日本でもようやく朗報! 長い道のりでした!
会員向けメールニュースやSNSでパブリックコメントへの意見送付をお願いしました農薬の登録申請時の犬を用いる長期試験ですが、無事パブコメ案の通り、無条件での削除が実現しました!
この「イヌを用いた1年間反復経口投与毒性試験」では、犬たちが1年間、試験物質を餌に混ぜたり水に混ぜたりした状態で飼育され、最後には殺され解剖がなされます。登録申請時に求められる試験の中からこの試験が削除されたことによって、今後数多くの犬たちが救われることになります。
パブコメ結果はこちらで公開されており、意見に対する農水省の見解も読むことができます。
そしてこのパブコメ結果を受けて、いよいよ3月29日、農水省から関係各所へ犬の1年試験の削除が通知されました。要件からこの試験が削除された、とけこみ版(修正版)の通知も公表される予定です。
この件は、日本では2015年から2年をかけ食品安全委員会の研究課題において科学的な検討がなされましたが、90日間試験の知見で十分であることなどから既に国際的には削除が広まっていました。最初に削除をしたアメリカに遅れること10年余とはなりますが、「残るは日本と韓国」と国際的にも指摘がなされる中、ようやく日本も対応がなされることになりました。
一昨年(2016年)の日本毒性学会で研究班メンバーによるシンポジウムも開催されたのですが、犬の1年試験についてはあまり芳しい印象はなく、むしろ研究者の方々はマウス発がん性試験を外せるのではないかというほうに関心が高かったような印象でした。また、外すことに対する慎重派の存在も気になることでした。
十分な科学的根拠があって削除となりますが、日本では動物への配慮や不要な動物実験があることについて理解が乏しいため、「外すことは安全ではない」という単純な誤解から反対意見が出ることも懸念し、国内の団体は慎重に動いてきました。
農薬登録時に求められる動物実験についてはこちらにまとめていますが、この犬の1年試験のデータは一日摂取許容量(ADI)の設定のために使われており、農水省通知では犬を1群当たり雌雄各4匹以上、4段階の投与群を求める記述となっていますので、最低でも1試験で32匹が用いられてきました。
この削除の動きが出てくる前に、農水省が公開する過去の評価書を見てみたのですが、雌雄5匹ずつを4群と3群で1試験ずつ2試験行い、70匹を使っている農薬もありました。年間に数件は申請がありますから、この試験がなくなることで、年間200匹ほどの犬が救われることになるのではないかと思われます。
●ただし、食品安全委員会は条件をつけている
日本で注意しなければならないのは、農薬の登録業務を行う農水省は犬の試験が必要な場合があるという条件をつけなかったものの、提出されたデータに基づいてADIの検討をするのは食品安全委員会だという点です。
実は、食品安全委員会では昨年末、農水省のパブコメの前に結論を出していて、「イヌ慢性毒性試験が必要であると考えられる場合」として以下の4点を挙げています。これらに該当する場合、今後も食品安全委員会が物言いをつけて犬の1年試験を求めることができてしまうことは注意が必要です。
① 亜急性毒性試験で認められる毒性プロファイルがイヌとげっ歯類で大きく異なる場合
② イヌ及びげっ歯類について、毒性標的臓器が同じでも明確な発現用量の差が認められ、イヌの感受性が高いと考えられる場合
③ イヌにおける農薬の蓄積性が懸念される場合
④ イヌにおける薬物代謝(動態)について、①~③で示されるようなイヌ特有の毒性等に関与することが想定される場合
アメリカやEUもこういった条件をつけていなくはないのですが、日本では、より範囲が広くなっています。
実際にはアメリカでも当局から犬の1年試験を求められたケースはないそうなので、おそらく日本でもそうそう求められることはないかと思いますが、必要だと主張していた専門家もいるため、留意しなければいけないと感じます。
●食品安全委員会での研究結果
食品安全委員会では、平成27年度、この犬の1年試験とマウス発がん性試験の必要性について研究課題を採択し、2年間の研究期間後に報告書がとりまとめられました。当初、国立医薬品衛生研究所にいて、今は岡山大に移られた小野敦教授が研究責任者でした。日本では、今回の試験削除の根拠になっているのがこの研究成果ということになります。
農薬の毒性評価における「毒性プロファイル」と「毒性発現量」の種差を考慮した毒性試験の新たな段階的評価手法の提言―イヌ慢性毒性試験とマウス発がん性試験の必要性について―
事業概要より引用(太字は当会):
イヌ長期毒性試験については、EUにおいては、イヌの感受性が高い場合には実施すべきであるとされており、米国EPA(環境保護庁)では排泄が遅く、蓄積性が高い場合に要求されるとしている。農薬評価書286剤の解析の結果、イヌ試験がADI(一日摂取許容量)の設定根拠とされた農薬は93剤(32.5%)あったが、そのうち74剤についてはイヌ長期試験を省略してもADIに大きな影響は無いと判断された。さらに他の4剤については、詳細な検査を追加することで、イヌ長期試験が不要になる可能性が考えられた。しかし、残る15剤については、イヌ長期試験が不要とは判断できなかった。結果として、イヌ長期試験については、一定の条件を満たせば省略可能であると考察された。ただし、既に試験が実施済みであれば評価に用いるべきである。一方、イヌとラットで認められる毒性所見が異なる場合や、イヌ感受性が高いと考えられる場合には、イヌ長期試験が必要と考えられた。さらに、イヌ亜急性試験において無毒性量が求められていない場合や蓄積性が懸念される場合等においては、イヌ長期試験の実施の要否について慎重に判断する必要があると結論された。
より詳しくは下記リンクをご覧ください。
●食品安全委員会って問題あるんじゃないの?
この研究が始まる前から農水省や食品安全委員会にコンタクトを試みていましたが、特に食品安全委員会は内部の仕組みについて全く説明をできない状態で、農薬の試験を削除する検討がどのように行われていくのかすら、誰も説明できない状況がずっと続きました。上記研究が始まってからも、それを生かす検討はどういう手続きで行われるのかといったことを誰も説明できませんでした。
担当者になかなか取り次がず、市民相手に説明する窓口の担当者は自らの組織について無知であるという、食品安全委員会そのものの問題も非常に大きいと感じました。かといって、今思えば、担当部局も自分のところの仕事だということをわかっていないような状況だったと思います。試験法をなくすということについて想定されていない日本の状況が問題だったのかもしれません。もちろん、そうではなく秘密主義なだけかもしれません。
また農水省も3~4年前に受けた説明とはかなり違う経緯で最終的に通知を改正しました。農林水産省担当者への申し入れに同席する機会もあったのですが、当時は動物実験の削除・代替といったことに全く手をつけられていない状況であり、試験を外すに至る日がくるとは思えなかったのが正直な印象でした。
今回の削除までには、むしろ新たな動物を用いる試験が追加になったことまであり、かなり絶望的な気持ちでいましたが、削除するとなってからは早かったと思います。やはり試験法の国際調和は企業にとっても重要な課題なので、行政としても対応せざるを得ない状況になってきたのではないかと感じます。
現在、一部ではありますがほかの動物実験についても、OECDテストガイドラインに採用された試験であれば、個別に企業から相談があれば代替法でもOKとなる運用がされているそうです。今後、ここを明文化していく作業が行われる予定です。
●農薬専門調査会幹事会での検討
食品安全委員会では、とにかくどうなるのかがずっとわからない状況で、小野班の研究課題の報告書が出なければどうにも話が動かないと思われました。3月に研究機関が終わり、報告書が出た後もどうなるのかはわからず、毎年秋に食品安全委員会で研究報告会があるので、そこの発表テーマに選ばれないか…と期待しましたが、取り上げられませんでした。
このままうやむやになるのでは!?と懸念していたところ、10月12日にいきなり検討の議題に上がっていたことを知りました!
食品安全委員会の農薬専門調査会幹事会です。ADIの数値検討の際に犬の1年間試験が必要かどうかということについて、既にA4裏表の取りまとめ案が最初から作られており、それについて2回にわたり検討されました。
- 第153回 農薬専門調査会幹事会(10月12日)
「農薬の食品健康影響評価におけるイヌを用いた1年間反復経口投与毒性試験の取扱いについて(案)」について審議されました。修正点が指摘され、次回に修正案について検討するということになりました。
議事録も、今後のADIの検討の運用において見解として用いられるとのことなので、こちらに該当部分を記録としてアップしました。
- 第154回 農薬専門調査会幹事会(11月20日)
この回は、体調を崩し欠席した委員がいたため、犬の1年試験については検討がされず、次回へ持ち越しとなりました。
- 第155回 農薬専門調査会幹事会(12月21日)
「農薬の食品健康影響評価におけるイヌを用いた1年間反復経口投与毒性試験の取扱いについて(案)」の修正案について審議されました。「追加資料」を求める場合があることが書かれているが、「追加資料」とは「追加試験のデータ」のことではないといった確認等がなされました。「イヌを用いなかったらどういう動物を用いたらいいかというのは当然話題に上がる」といった聞き捨てならない発言があったこともあり、また読んだ印象と事務局の説明に落差があることもあり、修正を求めるべくPEACEとして要望書を提出しました。
年明けに同じ内容のものを農林水産省にも送付し、試験を必要とする場合についての条件は付けないでほしい旨を要望しました。
この回の議事録の該当部分はこちらにアップしました。追加資料とは追加試験のデータのことではないということなどが議事録に残っています。(下記参照)
●「追加資料」とは「追加試験のデータ」のことではない!
食品安全委員会のとりまとめに求めることがある旨、書かれている「追加資料」とは、あくまで見解・説明等を記述した「資料」のことであって、「追加試験のデータ」のことではありません。
文章のつながりからは、どうしても追加試験のデータを求めるかのように読めてしまいますが、平成29年12月21日の第155回農薬専門調査会幹事会で食品安全委員会において事務局が、既に出された試験結果の解釈等について見解、説明等を求めることがあり、そのことだと明言しています。詳しくは議事録をご覧ください。
その後の流れ
その後、このとりまとめについて食品安全委員会から農林水産省へ意見として送られ、1月23日~2月21日まで農林水産省でパブコメが実施されました。
要望した通り、試験を必要とする場合についての条件は付かない形で、単純に非げっ歯類(犬)の1年試験を削除する形で意見募集がされました。
その後、3月29日に削除が通知されたのは前述の通りです。
ちなみに、食品安全委員会の議事録も見解として農林水産省に送られるとのことです。また食品安全委員会では、農薬専門調査会の幹事会以外の評価第一部会~評価第四部会で個別の農薬について食品安全評価がなされますが、これらの評価部会の委員にも見解は共有されるとのことでした。
無駄に追加試験が求められることのないよう、きちんと対応していただきたいということも食品安全委員会には強く要望しました。