2019年改正動物愛護法解説:業者以外の不適切飼養に関し、報告聴取や立入が可能に
周辺の生活環境の保全等に係る措置(第二十五条):
不適切飼養への指導、助言、報告徴収、立入検査等を規定
※下線が改正部分。
第四節 周辺の生活環境の保全等に係る措置
第二十五条 都道府県知事は、多数の動物の飼養又は保管に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によつて周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、その事態を除去するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 (略)
3 道府県知事は、多数の動物の飼養又は保管が適正でないことに起因して動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、当該事態を改善するために必要な措置をとるべきことを命じ、又は勧告することができる。
4 都道府県知事は、市町村(特別区を含む。)の長(指定都市の長を除く。)に対し、前三項の規定による勧告又は命令に関し、必要な協力を求めることができる。
第四節 周辺の生活環境の保全等に係る措置
第二十五条 都道府県知事は、動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によつて周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、必要な指導又は助言をすることができる。
2 都道府県知事は、前項の環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、その事態を除去するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 (略)
4 都道府県知事は、動物の飼養又は保管が適正でないことに起因して動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、当該事態を改善するために必要な措置をとるべきことを命じ、又は勧告することができる。
5 都道府県知事は、前三項の規定の施行に必要な限度において、動物の飼養又は保管をしている者に対し、飼養若しくは保管の状況その他必要な事項に関し報告を求め、又はその職員に、当該動物の飼養若しくは保管をしている者の動物の飼養若しくは保管に関係のある場所に立ち入り、飼養施設その他の物件を検査させることができる。
6 第二十四条第二項及び第三項の規定は、前項の規定による立入検査について準用する。
7 都道府県知事は、市町村(特別区を含む。)の長(指定都市の長を除く。)に対し、第二項から第五項までの規定による勧告、命令、報告の徴収又は立入検査に関し、必要な協力を求めることができる。
現行法では、「多数」の動物によって周辺環境に問題が起きていたり劣悪飼育やネグレクトが生じている場合に、自治体が改善の勧告・命令をできる規定があります。しかし近隣住民からの悪臭等の苦情や、劣悪飼育、ネグレクトに頭数は関係ありません。1頭の飼育でもそういった問題が全国で発生しています。
私たち3団体がこの点を強く求めた結果、「多数の」が削除され、1頭であろうと何頭であろうと、自治体は勧告・命令を出すことができるようになり、さらに報告を求めたり、立入検査をしたりできるようになりました。
これまで、住居の不可侵の原則があることから、業者ではない一般家庭に立入を行うことは難しいとされてきていましたので、画期的な改正です。
なお、立入検査を拒むと20万円以下の罰金に処されます。
条文の解釈について
国会会議録から、参考となる部分を掲載します。
第198回国会 参議院環境委員会 第9号 令和元年6月11日
※審議が行われた議事録より該当箇所
(参議院の委員会ですが、法案提出者である衆議院の国会議員が答弁しています)
○福島みずほ君 二十五条一項において、都道府県知事が、環境省令の定める事態が生じている場合は、必要な指導や助言ができると定めています。
この点についても多くの愛護団体から、一生懸命に地域猫の保護活動をしている人たちへの指導がどのようなときに行われるのか、周辺住民の一方的な苦情だけで保護活動をしている人たちへの活動が制約されることはないのかどうか。生活環境に著しく支障が生じている場合といった限定的な運用とするべきではないでしょうか。
○衆議院議員(生方幸夫君) 今回の法改正において第二十五条一項を設けた趣旨は、勧告の前の段階でより権力的でない手段である指導、助言を行うことができることとすることにより、より柔軟な対応を可能とするところにあります。
地域猫に対する給餌、給水等について周辺の住民から苦情が出れば、直ちに都道府県知事から給餌、給水を止めるよう指導等がなされるということはございません。都道府県知事から必要な指導等がなされるのは周辺の生活環境が著しく損なわれている事態が発生している場合でありまして、それはすなわち、地域猫活動を行う者の猫に対する給餌、給水等によって周辺住民の生活に著しい支障を及ぼしていると認められる事態であって、かつ当該支障が、複数の周辺住民からの都道府県知事に対する苦情の申出等により、周辺住民の間で共通の認識となっていると認められる場合に限られるというふうに考えております。
施行規則改正
この改正に伴い施行規則が若干改正されました。変更点は下線部だけです。
動物の愛護及び管理に関する法律施行規則
(周辺の生活環境が損なわれている事態)
第十二条 法第二十五条第一項の環境省令で定める事態は、次の各号のいずれかに該当するものが、周辺地域の住民(以下「住民」という。)の日常生活に著しい支障を及ぼしていると認められる事態であって、かつ、当該支障が、複数の周辺住民からの都道府県知事に対する苦情の申出等により、周辺住民の間で共通の認識となっていると認められる事態及び周辺住民の日常生活に特に著しい支障を及ぼしているものとして特別の事情があると認められる事態とする。
一動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に伴い頻繁に発生する動物の鳴き声その他の音
二動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水に伴う飼料の残さ又は動物のふん尿その他の汚物の不適切な処理又は放置により発生する臭気
三(略)四動物の飼養、保管又は給餌若しくは給水により発生する多数のねずみ、はえ、蚊、のみその他の衛生動物
改正施行規則公布と同時に公表された「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則の一部を改正する省令及び環境省関係告示の整備に関する告示について」には、概要として以下のように書かれています。
(5)周辺の生活環境が損なわれている事態(第12条関係)
改正法を受け、従来の規定に加え、「日常生活に特に著しい支障を及ぼしているものとして特別の事情があると認められる事態」を規定し、複数の苦情の申出がなくとも、特定の個人に健康被害が生じている場合などに都道府県知事による指導・助言等を行うことを可能とする。
施行通知
施行の直前、2020年5月28日付けで環境省から自治体に通知された「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律の施行について」(施行通知)では、以下のように説明されています。(この通知は、地方自治法に基づく、国から自治体への「技術的な助言」に相当します)
8 都道府県知事による不適正な飼養に係る指導等の拡充(第25条関係)
法第25条第1項において、周辺の生活環境が損なわれている事態が生じているときに、当該事態を生じさせている者に対し、従来の規定による勧告・命令に加えて、必要な指導・助言を行うことができることとされた。また、同条第5項において、必要な報告徴収又は立入検査をすることができることとされた。これらにより、動物の飼養等に起因した生活環境保全上の支障が発生した場合に、事態の早期段階における行政指導である指導若しくは助言又は実態把握のための報告徴収若しくは立入検査が可能となり、より効果的に事態の把握と改善を図ることができることとされた。
また、従来は、多数の動物の飼養又は保管が行われていることが措置の前提となっていたが、多数に限らず一頭のみの飼養又は保管であっても、例えば、吠え癖のある犬による頻繁な吠え声の発生の放置などの周辺の生活環境が損なわれている事態や、ネグレクト等の同条第4項に定める虐待を受けるおそれがある事態が生じている場合には、措置の対象となり得ることとなった。
さらに、同条第1項の指導又は助言に関する規定において、周辺の生活環境が損なわれている事態が生じたことの起因となる活動に給餌・給水が追加された。この規定により、例えば、公園等において、特段の計画性を持たず、結果として生じる周辺環境への影響に対する配慮や地域の理解を欠いた状態で動物への餌やり行為を行う者に対し、当該行為を起因として周辺の生活環境が損なわれている事態が生じている時に、必要に応じて、都道府県知事が指導又は助言を行うことができることとされた。
加えて、施行規則第12条において、周辺の生活環境が損なわれている事態の対象に、周辺住民の日常生活に特に著しい支障を及ぼしているものとして特別の事情があると認められる事態が追加された。これは、従来の規定では、複数の周辺住民からの都道府県知事に対する苦情の申出等により周辺住民の間で共通の認識となっていると認められることが前提であったが、複数の苦情の申出等がなくとも、特定の個人に健康被害が生じている事態も想定されることから規定された。
法第25条に定める周辺の生活環境の保全等に係る措置に関し、都道府県知事は、必要に応じて、同条第7項の規定に基づく市町村(特別区を含む。)の長(指定都市の長を除く。)に対する協力を求める等の連携を図られたい。
2019年改正法の概要 目次
● 第一種動物取扱業による適正飼養等の促進等
- 登録拒否事由の追加により欠格要件が強化されました
- 環境省令で定める遵守基準を具体的に明示する条項が入りました
(飼養施設の構造・規模、環境の管理、繁殖の方法等) - 販売場所が事業所に限定されます
- 生後56日(8週)を経過しない犬猫の販売規制が実現するも、例外措置が附則に
- 帳簿の備付けと報告の義務が犬猫等販売業から拡大
- 動物取扱責任者の条件が追加されました
- 勧告・命令違反の業者の公表と、期限についての条項が新設されました
- 廃業・登録取消後に立入検査や勧告等を行うことができる規定が新設されました
参考:2019年改正動物愛護法に入らなかったこと<動物取扱業>
● 動物の適正飼養のための規制の強化
● 都道府県等の措置等の拡充
- 動物愛護管理センターの業務を規定、自治体への財政上の措置も新設
- 動物愛護管理担当職員の配置は義務になり、市町村にも設置努力規定
- 動物愛護推進員は委嘱が努力義務に
- 所有者不明の犬猫の引取りを拒否できる場合等を規定
● その他