<アメリカ>動物実験に使われる哺乳類は年1億1150万匹と推計されるが、マウス・ラットを政府統計が把握せず

アメリカの法規制と統計のしくみについて

一般家庭から犬や猫が盗まれ動物実験に売られていることが社会問題となったことなどが契機となり制定されたアメリカの連邦法「動物福祉法(AWA)」では、動物実験施設の登録制などが定められています。

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アメリカの「動物福祉法」に定められた動物実験施設の監督制度はどのようなものでしょうか。 2014年末にアメリカ農務省が出した監査報告書「動植物検疫局(APHIS)による研究施設監視について」(監査報告33601-0001-41)の概説[…]

しかし、その動物実験施設の登録制の対象となる動物から、マウス、ラット、鳥類は除外されています。当初、そのような規定は法律には書かれていないにも関わらず、運用によってこの状態が続いていため、アメリカでは動物保護団体が国に対し訴訟を起こすなど長年に渡る闘いが繰り広げられてきました。しかし、2002年、法律によりこの運用が確定してしまい、今に至ります。現在でもこの除外について、動物保護団体から強く批判が出ています。

これらの動物が査察等の対象にならないことはもちろん問題ですが、弊害として、統計が歪められていることも、ひとつ挙げられます。

マウス、ラット、鳥類については政府に出す年次報告書に使用数を書く必要がなく、その結果、年次報告書をもとに取りまとめられているアメリカ政府の統計にも、これらの動物の犠牲数は計上されません。なので、アメリカの統計は、実態とかけ離れた、非常に少ない使用数での公表が続いています。

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アメリカでは、動物福祉法に基づいて動物実験を行う施設の登録制があり、毎年、使用した動物の数の報告が登録施設に対して義務付けられています。その総計からとった統計が農務省(USDA)のサイトで公開されていますので、グラフ化してみました。 […]

日本のように政府統計が一切ない状態よりはずっとよいですが、動物実験で使われる動物の多くはマウス・ラットですから、政策立案の基礎データとして非常に不正確な状態であることは間違いありません。

年間で1億1150万匹の哺乳類が実験の犠牲になっていると推計する論文が出た

先日、ネイチャー誌と同じ版元から出ているオープンアクセス誌「Scientific Reports」に興味深い論文が載りました。

この論文著者は、アメリカで動物実験を行う大手研究機関のうち16施設から実験動物使用数のデータを入手。その16施設では、年間のマウス・ラットの使用数が計5,560,824匹であり、全体に占める割合が99.3%だということを割り出し、そこからアメリカ全体で何匹の哺乳類が年間に使われているのかを推計しています。

政府統計では2017年から2018年にかけて、その他の哺乳類の使用数合計は780,070匹となっていますから、これが全体の0.7%にすぎないとすると、年間約1億1,150万匹の哺乳類が使われたとする推定値が得られます。

アメリカ全体での使用数の推計方法として、他の可能性についても検討されていますが、たしかに他の論文で採用されている方法は、不確かであるか、もしくは「16施設だけで560万匹を使っている」という事実と整合性がとれません。

日本でも、日次の飼養数で統計を公表している施設がかなりあり、各施設の公表数を集めても実際に使った数を統計として出すことはできませんが、同じことがアメリカでも起きているようです。

推計のもととしている16施設は少ないなという印象もありますが、アメリカでは動物福祉法に基づく年次報告書が農務省のサイトですべて公開されている反面、それ以外の情報は得にくいのかもしれません。

民間の動物実験施設認証制度であるAAALACについては年次報告書は公開されていませんが、この論文によると、アメリカの公立大学は、公文書に係る州法に基づいてAAALAC年次報告書の公表が義務づけられている場合があるそうです。また、個別に問い合わせて教えてもらえた施設もあり、そうやって得られた一部の施設の情報から、推計する論文となっています。

動物福祉法の統計では、苦痛の程度によって4段階に分けた統計も公表されていますが、同様の手法で推計すると、約4,450万匹のマウス・ラットが、痛みを伴う(が苦痛を軽減する薬が使用されない)実験の犠牲となった可能性があります。

もちろん誤差もあるので、約1億1,150万匹より、もっと多いかもしれませんし、もっと少ないかもしれません。

AAALACへ報告される各機関の年次報告書は、購入した動物と施設内で生まれた動物を数えるのではなく、毎日のケージ「在庫」から推定しているので、マウスとラットの数を過小評価している可能性も指摘されています。

透明な統計がなければ、感覚ある動物の使用を削減したり置き換えたりするための努力を追跡することはできず、動物福祉法がマウス・ラットを含むように対象拡大された場合に必要な政府のリソースを把握することも不可能だと述べられており、心から賛同します。

アメリカは、マウス、ラット、鳥類も動物福祉法でカバーするべきでしょう。

そして日本政府は、一切、数字についても把握することをしてきていませんが、それでいて3Rは求めていると言うのは矛盾があります。統計は政策のベースとなる基本情報です。情報を集めないのは、やる気がないということです。

EUの最新の統計はアメリカよりもっと詳細ですが、なぜ各国がデータをとるのか。その重要性について、日本も考えるべきです。

※ ほかの論文について補足

例えば、日本の研究者の論考でも引用されている”An Estimate of the Number of Animals Used for Scientific Purposes Worldwide in 2015“(K. Taylor et al. Alternatives to Laboratory Animals, Vol. 47, 5-6, 196-213)という論文では、アメリカの使用数を1500万匹程度にしか見積もっておらず、極端に少なすぎます。

また、このTaylorらの論文では、日本の使用数について、2009年に日本実験動物学会が行ったアンケート調査の結果をもとに使用数の推計を行っていますが、このときの日本実験動物学会の調査は「2009年6月1日時点の飼育数」を聞いたものなので、これを年間の使用数の根拠とするのは不適切です。6月1日に1500万匹飼育していると推計されるわけですから、年間ではいったい何匹でしょうか。施設に仕入れてすぐ殺される実習・手技訓練から、1~2年の長期試験、サルなどの長期飼育まで飼育期間はさまざまなので一概に計算はできませんが、恐ろしい数になることは間違いありません。

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