「3Rs*に立脚したサイエンス、サイエンスを支える3Rs」をテーマに、2021年11月11日(木)から13日(土)まで、日本動物実験代替法学会第34回大会が開催されました。
2021年は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、オンラインとオフラインのハイブリッド開催で、475名の参加があったとのことです。PEACEは代表が学会員となっており、毎回参加をしています。今回はスタッフも1名参加しました。
驚愕! 動物実験推進者が代替法学会に圧力
今回の大会は、大会長が動物実験代替法の研究者ではなく、実験動物管理に関わる獣医師であったことも影響してか、動物実験推進寄りの内容が強かったことはとても残念です。特に、初日の特別講演2が、実験動物福祉に関する法制度の整備に反対するロビー活動の中心人物、浦野徹氏(自然科学研究機構、元熊本大学)であったことは驚愕でした。
3Rsのうち2つは動物実験の削減と動物の苦痛の軽減なので、日本では、代替法学会が「1Rではなく3Rsをやる」としている時点で、動物実験に関わる者が学会に加わることはやむを得ない状況が作られてしまっています。それでもまだ、そうした動物実験関係者が、動物実験の削減や苦痛の軽減に必死に取り組んでいるのなら理解はできるのですが、実態は、代替法学会に潜り込んで、代替法を推進させない方向に権限を使っていることが伺い知れるのです。
動物実験代替法学会は、もともとは動物愛護法の改正に賛成で、法律の裏付けがなければ代替法は進まないということを理解されている先生方が中心にいらっしゃいました。改正賛成の意見書も取りまとめていましたが、それを阻止させたのが、浦野氏らをトップとする動物実験関係者です。さらに、なんと大会にも乗り込んできて、自分たちと「対話しろ」と圧力をかけていたのは驚きました。表向きの言葉は、「対話」という一見良さげなワードを使っていますが、意味は「あなたたち代替法研究者は、私たち動物実験関係者の言うことをききなさい」であったことは明らかです。
浦野氏の話はいつもの「動物実験は機関管理されているから適正に行われている」という主張です。機関管理とは、自主規制に過ぎません。それも、実験計画書審査などの具体的な判断基準が示されていない中で、おのおのが勝手にやってよいタイプの自主規制です。
ふつう、どこかの業界で働いている人は、自分たちの業界の欠点や遅れているところはわかっているものです。しかし、浦野氏はそういった根本的な問題点を認めることはしません。なぜなら自由に、自主管理だけで、自分たちがやりたい動物実験は全部やりたいからです。自治体や市民の手に情報を渡すことを恐れています。
浦野氏はヘルシンキ宣言を動物実験が必要な根拠として挙げていましたが、これも旧態依然で、誤りです。ヘルシンキ宣言は、かつては「動物実験に基づいて」となっており、人間で実験する前に必ず動物実験をしなければならないかのような書きぶりでしたが、2000年に改訂がなされており、 「必要に応じて(as appropriate)」という現実的な表現に変わっています。人間で行えるだけの根拠があれば、動物での試験は必ずしも必要ないという実態に合わせたものと考えられます。いつまでも、必ず必要であるかのような嘘を広めるのは止めていただきたいものです。
また、カルタヘナ法や感染症法等、さまざまな規制を受けているから動物実験は適正に行われているといった、動物福祉からの論点ずらしが堂々と語られたので(いつものことなのですが)、以下のようなコメントをしました。
自己点検は、適正適正はかりで、ほぼ意味がないです。実態を変えていただきたいです。
シンポジウム4[Reduction]
S4[Reduction]-2 『MRIの3Rsへの貢献』(疋島啓吾氏:産業技術総合研究所)から
MRI(磁気共鳴画像法)は、動物の体を傷つけず深く高いコントラストで情報を得ることができる。同じ動物からデータを繰り返し取得することで、少ない動物数で多くの情報を得ることができ「Reduction(使用数の削減)」に貢献できる。また、同一個体の経時的データを比較することができるので、ばらつきが小さくなり、統計的検出力が高い。
MRIの問題点は、細胞情報が不足している、設備が大がかりになりコストがかかる、画像解析が複雑で多くのパラメータを処理する必要があることがあげられる。
S4[Reduction]-3 『3Rs実現に向けた遺伝子改変マウスの作製、保存、供給への生殖工学の応用』(中潟直己氏:熊本大学)から
動物実験で、大型動物・中型動物を使うことからマウスを使うようになってきたことは、「Replacement(代替)」になっている。
航空会社が生体の輸送をやらなくなってきて、生体を空輸することが難しくなってきたため、生体ではなく胚や配偶子の状態で輸送することが盛んになってきている。このことは、「Refinement(苦痛の軽減)」になる。
産子作製においては、交配による作製から、精子ストローや超過剰排卵の技術を用いて必要な数だけ動物を作るようにしている。それは、「Reduction(使用数の削減)」につながっている。生殖工学技術は、3Rsに多大に貢献している。
現在、ラットが注目をあびてきている。ラットだとマウスよりも体が大きいので、血や尿が十分な量とれることや手術も可能なことなどがその理由である。そのため今度はラットの遺伝子改変に取り組んでいる。
質疑応答
感想
生体でのやりとりではなく胚や配偶子の状態でやりとりすることは、少しは「Refinement」や「Reduction」になっていると言えるかもしれませんが、「動物実験をやり続ける」という前提が変わらなければ、真の「Replacement」や「Reduction」になりません。
現にこの発表では、マウスでやったことを今度はラットにやりはじめていると言っています。「減らします」「置き換えます」と言いながら、マウスをラットにかえて動物実験を繰り返しています。「動物を使わない方法に置き換えるReplacement」にならなければ、3Rsの取組みは限定的なものにしかならず、動物実験は続くことになってしまいます。
S4[Reduction]-4 『微生物モニタリング*における3Rs』(加藤克彦氏:日本チャールス・リバー株式会社)から
従来の廃床敷を利用する「おとり動物」を使ったモニタリング(動物を殺して検査する)では、検出が難しい微生物がいることがわかってきた。
抗体試験の蛍光ビーズ法MFIA(Multiplexed Flourometric immunoassay)は、一般的な抗体スクリーニング法のELISA(Enzyme-linked Immunosorbent Assay)にくらべて微量の血液で多くの項目を測定することができる。
PCR試験は、動物を使用しないモニタリング方法である。排気口に集積する動物ケージ由来の埃を材料とする方法で、おとり動物を使わず、また動物を侵襲しないので、「Replacement」や「Reduction」につながる。
欧米では、おとり動物を使わない方法、動物を殺さない方法での微生物モニタリングが浸透してきている。
質疑応答
S4[[Reduction]-5 『Ex-vivo*から個体を対象とする、体系的外科手術トレーニング』(遠藤和洋氏:自治医科大学)から
自治医科大学では、やりたい学生には外科実習にブタの生体を使わせている。
ブタの生体でやる外科手術トレーニングは、同じ個体を生かしたまま3日間使い、はじめは低侵襲の作業を行い、日ごとに侵襲度を上げる。一頭の個体に対してより多くのトレーニングをやっている。
Cadaver(カダバー:ヒトの献体)を使った外科手術トレーニングは、日本では難しい。
ブタの生体を使うメリットは、侵襲に対しての生体の反応がわかる、全身管理の必要性がわかる、生体の質感がわかる、チームトレーニングができることである。学生の外科実習で生体を使った外科手術のトレーニングをすることは貴重な経験で、手技だけでなくプロフェッショナルの形成に役立つ。
感想
学生の外科実習で、外科手術手技の練習をブタの生体でどうしてもやらなければならないわけではないのに、わざわざブタを犠牲にして練習するのはおかしいです。動物実験をやる時は、まず動物を使わない方法はないか検討するところから始まらなければなりません。
生体を使わない外科手術手技トレーニングの方法はいろいろ開発されています。それにもかかわらず生体を使っていることは、3Rの原則に反しています。動物実験代替法学会なのに、どうしてこのような発表があるのでしょうか?
そもそも医師になるかまだ確定しない者に対し、ブタの命を犠牲にして外科手術手技トレーニングをさせることに、正当な理由はみつかりません。手術を見学したり、人工モデルやバーチャルリアリティ手術シミュレータなどを使って徹底的に練習をしたりすればよいことだです。そして、医師国家試験に合格した後に、Cadaverでの練習も行えばよいのではないでしょうか。現在、Cadaverを用いて練習できる大学は全国に少なくとも30校はあります。
また、ブタの生体を使うことのメリットとして話していた内容は、どれもブタの生体を使わなくもできるもので、生体を使わなければならない理由になりません。
自治医科大学にはブタに特化した実験施設があります。施設があるために「ブタを使うこと」を作り出さなければならず、単なる外科手術手技の練習に生体を使うことをやめられないのではないかと想像します。動物の命を犠牲にすることに鈍感になってはいないでしょうか。
事務局より
何日も連続で同じ動物を使用することの残酷さについては、「犬が殺される」を書いた森映子記者の記事を参考にしてください。
「外科実習の前日に実験犬を犬舎から外に出すと、しっぽを振って大喜びします。翌日には殺されるのに……切ない」「バケツにどん…
シンポジウム5[動物実験の再現性を考える]
S5[動物実験の再現性を考える]-1 『動物実験における再現性について』(小野悦郎氏:九州大学)から
動物実験でデータの精度や再現性などの科学的な信頼性を得るためは、遺伝統御や微生物統御、環境統御が必要である。均一の動物でやることが大事である。
医学生物学論文の70%以上が再現できない。再現性の危機が問題になっている。再現できない原因として、都合のよいデータだけ報告する、計画に欠陥がある、統計解析の解析力が不足している、研究手法の記載が不適切であるなどが考えられている。
国際学術誌は、再現性を高めるために論文の投稿規定をそれぞれ設けている。『ARRIVEガイドライン*』に従うよう勧めているものが比較的多い。
GLP(Good Laboratory Practice :優良試験所規範(基準))は、再現性を上げるための一つの方法である。その主な特徴は、教育訓練あるいは職務経験を重視することと、SOP(Standard Operating Procedure:標準操作手順書)を作成しなければならないことである。
アカデミアはなかなかGLPに手が回らないのが実感である。本校にも職員と実施者のSOPがあるが、実施者に徹底させるのは難しい。計画書も誰がやっても同じになるように書けているか難しいかもしれない。もっと教育を進めていかなくてはと思っている。
感想
再現性の危機の原因と言われているものを見ると、研究を行う能力が実験者に備わっていないことがわかります。GLPやSOPに取り組むのが難しい、ちゃんとした動物実験計画書が書けない、そのような人たちが動物実験を許されているのは本当におかしなことです。
動物実験関係者内での自浄作用は機能せず、外部の監視の目も入らない閉鎖集団の中で、自分たちの都合のよいやり方でやっているからこんなひどい状態なのではないでしょうか。再現性がないのも当然だと思います。動物実験関係者は、「自主管理で動物実験は適正に行われている」といつも言いますが、はなはだ疑問です。
S5[動物実験の再現性を考える]-2 『CRO*における再現性への取り組み』(武井信貴子氏:株式会社イナリサーチ)から
再現性のためのイナリサーチの取組み
- GLP教育:GLPの講習を受け試験に合格した者が、安全性試験に携わることができる。
フォローアップのため年4回の研修を行い、ミスやトラブルの共有や外部研修のフィードバック等を行う。 - SOP教育:自分に必要なSOPを登録しておくと必要な改定内容が知らされるようになっている。未研修の場合は本人に連絡が入るようになっている。
- 技術認定制度:1)訓練、自習を行う。2)試験を行う。3)認定者が判断して認定する。4)3年に1回再認定を行う。
- GLP試験責任者適格試験:1)研修を受ける。2)推薦を受ける。3)試験を受ける。4)合格すると運営管理者に指名される。
質疑応答
S5[動物実験の再現性を考える]-4 『大学における再現性の取り組み』(國田智氏:自治医科大学)から
動物実験における科学と福祉のバランスは、福祉をすれば再現性が上がるが、福祉にかたよりすぎると再現性が損なわれることもある。「Reduction」として使用する動物数を削減しすぎると、誤った解釈になったり、再現性が欠如したりして再実験になり、かえって使用数が増える。使用数を減らし同一個体で実験を続けると侵襲度が上がる。「Refinement」として侵襲度を抑えようとすると、使用数が増えたり、麻酔を使うと再現性が下がり再実験になったりすることがある。
動物実験の再現性を確保するためには、研究支援体制の整備も大変重要である。ブタを使った研究の支援の特徴は、飼育室における福祉、術中管理、画像の支援などである。
感想
動物実験関係者は、福祉をやり過ぎると再現性を損なったり、再実験になって使用数が増えたりするといまだに言っています。動物実験者は、科学的・統計学的根拠に基づいて動物実験計画を立ててはいないのでしょうか。動物実験委員会では、例えば動物の使用数の妥当性の根拠を、動物実験計画の立案者に示させて審査しないのでしょうか。実験操作に入る前の立案・審査の段階に、問題があるのではないかと思います。
質疑応答の時の質問とその答えに驚きました。質問者が動物実験計画書を「簡単に書ける」という認識でいることや、ちゃんと書けない人がいるということは非常に問題です。研究の過程で、はじめに作る動物実験計画書は、実験の成否を左右する最も重要なものです。動物実験計画書は、様々な状況を想定して綿密に立てられなければならないはずです。十分な検討がなされずに書かれた動物実験計画書では、再現性を望むのは難しいでしょうし、不適切で無駄な実験に動物の命が犠牲になります。
動物実験施設の獣医師が、「人道的エンドポイントを自分たちは、わからない」と言ったことにあぜんとしました。動物実験者に苦痛の軽減や人道的エンドポイントの助言を行うことは、獣医師の重要な任務のはずです。わからなければ文献を調べる、詳しい人に聞くなどすればよいことです。もしかしたら、動物実験者が「獣医師は口出しするな」という態度のために、獣医師が動物実験者に言えないような状況があるのでしょうか。動物実験者や動物実験施設の獣医師は、実験動物の苦しみをもっと真剣に考えるべきだと思います。
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