クマの保護管理レポート案に厳しい意見  検討会傍聴報告

1月17日に、環境省が開催した「クマ類保護管理検討会」を傍聴してきました。保護管理検討会の目的については、「ニホンジカ保護管理検討会」の報告を見てください。

今回の検討会の議題はクマ類で、具体的には、以下のことが話し合われました。

  • クマ類の保護管理の現状と課題
  • 保護管理レポート案について

◆クマ類の保護管理の現状と課題

提示されたデータでは、1978年~2003年の25年間に、ヒグマは6.5%、ツキノワグマは5.7%、その生息分布域を広げています。しかしこのデータは10年も前の任意提出されたデータということで、最新の生息分布状況は明確にはなっていません。

クマによる被害としては、農林業被害や森林被害等がありますが、クマによる農作物被害金額は約5億円で野生鳥獣全体の2%(平成22年度)、森林被害面積は全体の10%(平成23年度)と小さなものです。提示されたデータでは、前回保護検討会が行われたニホンジカと同様、年毎の被害金額と被害面積が必ずしも正比例していない等、どこの地域で何の作物が被害を受けたのか詳細が分かりません。有効な被害対策を立てるためには、被害が増加した地域・減少した地域、被害が増加した農作物・減少した農作物といった、地域ごとの整理が必要との意見が出されていました。

クマ類は個体数の減少が懸念され、捕獲を規制する施策が取られていましたが、2000年代に発生した全国的な大量出没(ヒグマは2009、2011年、ツキノワグマは2004、2006、2010年)以降、多くの自治体で特定計画が策定され、平成24年12月1日現在、21府県で策定されています。クマの行動範囲は広域にまたがっているため、島根・広島・山口の3県では、西中国山地のクマを対象として共同で特定計画を策定しています。また、富山・石川・福井・岐阜・滋賀の5県にまたがる白山・奥美濃地域のクマを対象として、関係県と環境省等が連携して「白山・奥美濃地域ツキノワグマ広域保護管理指針」を策定し広域保護管理を行っています。

近年、クマの大量出没が発生してはいますが、その生息数は決して多くはなく、絶滅したあるいは絶滅寸前の地域もあります。特定計画では生息数の維持・回復する管理目的を設定しているところがほとんどで、狩猟禁止や捕獲上限の設定等による捕獲規制をしています。また、クマには、シカやイノシシ用のワナにクマがかかってしまうという錯誤捕獲という問題があります。特定計画に錯誤捕獲に関する何らかの情報を記載しているのは17府県、そのうち錯誤捕獲時の対応を記載しているのは13府県で、「原則、放獣」としています。錯誤捕獲防止のためには、ワナを工夫する等の対策がとられています。実際の錯誤捕獲件数は環境省が任意でしかデータを収集できていないため、錯誤捕獲の実態は十分に把握できていません。

【クマの捕殺数】

環境省「狩猟及び有害捕獲等による主な鳥獣の捕獲数」より。
※その他は有害捕獲等による数値。
※2006年度、2010年度はツキノワグマが人里へ大量出没した年

◆保護管理レポート案について

クマ類の保護管理に関する基本認識は、以下が挙げられました。

  • 過去20年以上にわたる保護管理施策の取組は、クマ類の個体数を維持、回復させ、絶滅した地域個体群はいない。(※それ以前に絶滅した地域個体群はいる。)
  • 2000年以降、大量出没とそれに伴う大量捕獲が起きている。
  • 全国的に人家周辺等への出没がみられ、人との軋轢が増加しつつある。
  • 他の鳥獣に比べ農林業被害への割合は低いが、人身への被害がある。
  • 特定鳥獣保護管理計画制度の定着化がみられる。
  • 地域個体群ごとに保護管理を行う必要がある。
  • クマ類の保護管理は、地域個体群の将来にわたっての維持であるが、最も重要な緊急の課題は、人との軋轢を軽減することである。したがって、新たな分布拡大域(特に、市街地等)の管理を行う時期にきている。
  • ただし、無計画な捕獲を行うことは、著しい地域個体群の衰退につながるおそれがある。
  • 近年のシカ、イノシシの捕獲推進のためのわなの架設数の増加による錯誤捕獲の問題がある。

重要な課題として以下の6大項目が挙げられました。

  • 管理目標の1つである「個体群の維持・回復」を評価することが難しい。
  • 人身被害が深刻な問題であることから、人間活動域への分布拡大防止(里山排除地域の設定等)対策が必要。
  • 大量出没が起こることを前提とした管理手法の検討が必要。
  • 広域保護管理の取組が十分進んでいない地域がある。
  • モニタリングを含む保護管理に要する経費の確保が困難(既存予算も縮小傾向)。
  • その他、シカやイノシシの捕獲強化に伴う錯誤捕獲発生への対応、捕獲に対する社会的コンセンサスが得られにくい、人材育成。

提示された保護管理レポート案には、環境省のウェブサイトに掲載されている「クマの有害捕獲数(平成14~23年度)」、これまたウェブサイトに掲載されている「クマ類の個体数推定法の開発に関する研究」、そして森林総合研究所のウェブサイトに掲載されている「ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測する」「ツキノワグマ出没予測マニュアル」の内容が記載されていました。

リンク:
◆環境省:クマの有害捕獲数(速報値)
◆クマ類の個体数推定法の開発に関する研究
◆森林総合研究所:ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測する
◆森林総合研究所:ツキノワグマ出没予測マニュアル

この保護管理レポート案に対しては、検討委員から以下のような厳しい意見がだされていました。意見については、その通りだと思います。

  • ウェブサイトに載っているマニュアル的な資料等、自治体がすでに収集や共有している情報をまとめて出しても意味がない。
  • 有害捕獲数についても、2~3年前のデータでは不十分と思われる。
  • 国がレポートを出す意味を考える必要がある。現場の自治体に求められるレポートであるべき。全国の状態を把握できる速報性のあるデータを収集できる体制や、情報を有意義に利用できる体制を整えるべき。
  • 毎年だされるレポートとしての速報性と、長期的な視野に立った内容の両方が必要。

その他、クマに関する現状や課題については、検討委員から以下のような意見が出されていました。

  • 生息調査は、まず大まかな状態が分かる調査を行い、その後、必要な場所について詳細な調査を行うというように、2段階に分けて実施するのがよい。
  • クマによる人身被害は、耕作放棄地の増加や森林の手入れ不足等が原因と言われている。人とクマの住み分けや、一般の市民への普及啓発も大切。
  • 年々ハンターが減少している。将来的には個人のハンターではなく、スペシャリストとしてのハンターが捕獲をすることになるだろう。
  • 専門性のある人が各自治体にいれば、鳥獣に関する多くの問題が改善するし、対策コストも安く済むのでは。環境省主導で体制を作ってほしい。

多くの都道府県で特定計画が策定され保護管理が行われていますが、そもそも前提となる生息数等のデータ提出が任意である、情報が古いなどの問題があります。生息数すら把握できていない、どこの地域でどのような被害があるのか具体的な整理も不十分、被害の原因の分析も不十分な現状では、実情に即した保護管理はできません。クマが大量出没することについても、原因は個体数が増えたからなのか、個体数は変わらないが餌不足で人里に出てきているだけなのか、生息数が不明な状況ではそれすら判断できないまま、クマが大量に捕殺されています。

日本の山は険しく、鳥獣に関しては予算も少なく、国や自治体の大変さも十分理解できますが、しっかりとした調査等に基づく保護管理を行えるよう努力していただきたいと思います。

先日、環境省で平成25年3月12日に「平成24年度狩猟鳥獣のモニタリングのあり方検討会」が行われるとの報道発表がありました。(1)狩猟鳥獣の情報収集のあり方について、(2)モニタリング手法の確立していない種のモニタリング手法について議論されるそうです。ぜひしっかりと検討し、保護管理の現場に活かしていただきたいと思います。

(M.T.)

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