今年4月、神経毒性試験の動物実験代替法に関して科学者らが評価を行った文書が、欧州食品安全機関(EFSA)から公表されました。日本では農薬の毒性評価について、単純にもっと動物実験するべきだと訴える向きがあるので、国際的な動向がどうなっているか知ってもらうため、協力してくださっている方に内容を簡単に要約してもらいました。
神経毒性試験の代替法に関する文献レビューと評価(要約)
現在使われている試験法は、OECDのテストガイドラインのうち、TG424(げっ歯類の神経毒性試験)、TG426(発達神経毒性試験)等に代表される生きたネズミを使用する方法ですが、時間もお金もかかり、さらに、ネズミでの結果は人間に適用しにくいという問題点が明らかとなっています。
そこで今後は、動物実験から離れ、化学物質が人間へ与える毒性を論理的に解析したAOP(Adverse Outcome Pathway:有害性発現経路)という手法に基づいて予測する方法へと変えていかなければなりません。
動物実験による神経毒性予測は、限界があるのです。例えば、ネズミを用いた試験では、殺虫剤に起因するパーキンソン病を予測できないことが明らかになっています。
一方、農薬の影響について観察するような方法は、原因と結果の定量的相関を知るには向きません。なので、特定の神経経路の反応に焦点を当てた、実験による機序解析的なデータが必要になってきます。新しい試験系は、人と動物で薬物に対する反応が違うことからも必要なのです。このことは、脳虚血発作薬が、人での臨床実験に失敗したことでも裏付けられています。
そこで、試験管内のネズミの初代培養細胞や、線虫などの代替生物を用いた代替法が有用になってくるのですが、神経毒性のような複雑な現象を一つの代替法で評価することは困難です。
結論的には、AOPという新しい手法に基づいて、これらの試験を取り込んだ総合的な手法を構築することが必要であり、それをとりまとめたIATA(Integrated Approaches to Testing and Assessment)は皮膚感作性の評価では成功しています。
AOPでは、化学物質が引き金となって、どのように副作用が起こるのかを、順を追って解析してゆきます。欧州食品安全機関は、AOPの重要性を理解しています。動物実験では予測できなかった殺虫剤に起因するパーキンソン病を、AOPに基づいて検討し、一定の成果を得ています。
AOPに基づいたIATAによる新たな評価手法は、培養細胞、線虫などの代替生物、QSARと呼ばれるコンピューター予測など、あらゆる動物を用いない代替法を総合的に活用する優れた方法なのです。
感想:
動物実験では、殺虫剤によるパーキンソン病や子供の白血病の発生が予測できなかったことが明らかになり、欧州食品安全機関は、AOPに基づく総合的評価方法へ舵を切りました。
この流れを、市民の力で、是非、加速してゆきたいものです。
(まとめ:M.M.さん)
出典:
Literature review and appraisal on alternative neurotoxicity testing methods
EFSA Supporting Publications
Volume15, Issue4 April 2018
https://doi.org/10.2903/sp.efsa.2018.EN-1410