日本初のBウイルス発症事例の詳細は、このままうやむやになる?

昨年、鹿児島の新日本科学で発覚した日本初のBウイルス発症例ですが、新型コロナウイルスのパンデミックによってすっかり影が薄くなってしまいました。このまま、病状の転帰や発覚までの経緯などは明らかにされずに終わるのかもしれません。

Bウイルスと動物実験

Bウイルスは、サルを扱う研究者がサルに咬まれ、脳髄膜炎を発症して死亡したことにより、1933年に見つかったウイルスです。過去に海外で50例ほど患者の報告がありますが、ほぼ全ての事例がサルを扱う研究者か実験技術者とのこと。患者から看護者に感染したヒト-ヒト感染は、1例だけだそうです。

無治療の場合の死亡率は70~80%とされ、発熱、頭痛、肺炎、麻痺などの神経症状を経て脳炎症状により死亡。回復例でも、重症化した場合は後遺症を残すことが多く、「こんな怖い病気があるのによくサルの実験なんかできるな…」と思ったものでした。

感染は、ウイルスを排出しているサルに咬まれたり、引っ掻かれたり、唾液・尿などに晒されたりした場合だけでなく、サルに使用した注射針の針刺し事故や培養ガラス器具による外傷でも起きます。

しかし、サルはウイルスを持っていても、通常、発症はしません。アジアに生息するマカク属のサル(アカゲザル、カニクイザル、ニホンザル、タイワンザルなど)では野生のサルの半数以上が感染しているとも言われており、日本の実験施設のサルも、かつては3分の1くらいが抗体陽性でした

実験ザルのストレスが人への感染を生む

Bウイルスはヘルペスウイルスで、感染したサルは生涯ウイルスを持ち続けますが、サルの免疫力が落ちるようなことがあったりすると、ウイルスが増えて唾液などに排出するようになり、そういったときに人へも感染しやすくなります。

つまり、これまでの発症例が全てサルの動物実験から生じているのは、動物実験施設の飼育下・実験下にあるサルが強いストレス状態にあることも関係していると考えられます。

例えば、加計学園岡山理科大学の獣医学部長となった、サルの動物実験&感染症分野の大御所である吉川泰弘氏のスライドでも、抗体陽性ザルを扱う「ストレスのかからない短期実験」は「安全」となっています。裏を返すと、サルにストレスがかかる実験や長期実験は感染の危険性が高まるということでしょう。

サルを苦しめることは、人の健康・安全にも危険をもたらしてきました。

これ以上の公表はない? 新日本科学に感じる秘密主義

しかし不思議なことに、これまで日本では発症事例がなく、「日本には野生のニホンザルがいるので、野生のサルがいないアメリカなどと違い、日本人は抗体を持っていてBウイルスに強いのではないか」などとサルを用いる実験関係者たちは言っていました。

ですが、昨年の新日本科学の発症例では、2例目の発症者である元技術員(サルの世話などをしていた)が最初に体調不良を訴え鹿児島大学病院を受診したのは、2014年のことと報道されていますから、本当に日本でこれまで発症例がなかったのかどうかは、わからないと感じます。Bウイルスによる症状と気がつかずに見過ごされてきただけの可能性もあります。

これまでの症例を掘り起こしたり、今後の対策や治療に生かしたりする意味で、発症からどういう転帰をたどったのか、人の症例について詳しく公表されるべきですが()、鹿児島保健所からの回答では、どうも患者本人のプライバシー優先で終わりそうです。重篤だったのではないかと感じる報道もありましたが、実際のところはどうだったのでしょうか。

新日本科学は、ウェブサイトで代表取締役会長兼社長の言葉として「新日本科学グループの社員は、“創薬と医療技術の向上を支援し、人類を苦痛から解放する事を絶対的な使命”としています」などとうたっていますが、動物のデータなどよりずっと重要な、ヒトの症例の知見については明らかにならず、医学に貢献するつもりはないと感じます。

使っているサルの種類や数すら非公開

しかも、新日本科学は何ザルをどれだけ使っているのか、公表していません。※下記追記参照

例えばアメリカであれば、動物福祉法に基づく動物実験施設の登録制により毎年の使用数も公表されるところ、日本では何の法制度もなく、動物実験を行う企業等は自主規制を謳歌しています。

Bウイルスに関するリリースでも、AAALACインターナショナル(国際実験動物管理公認協会)の施設認証のことなど書いていて、違和感しかありません。

鹿児島保健所からの回答では、何ザルからの感染であるのかも把握できていないとのことで、飼育等に関わる従業員が複数の種を同時に世話するような管理方法がとられていたのか?等、疑問も感じますが、潜伏期間に2日から10年までの幅の広さがあること等を理由に(ただし通常は発症は1カ月以内とされているのですが)、不明となっているようです。

ただ、鹿児島市に特定動物について情報開示請求を行ったところ、現時点でニホンザルがいないことだけは判明しました。(特定外来生物(カニクイザル、アカゲザル、タイワンザル)については改めて開示請求中ですが、これまで環境省も公開には消極的です。)

※追記:ただし、その後カニクイザル、アカゲザルについては、特定外来生物であるため、開示請求で飼育規模を確認することができました。

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本当に問題はなかったのだろうか

Bウイルスは四類感染症に指定されており、発症が認められた場合、診断した医師は直ちに届出を行わなければなりませんが、届出までが速やかだったのか疑問も残ります。

なぜなら、市が国立感染症研究所からの検査結果を受け取り厚労省への報告へ至った11月27日の20日も前に、既に水面下では情報が出回っていたからです。

そして翌28日の1例目の公表の直前にも、感染者は2名であるとの情報が既に出回っていましたが、2例目の公表は1カ月ほどの時間差がありました。

保健所は2回目の回答で新日本科学をかばっていますが、疑問は残ります。1例目の公表があった後に一度保健所に電話をしていますが、他の例については知らない印象を持ったので、調べるべきだと言いました。その後、厚労省に電話をしたときには、他の事例がないかの調査を行っているとのことで、そのとき「調べ始めたのならよかった」と思った経緯があります。

ちなみに、新日本科学は実験用サルの輸入を大量に行っているはずですが、Bウイルス自体はニホンザルも広く持っているウイルスであり、輸入検疫の対象にはなっていません。(輸入するサルが感染していても、外見的な症状が出ていなければ問題視されることはありません。新日本科学は自施設での検疫ですが。)

新日本科学でサルの殺処分が行われたのかどうかについては、確認するすべがありませんが、少なくとも保健所はそのような指導はしていないとのことです。

回答を全文掲載いたします。

鹿児島保健所からの回答

1回目(2020年6月1日)

1 現在、過去にさかのぼって他に感染者がいないかどうかについて調べているというのは事実でしょうか。調べ始めたのはいつからですか。 また、どのような方法によって調査していますか。新日本科学は協力的なのでしょうか。

【回答】
1例目の患者発生の届出を受けて、新日本科学へ施設調査に伺った際に、同社の協力のもと、サルに咬まれたりしたことにより何らかの症状がある方の有無を確認しています 。 ウイルス検査につきましては、 発症時のウイルス量が多い時期の検体では確認できますが、発症時から長期間経過するとBウイルスの検出が困難であることから実施しておりません。

なお、Bウイルス病の患者については、これまでに2例届出があり、もう1例の方は、以前新日本科学でサル実験業務に従事されており、発症当時の検体を検査したところ B ウイルスが検出されたため、届出があったものです 。

2 調査が行われているのが事実である場合、調査結果は、いつ頃、どのようにして公表されますか。発症とサルの飼育との関連性等について、記録として残す必要があると考えますので、学術論文もしくはそれに近い形で公表がなされるべきではないかと考えますが、その予定はありますか。

【回答】
過去にさかのぼって他に感染者がいないかどうかの調査結果につきましては、本市保健所で公表する予定はありません。
また、学術論文等につきましては、ご本人が公表を希望されていないことを関係機関へお伝えしております。

3 今回発症した患者も、過去にはサルの飼育管理に関わる 仕事をしていたというのは事実でしょうか。時期としては、いつ頃まで飼育に関わっていたのでしょうか。

【回答】
2例の患者はいずれもサルの実験に関する仕事をされていました。なお、時期等の詳細につきましては、個人情報にあたりますので、回答は差し控えさせていただきます。

4 新日本科学が現在把握している、 Bウイルス抗体陽性のサルの種別ごとの数を教えてください。

【回答】

企業情報にあたりますので、本市保健所からの回答は差し控えさせていただきます。

5 サルではサルではBウイルス感染は珍しくないとこれまで聞いてきましたし、これまでも抗体陽性のサルが数多く動物実験に使われてきたかと思います。人に発症者が出たからといって、ことさらに殺処分する必要はないはずですが、殺処分について保健所から指導したり、ほのめかしたりということはしていないでしょうか。もしくは、新日本科学が自主的判断で科学が自主的判断で殺処分することもあり得るかと思いますが、そのような事実は把握していらっしゃいますか。

【回答】
本市保健所が抗体陽性のサルについて、殺処分の指導等をすることはありません。
また、新日本科学における抗体陽性のサルの処遇については、同社が定める標準作業手順書に基づき適切に対応しているものと考えております。

6 今回発症した患者の感染源はカニクイザルですか。今回発症した患者の感染源はカニクイザルですか。(R2.5.25.追加質問)

【回答】
感染源につきまして、サルの特定はできておりません。

2回目(2020年6月16日)

1 概要の発表について
概要の発表につきましては、本市保健所では、発生届の受理に伴う公表を行っており、国立感染症研究所や厚生労働省では、ホームページ上で今回の事例を踏まえたBウイルス病に関する情報や検証の結果得られた再発防止策等の情報を掲載しております。企業につきましては、自身のホームページ上で感染者の発生や感染予防策等について公表していることを把握しております。

今回の2例の 患者発生につきましては、日本で初めての報告例ということもあり、発生届受理時には、国立感染症研究所及び厚生労働省に調査協力依頼を行い、両者のご教授 のもと、3者で協議しながら調査に臨み結論を出し、企業に対し、1 例目の調査後には「助言」を、2例目の発生届受理時には「指導」を行ったところです。

企業におかれましては、調査に対し秘匿できる状況ではなかったと考えており、また、対応が今後の在り方にも影響することを重々ご理解し、責任を果たすという姿勢のもと、 助言や指導を受け、さらなる感染予防対策を実施しております。また、現場への立ち入り調査の際には全面的にご協力をいただき、回答は詳細な状況を把握した結果であることをご理解ください。

2 感染源のサルの種の特定について

1例目及び2例目の患者とも、発症からかなりの期間を経過していること、感染時期や感染経路が不明であることなどから、感染源のサルは特定されておらず、 国立感染症研究所、厚生労働省及び本市保健所が調査を行った際に、「現時点では個体の特定はできない。」と結論付けております。

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