今年の8月、EUの共同研究センター(JRC:ジョイントリサーチセンター)が急性毒性の評価のための動物代替試験法に関するレビューを公開しました。JRCは、動物実験代替法評価センター(EURL ECVAM)を下部組織に有し、EU法で動物実験代替法を担うことが法的に定められている組織です。
急性毒性といえば、おそらく一般の人が「動物実験」と聞いたときに思い浮かべるイメージに最も近い試験法ではないでしょうか。代替は無理ではないかと思われがちな分野でも、国際的には動物の利用をなくしていくための努力が着々となされています。
今回は、いつも動物実験についてご助言いただいているM.N.さんに関連資料を読んでもらい、寄稿をいただきました。
急性毒性テストは、1920年代に始まったLD50に代表されます。
化学物質を動物に与え、半数が死亡する量をLD50値とします。
結果がばらつくため、50匹も使われることがあり、その一匹一匹が、もだえ苦しみ死んでゆく残酷なテストです。
すぐに廃止したいのですが、LD50値は化学物質の分類に使われているのです。
例えば日本では、LD50値を用いて、毒物か劇物かの分類が行われています。
少しでも犠牲を少なくする目的で、2001年にOECDのテストガイドラインが改められ、2002年から古い試験法のデータ受け入れは禁止になりました。新しい方法は、毒性が出る量をあらかじめ予測し、その量を与えた後に動物の状態を観察する方法です。この方法によって、犠牲になる動物数は激減しました。
そして今回の記事の内容を解説します。
2015年に急性毒性試験を、動物を用いない方法で行うために、科学者が集まって議論する場(ワークショップ)が開かれました。欧州、北米などから多くの研究者が参加した大きな会合でした。
主催:US National Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS)*.
協力:NTP Interagency Center for the Evaluation of Alternative Toxicological Methods
the PETA International Science Consortium Ltd
the Physicians Committee for Responsible Medicine
ワークショップの内容ですが、専門家の会合なので、内容は、代替法の可能性を科学的に議論したものとなります。
初期の代替法は、試験管内の細胞で毒性を評価するものでしたが(in vitro)、この方法にコンピューター予測が加わりました(in silico)。
例えば試験する物質が、どれくらい人体に吸収されるのか、肝臓で代謝され何に変わるのか、代謝物がどう組織に影響するのか、またどれくらい速やかに対外へ排出されるのか。
体内での振る舞いをコンピューターで予測して評価に加えたわけです。
ワークショップの発表では、in vitroとin silicoを合わせると、95%の正確性で、毒性のない物質を言い当てられるという結果が報告されました。
それでは、毒性がある物質が、どれくらい強い毒性があるのかについて、どう評価するのでしょうか?
「AOP」という概念が議論されるようになってきています。
化学物質が、細胞→組織→臓器→個人、さらに進んで、個人差を含めて人間集団に、どのような悪影響を与えるかを総合的に検討する手法のことで、AOPのために、多くのデータベースが蓄積されつつあるのです。
AOPは、代替法が法律として認められるための、「最短の手法」と言われています。
最後に、とても重要なことを書きたいと思います。(以下、個人意見)
よく考えてみると「動物を使った急性毒性試験」の正確性は低いです。なぜなら、動物と人間は、体の仕組みが違うからです。
そして、このことは、すべての科学者が認めている事実です。つまり、現在のLD50値は正確でないのです。
現在の代替法や関連する知見(AOPも含めて)は、未完成かもしれないですが、すでに、動物を使った試験よりも優っている可能性があります。
しかし、この主張を、科学者は言いだしません。なぜなら、かれらは、代替法が完全になるまで努力するからです。
しかし、市民は違います。一刻も早く、動物を救いたいのです。
未完成な代替法の実力 > 現在の急性毒性動物実験の実力
これが事実である以上、すぐに運動を始められると思っています。
以上
▼といっても関心の低い日本。動物実験代替は欧米主導で進んでいるのが現実です