動物性集合胚:人と動物のキメラ規制緩和に反対する要望書&まとめ

2013.9.3アップ
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最終更新2021.2.28

ヒトクローン規制法に基づく特定胚の一つに指定されている「動物性集合胚」とは、動物の胚(受精卵が発育した状態のもの)にヒトの細胞を混ぜた胚です。指針改正前は、原始線条が現れるまで(原始線条が現れない場合は14日以内)の研究が許されていましたが、このようなキメラ胚を動物やヒトの子宮に移植することは禁じられていました。

しかし、これを解禁し、動物の胎内に着床させて胎児として産ませたり、人の細胞や組織を持つキメラ動物として成長させたりしてもよいかどうか、内閣府の生命倫理専門調査会および文科省で議論が進められたため、PEACEでは、動物福祉の観点から署名を実施し、以下の要望書を内閣府及び文部科学省に提出するなど、反対のキャンペーンを行いました。

結果として、生命倫理専門調査会で条件付き解禁の見解が出たのち、文部科学省で特定胚指針を改正するとの結論が出てしまい、人と動物のキメラを生んでもよいとする解禁を止めることはできませんでした。霊長類と人のキメラすら、禁止されませんでした。

動物性集合胚の作成目的を移植用ヒト臓器の作成に関する基礎的研究に限る旨の規定も削除され、実験動物モデルをつくること自体が目的となることまで許されてしまいました。人の生殖細胞を持った動物からとった生殖細胞を受精させないことなどを除けば、ほぼ、やりたい放題な結果です。

文科省がこの問題を専門に検討するための作業部会を立ち上げましたが、座長すら中立な立場ではなく、こういった研究を積極的に行うべきだと明言する研究者が任命されており、解禁という結論に対して誘導的な議論が継続されました。実態として、動物実験を好んで行っている研究者や、それを支持する法学者たちだけで話し合って決めたのです。

実際に実験の希望が出た場合も、文科省の審議会で審査するといいますが、届出ですから追認せざるをえずほぼ意味はないでしょう。研究者らが身内で審査して認めればどのような実験でも行っていいというのが、日本政府の基本姿勢です。(そして、実際にそのようになりました。)

動物の体内で人間の臓器を成長させることが技術的に可能かどうか、実際のところ、わかりません。成功したかのように報じられている研究も、わずかに人間の細胞が混じった程度の話です。

長く続いた文科省での議論を聞いて、実用化はおそらく不可能だろうと思いました。ほかの再生医療技術のほうが実用化は早いでしょう。それでも動物を道具のようにいじり回したいから、非倫理的な研究でも行いたいのが研究者なのだと実感しました。

仮に人の臓器が動物の体内で育ったとして、その臓器の中に動物の細胞が交じることは避けられませんから、異種移植であることからくる免疫の問題などはずっとついてまわります。しかし、例えばブタで人の臓器をつくったとしても、その臓器の中の血管はブタの細胞になるということがわかると、研究者は、血管を生じさせる遺伝子を欠損させたブタをつくるようなことをします。血管のないブタの胚に人の細胞を混ぜて成長させれば、血管が人の細胞に置き換わったブタが生まれるというわけです。

こういった非倫理的な技術のためにおびただしい数の動物が犠牲になり、そこで生じる動物の苦痛もまだこれから未知数のものがあります。そもそも家畜は、体細胞クローンを生産しようとするだけでも、流産、死産、産後直死、病気などが多く、生命操作により犠牲や苦痛が増大します。さらに人の細胞を混ぜようとするのですから、失敗で犠牲になる動物の数はおびただしいものがあるでしょう。

倫理観のないおかしな生命操作が次々と行われているのが生命科学の世界です。しかし、それを止める手段は何もないのが現状です。

改正された指針に基づいて、すでに東京大学と明治大学が実験を進めています。

全体の経緯(ブログ履歴)

※上が古く、下へ行くほど新しいです。

まとめページ

<政府側資料>
内閣府総合科学技術会議のサイトへのリンク:
生命倫理専門調査会(第70回~第74回)
生命倫理懇談会(総合科学技術会議が停止していた時期に開催されていたもの)

文部科学省のサイトへのリンク:
生命倫理・安全部会
特定胚等研究専門委員会(旧特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会)
特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会動物性集合胚の取扱いに関する作業部会


2013(平成25)年8月30日

文部科学省研究振興局ライフサイエンス課
生命倫理・安全対策室 御中

動物性集合胚の規制緩和に反対する要望書

当会は、現代社会において一方的に搾取されるばかりの動物たちの現状に心を痛め、日ごろ活動をしている市民グループです。会の日本語の呼称を「命の搾取ではなく尊厳を」としているとおり、動物に対する生命操作全体を、動物の尊厳を冒すものととらえ、全般に異議を唱えるものです。
今般、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(以下、クローン規制法)に基づく動物性集合胚をめぐる規制に対し、条件付きで動物胎内への移殖を容認する見解が内閣府総合科学技術会議生命倫理専門調査会から出されたところではありますが、当会として継続して反対の意を表明するとともに、文部科学省での検討開始に際して以下の点を要望いたします。

1.動物性集合胚を動物の胎内に移植させることに反対します。

クローン規制法に基づく現在の規制の根拠が、人間の尊厳への配慮に限定されていることは理解しております。しかし、動物にも、その動物らしく生きるための尊厳は存在し、そのことも十分尊重されるべきだと私たちは考えます。
そもそも動物実験自体が動物に苦痛をもたらしており、あまりに野放図に行なわれている現状がありますが、そこからさらに生命操作を進め、ヒトと動物のあいだの種の壁を乗り越えるようなキメラ作成実験が行なわれる状況は、さらに科学技術の暴走であるとしか考えられません。

動物性集合胚に関しては、これまでの動物実験の知見があったとしてもヒト細胞で行なったときにどのような結果となるか未知数であることに変わりはないこと、動物に新たな苦痛をもたらす可能性があること、操作の対象が人の胚であろうと動物の胚であろうと倫理上の問題に相違があるとは思えないことなどから許容できない技術であり、動物の胎内へ移殖すること及び出産させることに強く反対します。

内閣府の生命倫理専門調査会から条件付き容認の見解が出たところではありますが、関連する意識調査においても動物のヒト化に対して否定的な世論のほうが勝っており(資料1、2)、文部科学省においても、根本的な倫理問題について再度議論がなされることを要望いたします。

2.国は、まず先に動物実験全般の規制をどうするかについて取り組んでください。

日本においては、動物実験全般の規制をどうするかという大きな問題が積み残しとなっているのは周知のとおりです。昨年、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動物愛護法)が議員立法で改正された際にも、医学者らが一斉に反発をしたため、動物実験施設の届出制すら実現しないままとなりました。
このような国際的に立ち遅れた状況下で、倫理的問題をはらむ動物実験を研究者が意のままに行うようなことが、今後さらに許されるのであれば、国民の科学者に対する不信感はより一層強まるばかりです。

内閣府の生命倫理専門調査会においては、諸外国では動物性集合胚を用いた実験自体がさほど行なわれておらず、明確な規制もあまりないが、EUにおいては動物実験自体に対する規制が存在し、その中で取り扱われていること、日本にはそういった規制自体がないことなどが指摘されましたが、最終的な取りまとめ文書ではその点が盛り込まれておらず、表面的な比較で終わってしまっていることが問題だと考えています。

動物福祉に関連する法制度が諸外国とは根本的に違う中、その議論を置き去りにしたまま、一部の研究者による日本独自の「ガラパゴス的」研究に対する執着に、国が動かされるようなことがあってはならないと考えます。

3.動物性集合胚をクローン規制法の規制対象から除外せず、審査体制の強化を行なってください。

日本では、動物実験を行なう者と同じ機関に所属する者によって動物実験計画の承認が行なわれる形がとられていますが、それすら法的強制力をもって行なわれてこなかったために浸透が進まない状況がありました。個別の動物実験の内容に国が関与できるような規制もなく、そのような状況下で動物性集合胚をクローン規制法の枠組みから外すようなことは、絶対にやめていただきたいと思います。仮に、今回何らかの指針改正が検討されたとしても、動物性集合胚を特定胚として扱う体制は必ず継続し、個別の実験計画に対する厳しい審査体制を構築してください。ヒトと動物のキメラが作成されようとしているにもかかわらず、現状の届出制が継続されるのであれば規制が弱すぎると感じます。

4.議論にあたっては、動物実験施設の現地調査、改善指導等を行なってください。

動物性集合胚については、東京大学医科学研究所の中内啓光教授によるブタを用いた膵臓再生研究が解禁へ向けた一つの根拠となっていますが、昨年、東京大学へブタの動物実験に関する文書の情報公開請求を行なった際、医科学研究所については「文書不存在」との回答を得ており、同研究所でブタを用いた動物実験が行なわれてないことは明らかです。(資料3)
実際にこのブタの実験が行なわれたのは、共同研究者である長嶋比呂志教授のいる明治大学農学部であることは論文を見ればわかりますが、リリース等であえてこのことが伏せられているように感じられることにも不信感を抱きます。

もし仮に、「特定胚の取扱いに関する指針」が改正され、実際に動物性集合胚を着床させる実験が行なわれることとなったとして、その実験が農学部で行なわれるのであれば、人の尊厳の意味からも、強い違和感をおぼえる人が多いのではないでしょうか。また、実験動物福祉の観点からいえば、環境省の「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」が畜産の実験を適用除外としている現状もあります。

動物性集合胚に関しては、一般論だけではなく、どの施設・設備で、どの審査体制・管理体制のもとで実験が行なわれることになるのか、具体的に計画を十分把握し、動物福祉に関しても、現地への立入調査をしてから議論を開始するべきではないでしょうか。

ちなみに、明治大学は私立大学であり、どのように動物実験計画書が審査されたのか、文書の開示請求を行なうこともできず、外部からうかがい知る手段がありません。同学部には「動物実験委員会内規」という名称の文書は存在しますが、閲覧に行かなければ見ることができず(資料3、4)、その他の大学が動物実験全般をカバーする規程を設けて公開している現状とは隔たりがあります。文部科学省の「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」が定める自己点検結果の公開状況についても同大学に問い合わせていますが、速やかな回答を得られていません。現在回答待ちではありますが、動物実験指針が施行されてから7年の月日が経つにもかかわらず、即答できないことには疑問を感じます。

このような状況の大学で行なわれた動物実験が、生命倫理の議論の論拠となってきたこと自体が問題ではないでしょうか。

5.動物の胎児の保護そのものについても議論を。

動物の胎児について、どの時点からを法的に保護するかについて、日本では公的な議論がなされたこともなく、放置された課題となっています。国際的には、実験動物福祉に関する議論は、胎児・魚類・遺伝子組み換え動物等に関心が広まっており、日本は大幅に立ち遅れています。動物性集合胚に限らない、動物の胎児の法的保護に関する議論がまず日本には必要だと考えます。

6.動物を犠牲にしない技術を最終目標としてください。

今回の規制緩和の検討においては、最終的な研究目的としてブタでヒトの臓器をつくることが掲げられていますが、一方で最初からヒト幹細胞を培養することによって組織を生み出そうとする研究もあります。最終的に動物に犠牲を強い続ける技術は倫理的とは言えず、より動物を犠牲にしない方法があるのであれば、常にそちらを選択し続けることが21世紀の科学にとって重要な道筋だと考えます。
より生命操作の度合いの高い技術に期待し続けようとすることは、いつか社会のあり方をも変えてしまうかもしれません。どうか今ここで、選択を誤らないでください。

以上、何卒よろしくお願い申し上げます。

資料1 動物の体内でヒトの臓器を作製、どう思う? – Yahoo!ニュース 意識調査
資料2 第70回日本生命倫理専門調査会資料「再生医療研究における動物の利用をめぐる市民と研究者の意識調査」東京大学医科学研究所 武藤香織
資料3 東京大学 法人文書不開示決定通知書
資料4 明治大学ホームページ 動物施設および動物実験の運営

▼署名サイトへ飛ぶ ※終了しました
オンライン署名にご協力ください!人と動物のキメラを胚の段階から作成し誕生させることを解禁しないでください


平成25年(2013年)6月5日

内閣府総合科学技術会議
生命倫理専門調査会 御中

動物性集合胚の規制緩和に反対する要望書

当会は、現代社会において一方的に搾取されるばかりの動物たちの現状に心を痛め、日ごろ活動をしている市民グループです。会の日本語の呼称を「命の搾取ではなく尊厳を」としているとおり、動物に対する生命操作全体を、動物の尊厳を冒すものととらえ、全般に異議を唱えるものです。
今般、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(以下、クローン規制法)に基づく動物性集合胚をめぐる規制に関して、緩和の検討がなされていることに対し、反対の意を表明するとともに、以下の点を要望いたします。

1.国は、まず先に動物実験全般の規制をどうするかについて取り組んでください。

日本においては、動物実験全般の規制をどうするかという大きな問題が積み残しとなっています。
昨年、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動物愛護法)が議員立法で改正された際にも、医学者らが一斉に反発をしたため、動物実験施設の届出制すら実現しないままとなりました。
このような国際的に立ち遅れた状況下で、倫理的問題をはらむ動物実験を研究者が意のままに行うようなことが今後さらに許されるのであれば、国民の科学者に対する不信感はより一層強まるばかりです。
特に、動物性集合胚に関しては、海外ではあまり関心が持たれておらず、調査会の議論においても、日本独自の「ガラパゴス的な」研究だとの意見もありました。動物実験全体の議論を置き去りにしたまま、一部の研究者による特殊な研究への執着に、国が動かされるようなことがあってはならないと考えます。

2.動物の胎児の保護そのものについても議論を。

動物の胎児について、どの時点からを法的に保護するかについて、日本では公的な議論がなされたこともなく、放置された課題となっています。
国際的には、実験動物福祉に関する議論は、胎児・魚類・遺伝子組み換え動物等に関心が広まっており、日本は大幅に立ち遅れています。
動物性集合胚に限らない、動物の胎児の法的保護に関する議論がまず日本には必要だと考えます。

3.動物性集合胚を子宮に移植すること、出産させることに反対します。

クローン規制法に基づく現在の規制の根拠が、人間の尊厳への配慮に限定されていることは理解しております。しかし、動物にも、その動物らしく生きるための尊厳はあるはずであり、そのことも配慮されるべきではないでしょうか。
特に、どのような動物が生まれるかが未知であり、動物が苦痛を感じることになる可能性があるような生殖実験は、動物福祉の観点からも強く規制されるべき研究分野だと考えます。動物性集合胚を子宮へ戻すこと、及び出産させることに強く反対します。

4.動物性集合胚をクローン規制法の規制対象から除外しないよう求めます。

日本には、EU諸国のように、個別の動物実験の内容に国が関与できるような規制が一切ありません。そのような状況下で、動物性集合胚の実験をクローン規制法の枠組みから外すようなことは、絶対にやめていただきたいと思います。仮に、今回若干の緩和が検討されたとしても、特定胚として国が管理する体制は必ず継続してください。

以上、何卒よろしくお願い申し上げます。

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