「ブタゲノム情報を活用した食と医の新展開」シンポジウム感想

農林水産省所管の農業生物資源研究所(生物研)などが加わった国際チームによるブタゲノム解析の結果が今月15日付の科学誌「Nature」に発表されたとのことで、同誌表紙にもかわいらしい子豚の写真が使われていました。

ちょうど先々週の金曜日、当の生物研などが主催したブタの利用に関するシンポジウムに行ってきたので、複雑な思いがします。

NIASシンポジウム「最新アニマルテクノロジー」公開シンポジウムブタゲノム情報を活用した食と医の新展開- ゲノム育種技術と医用モデルの開発-
平成24年11月9日(金) 秋葉原コンベンションホール

このシンポの構成は、前半は畜産における育種研究について、後半は医療用モデルブタの開発・利用についてでした。まさにこのことがあらわしていますが、ブタゲノム解析の応用分野として期待されているのは、畜産利用と実験動物としての利用の2つの分野になります。

育種研究では、豚肉の肉質をよくしたり、病気に強くしたりするのにゲノム情報を活用しようとしています。さすがに食べるとなると遺伝子組換えではなく交配で行われますが、開発の方向性が、サシの入った豚肉など不健康な方向だったのは疑問でした。一切、家畜福祉の観点は出てきませんし、人間にのみ都合のよい方向への育種改良を今後もっと進めたいということだと思います。

後半は、実験動物としてのブタの開発・生産についてでしたが、「ブタをたくさん使っているEUに比べると日本はブタをあまり使っていないので、もっと使おう」という方向性を、やはり感じました。

動物モデルについては、先日報道もされていた免疫不全ブタと、高コレステロール症/動脈硬化症モデルブタの話が出ました。免疫不全ブタは、遺伝子を欠損させるいわゆる「ノックアウト」ブタであり、胸腺が発達せず(つまり免疫力が極度に低く)、子どものうちに死んでしまいます。

動脈硬化症モデルブタも、家畜ブタ(ミニブタではなく、肉用の、いわゆるブタさん)をノックアウトしてつくったもので、血中のコレステロール濃度が高く、動脈硬化が進行しやすいブタとのことです。ここでブタをつかうのは、「カテーテルが入る大きさだから」ですが、家畜ブタは1年で200キロにまで成長して扱いづらくなりますから、なるべく大きくしないために生後4カ月からエサをしぼっているとの話がありました。

もともと、家畜ブタを長期間飼育して行う動物実験では、体が大きくなるのを避けるため、具合が悪くなるほどに低栄養で行っている実験があります。実験用の家畜ブタは、狭いところに閉じ込められているだけではなく、食べたいだけの量が与えられていないのです。

もちろん食べさせたいだけ食べさせて不健康にするのがよいことではありませんが(実は質問した際に、「食べたいだけ食べられないなんて、私たちから見たら虐待だ」と発言してしまったので、じゃんじゃん食べさせて太らせるのがよいという意味に誤解されたのではないかと心配していますが)、そのように長期間我慢させざるを得ない動物種を使うことは動物実験として不適切だと感じます。長期間使う実験はミニブタへシフトさせるべきで、実際、この動脈硬化モデルも、ミニブタとのかけあわせで体格を小さくすることが検討されているとのことでした。(ミニブタでもカテーテルは入るとのこと)

この問題については、東北大学の末田さんから、下記の論考の掲載許可をいただきましたので、皆さまぜひお読みください。

実験動物としての家畜子ブタの適正な飼育管理を考える
― 日本飼養標準の80%カロリー制限給餌法の提案 ―

続いて、実験動物中央研究所の、ブタの取り扱いを容易にするための工夫の話は動物福祉にも通ずるところがあり興味深かったのですが、やはり目的はもっと使ってもらうためだったので、複雑な気持ちがしました。

EUでは動物福祉の観点からサルやイヌの実験利用に比べてブタが高い比率で使われていることがグラフで示されましたが、日本にはブタ・ミニブタに関する技術情報をまとめたような書籍もほとんどないとのことで、そういう意味でも欧米とは状況が異なっていると思います。

実験用ミニブタの輸入販売を行っているオリエンタル酵母からも発表がありましたが、すでにデンマークのエレガード社が生産している「ゲッチンゲンミニブタ」というミニブタの繁殖施設を日本に建設済みとのことで、あとは種豚の輸入について交渉をしているところとのことでした。エレガード社が高い福祉に配慮しているとのことだったので、「どのようなものなのか、日本とはどこが違うのか」を質問しましたが、単にAAALACの認証を取っているということのようで、あまり詳しい説明はありませんでした。おもちゃが与えられたりはするようです。

EUでブタが多く使われていることがここでも示されましたが、個人的には、食用にされているから動物福祉にかなうという発想はよくわかりません。ただ、要するに「EUのようにもっとたくさんブタを使ってください、1000頭レベルで売れないと採算がとれません」ということなのだろうと思いました。日本でも医薬品開発においてミニブタが使われるようになってきていて、経口投与試験も確立されてきているとのことで、今後ミニブタの利用はふえることが予測されます。

ただし、日本でブタを実験利用する上でのハードルとしては、実験用といえども家畜の法律の規制はまぬがれないことがあるようです。つまり、口蹄疫が発生した場合には、規制圏内に入っていれば、研究室といえども殺処分等の対象になる。また、死体の処理については化製場法上の規制を受けるため、処分業者が限られる。

また、ミニブタについては価格が高い、EUは値段が安いのもあるのではないか?という不満も出ていましたが、ぜひ日本でも高い福祉レベルを保ってほしいので、そのためのコストは最低限負担する意識が広まってほしいと思います。(税金として研究費を負担している国民にもです)

ブタさんたちは、犬や猫に比べてまだまだ世間の注目をあまりあびませんが、人のためにその姿を変えられてきた動物です。そして今また、命の設計図まで変えられようとしています。彼らに対して私たちは何ができるのか、人として私たちはもっと考えていくべきではないかと強く感じた1日でした。

(S.A.)
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