出て全てカタがついた後であり、何とも大学にとって都合のよい対処が終了した後でしたが、動物実験計画書の承認を得ないで動物実験を行っていた例は、理研STAP細胞論文、酪農学園大学実験動物学准教授に次いで、この2年間で3件目です。
研究者たちは、本当に口で言っているように「ちゃんとやっている」のでしょうか?
■事前に承認を受けていない実験のデータを用いることはできないと信州大学も認める
これは重要な点ですが、事前に動物実験委員会の承認を得ていないこの実験のデータを論文等に用いることはできないはずだという指摘については、信州大学も「はい」と認めています。
つまり、研究不正についてどういう結果が出ようと、倫理的な理由から、このマウスの実験データを論文投稿等に科学的知見として用いることはできません。(そんなことは求めない緩いジャーナルがあれば別ですが)
不正の調査結果については、先日、信濃毎日新聞が「ワクチン研究『不正は無し』」とする報道を行っており、11月2日に研究班代表に不正の有無についての調査結果が伝えられ、14日間の不服申し立て期間を経て公表する方針だと報じられています。
不正調査の結果発表がいつになるかはまだわかりませんが、調査結果が公表される際、信州大学がこの倫理問題に触れるかどうか、注目しています。
■マウスが「妥当」かの議論はどうなるか?
当会が情報公開請求を行ったのは「Wedge」の記事が出た後であり、動物実験委員会が後追いで承認を行った時点では、症状が必ず出るノックアウトマウスが用いられたことに対する研究者たちの批判が既にインターネット上で噴出した後でした。
つまり、信州大学の動物実験委員会は、これらの批判については知りながら、この実験計画書を承認したことになります。この特殊なマウスをわざわざ使ったことについて科学的に問題があるとは考えていないということになるでしょう。
ちなみに、そもそも全ての動物実験が、その目的に合った、つまり研究者が狙う研究結果にとって都合のいい動物を選択した上で行われています。
動物実験というものの本質を考えたとき、この実験だけがおかしいようには思えない部分もあり、この計画承認の妥当性についてもどういう結論が出るのか注目しています。
▼大学のお詫び文
※既にリンク切れ
追記:
その後、信州大学は研究不正に関する調査結果を公表し、その中で実験区から各1匹のマウスから採取した血清を用いたものであるとの説明がありました。説明は実験計画書とは合致しますが、計画書が問題発覚後に作成されたものであることを考えれば、合致するのは当たり前のことかと思います。
それにしても、実験報告書には536匹のマウスを用いたことが記されており、それがノックアウトマウスの繁殖に伴う淘汰を含めたものであるにしても、大学の説明する数との間に開きがあるようには感じます。信州大学内では、数が多かったのは飼育しているだけで短命で死んでしまうマウスだったからかもしれないという意見もあったそうですが、事実関係ははっきりしません。
開示請求で得たマウスの繁殖リストもご参考ください。
- マウス繁殖一覧
(11ページ以降の枠で囲われた部分のみワクチン研究に使われたもので、その他は緑内障研究用です)
また、信州大の公表を受けて、厚生労働省がマウス実験に関するコメントも公表しました。詳細は下記のページをご覧ください。