<第一種動物取扱業>問題山積の動物取扱責任者の要件。今のままでよいのか? 

今朝、第一種動物取扱業の動物取扱責任者の選任要件等の問題について詳しく取り上げた記事が、朝日新聞に載りました。かなり興味深い内容です。紙面版のほうが詳しいそうですが、後日、sippoのサイトに全文が載るそうなので、その時、またリンクを差し替えます。

動物取扱責任者とは? 問題点は?

第一種動物取扱業の登録を受けて業を営む際に、必ず必要なのが動物取扱責任者です。一名以上の常勤の職員が専属の動物取扱責任者として必ず配置されていなければなりません。

現在は、動物愛護法で成年被後見人であってはならない、登録を取り消されてから2年以内の者であってはいけない等が定められているほかに、施行規則で以下のような要件が決められています。(太字はPEACEによる)

イ 営もうとする第一種動物取扱業の種別ごとに別表下欄に定める種別に係る半年間以上の実務経験があること。
ロ 営もうとする第一種動物取扱業の種別に係る知識及び技術について一年間以上教育する学校その他の教育機関を卒業していること。
ハ 公平性及び専門性を持った団体が行う客観的な試験によって、営もうとする第一種動物取扱業の種別に係る知識及び技術を習得していることの証明を得ていること。

また、年1回の動物取扱責任者研修を受けなければいけませんし、事業所の他のすべての職員に対し、この研修で得た知識および技術に関する指導を行う能力を有していなければなりません。

事業所等に掲示が義務付けられている標識にも氏名が載りますし、業の広告を行う際には同様に氏名の表示義務があります。

業の登録を受ける際にかなり重要になるのが、この取扱責任者ですが、実質何も制限されていないではないかということは以前から指摘されていました。

●資格試験のレベルの問題

「公平性及び専門性を持った団体が行う客観的な試験」といっても、1日講習を受けて、その日に試験を受ければ取得できるような資格でもOKとされていることです。劣悪飼育で多頭崩壊し、愛護団体がレスキューに入った現場に、こういった資格の認定証が貼ってあったりしました。資格など意味がないだろうというのが、実感としてあるのが現状です。

川口市内で多頭飼育崩壊し廃業したショップ兼繁殖場に掲げられていたJKC認定証

また、国が動物取扱責任者に選任するにはどの資格ならよいのかということを示していないということも以前から指摘されています。これについては検討することになってはいるはずですが、おそらくまた動物愛護法改正後となってしまうでしょう。

●実務経験に意味があるのかという問題

また、動物の飼養管理が最低水準に達していない事業者のところでも、そこで半年以上実務経験があれば責任者になれてしまいます。例えば、堀井動物園の責任者であれば、堀井動物園で半年以上実務経験があればよいわけです。実際、そうなっています。これに意味があるのか、非常に考えさせられるところです。

●実務経験は本当なのか、十分なのかという問題

さらに最近問題になっていたのは、ある業者の書いた実務経験の証明書がやたらに多いという問題でした。超党派議連の動物愛護法改正PTでも、ある自治体の職員の方が、その話をされていました。証明書まで出させない自治体もある中、きちんと確認しようとしている自治体だと思いますが、それでも悪意ある人は裏をかきます。

給与明細や年金記録等によって確認しようと思えばできるとは思いますが、他自治体内の事業者のところで本当に働いていたのかを確認するのは、現状ではなかなか難しいようです。

別件ですが、実は当会にも、ある事業主がお金をもらって実務経験の証明書を書いてあげている、それを使って名古屋市内で動物ふれあい施設をやっている人物がいる、その動物取扱責任者は普通に仕事をしていたのに他県の事業者で働けたはずがないとの情報提供があったことがありました。これも行政に具体的に情報提供しましたが、個人情報の壁があり、調べてもらえたかどうかすらわかりません。

もしかしたら、週末の移動動物園でときどきバイトしていたなどという事実があるのかもしれません。しかし、週何時間働いていた等の規定を国は明確に示していないので、自治体によっては登録せざるを得ない実態もあるようです。例えばさいたま市は、「時間換算で800時間以上」と明確にウェブサイトに書いていますが、このような規定はないと言っている自治体もあります。かなりグレーな運用がされていると感じます。

今日の朝日新聞の記事にも以下のように書かれています。

しかし今回の調査で、登録時に業者側が申告した実務経験について実態が疑わしい事例があるかどうか尋ねると、4自治体が「ある」とし、51自治体が「判断できない」とした。「ない」と断言できた自治体は半数以下の48自治体だった。

●業務内容と実務経験の内容が異なっていても責任者になれる問題

愛知トリエンナーレの小鳥の生体展示で問題が起きた原因の一つが、動物取扱責任者の能力の問題でした。展示をするのに急遽、業登録を受けなければいけないということがわかって、適切な責任者が探せず、犬猫のペットシッターの経験しかない者に小鳥の飼養管理の業務をやらせました。結果、多くの問題が起きました。

異なる業種しか経験がないとか、その動物種について経験や知識がないとか、そういった条件で登録を拒否する判断ができる仕組みになっていません。

●書類に書かれた氏名の人が実在するのかという問題

栃木県で、偽名で登録していた事業者がいました。今日の朝日新聞の記事でも触れられている事例です。これを受けて、環境省が本人確認をするよう通知を出していますが、記事を見ると、三分の一程度の自治体しか実施していないそうです。

●多数の自治体で同一人物が責任者になることができる問題

動物取扱責任者は「常勤」であることが要件なので、近接の施設ならまだしも、複数の自治体にまたがって幾つもの施設の責任者を兼ねることは実質できないはずです。その見解をもって、同一自治体内であれば兼務可だが、他自治体とは兼務不可である等の運用が、各自治体それぞれの判断のもと、なされています。

しかしあくまで運用であって明文化されたものはないので、実際の登録時には、他の施設で責任者をしていないかどうかなどの確認はなされていません。少なくとも、広域で複数個所の施設の責任者となっていた者の事例では、イベントの取扱責任者も兼務するなどしていましたが、指摘をすれば改善指導はしてくれるものの、登録時に見つけることはできないと繰り返し言われました。

移動動物園でも各地で取扱責任者が重複して登録されていますが、実際の開催期間が重なっていなければよい、本拠地から毎日通える距離ならよいなどといった運用がされています。1カ月程度期間のある移動動物園で、実際に毎日両方の場所に取扱責任者が通っているかどうかの確認は一切しないにもかかわらずです。

これまで、動物取扱責任者の重複は不可とするよう法改正を求めてきましたが、環境省は、そのように自治体で運用されているから盛り込まなくてもいいではないかという見解であり、議連案にも盛り込まれませんでした。

例えば、専門学校であれば、関連施設は徒歩10分圏内でなければならないという規定があります。このように距離で規制してしまうのも手ではないかと思います。

●個人情報の壁。行政の対応を信じるしかない

これは仕方ないことではありますが、どの要件を満たしているか等の詳細は個人情報になるため教えてもらえません。自治体がきちんと対応しているかどうか、確認するすべはありません。だからこそ、最低限の条件や運用方法についてはきちんと明文化し、自治体がやらなければいけないことは国が定めるべきです。

大胆な自治体意見も! 実務経験では不可にするというのも一案か?

環境省の第50回中央環境審議会動物愛護部会で、各自治体からの意見を集約した資料が公表されました。参考資料2「動物愛護管理をめぐる主な課題への対応について(第48・49回資料2)に対する自治体意見」がそれですが、、その中の「4.動物取扱責任者」の「論点①資格要件の検討」で、かなり斬新な意見が出ていたのが印象に残りました。

  • 動物取扱責任者資格のイは、実務経験を証明する書類等を確認する根拠がなく、虚偽申請も含まれていると推測されるので、責任者の要件としてイは廃止し、あるいはイかつロまたはハとして欲しい。
  • 半年以上の実務経験は非常に曖昧な概念で、週に1日勤務の半年でも可と読める。例えば常勤相当(週32時間勤務)で半年とするとか、半年を時間で規定しなおすといった手当てが必要。(2)
    これは「1年以上教育」も同様である。実務経験や教育を厳格に運用する考え方は東京都が詳細に検討しているので導入してはどうか。併せて、省令改正によって実務経験、教育、資格試験の事実を書面によって証明することを加えるべき。
  • 研修で動物取扱業における適正業務を担保するより、資格要件(特に実務経験)について厳密に基準を設定し、審査することで担保した方が、自治体間や業者間での格差は減少すると思われる。
  • 動物取扱責任者の要件について、早急に認定民間資格を明示して欲しい。

実務経験の要件をより厳しくするべきではないかと考えていましたが、いっそ実務経験のみでは不可としてはどうかという考え方もあるかと考えさせられました。

実務経験半年でOKとする考えは、規制ができたときに、既に営業している既存の業者の救済策として盛り込まれた側面もあると思います。

しかし、もうかなりの時間が経っていますから、どうするのがベストなのか、もう一度考え直す時が来ていることは間違いないでしょう。

参考

JKCの資格については、取扱責任者の話としてではなくですが、国会でも問題になったことがありました。(今は、愛犬飼育管理士制度です)

第180回国会 平成二十四年三月一日予算委員会第六分科会会議録より

質問は岡本英子衆議院議員、答弁は筒井信隆副大臣。

○岡本(英)分科員 それでは、資料を配らせていただきましたので、お手元で見ていただきたいんですけれども、写真を添付させていただきました。
 この写真は、二〇一〇年十一月に動物愛護団体が犬をレスキューした、埼玉県川口市内の繁殖直売店の様子です。店内は悪臭が立ち込め、汚れた狭いケージの中で、ぼろぼろになった繁殖用の小型犬が異常行動を起こしたりしておりました。
 二枚目をめくっていただきますと、ちょうど認定書の写っている写真の上の写真になるかと思いますが、大きな乳腺腫瘍があるなど、病気の犬ばかりがこの中にいたようでございます。この病気の犬たちを、高齢の店主は、治療も施すことなく、そのままにしていたということです。
 このような状態の店であっても、店内には、ここに写真で載せさせていただいたように、JKCの畜犬業者資格証と畜犬飼育管理者資格証が掲げられており、そして、店の外には社団法人ジャパンケネルクラブ中央畜犬事業組合推奨店の表示がありました。
 このような中で、農林水産省はJKCの事業についての監督を行ってきているのか。すなわち、JKCの名称の入った推奨店の基準とは何か。また、現地の調査を行った上で推奨店とされているのか。JKCの資格を持つ者の繁殖場へ定期的な訪問調査や改善指導を行っておられるのかなど、業務実態を把握しているのか。また、この劣悪繁殖業者問題を解決していくために、JKCを所管する農水省としても取り組んでいることがあれば、お伺いをしたいと思います。
○筒井副大臣 この写真を見ますと確かにひどい状況で、動物愛護法上も大きな問題だと思います。動物愛護法を管理する環境省と協力をして、この団体に対しても適切な、必要な指導をやっていきたいというふうに思っております。

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