タイトル部分の写真は新屋島水族館のイルカの餌やり体験。
世界中の水族館に水槽を納める企業が、日本ではこんなことをやっている。
福井県の海水浴場で、野生のミナミハンドウイルカに海水浴客がかみつかれる事例が相次ぎ起こりました。かつては「すずちゃん」という愛称で親しまれたイルカですが、交流が話題になり、観光資源となっていきました。過熱した人との接近が人なれしたイルカを「かみつきイルカ」にしてしまった、その経緯が朝日新聞の7回にわたる連載記事になっていました。
すべて有料記事ですが、大変貴重な記録となっていますので、ぜひ読んでみてください。
連載「傷ついた背ビレ イルカが人にかみつくまで」一覧 - A-stories(エーストーリーズ):朝日新聞デジタル…
イルカとの誤った距離感はなぜ
(第4回「イルカに『すずちゃん』名付け親の後悔 野⽣との『距離』破ったのは」より)
野生のイルカが人への警戒を忘れ、人間のいる環境でえさを得られることを覚えてしまいました。
いくらかわいくみえてもイルカは力の強い、体の大きな野生動物です。イルカにとって遊びやコミュニケーションのつもりの甘がみや接触が、人には大けがにつながる場合があります。また、人を恐れないイルカが突然近くにいたとき、コントロールできない動物の存在に海水浴客は恐怖を覚えたようです。
なぜ人々はイルカに触りたがり、乗りたがるのでしょうか。
野生動物にはむやみに近づかない、触らない、えさを与えないことが原則です。本来ならば教育機関であるはずの水族館が野生動物との距離感を正しく伝えるべきなのですが、そうはなっていません。これは全国的な問題です。
イルカは人懐っこく、従順でかわいい動物という先入観が、水族館のイルカショーやふれあい、SNSで発信される飼育員になついた姿などにより、植え付けられています。
(第5回「⾚ちゃんイルカに乗った遊泳客 戯れが『⽢がみ』被害に変わった瞬間」太⽥匡彦記者のコメントより)
記事に寄せられた太⽥匡彦記者のコメントが的確に問題点を指摘しています。野生動物はそもそも簡単には見ることができないもので、人間を警戒して逃げることもあります。生息環境が失われつつあり、野生動物と人間の生活環境の境が狭まったいま、人間の側が注意するべきです。しかし水族館の展示はそれと逆行しています。
例えば、伊勢シーパラダイスは今年、施設名称を「ゼロ距離水族館 伊勢シーパラダイス」に変更しました。彼らは、生きものと近距離で触れ合えることを施設の売りだと考えているのです。そうした水族館は残念ながら多いのが現状ですが、神戸須磨シーワールドにいたっては、今年開業したばかりの新しい水族館なのに、いまだにイルカの背に乗るイルカサーフィンを見せていて驚きました。
こうした民間の営利施設だけでなく、公立の水族館も、生きものへの「近さ」を強調しています。例えば、名古屋港水族館などです。
イルカは人とは関係なく生きる野生動物です。すべてのイルカがはじめから人に従順なわけではありません。イルカショーのイルカは調教され、えさでコントロールされています。一方でかみついたり慣れなかったりして、ショーやふれあいに向かないイルカは裏でポツンと飼い殺しにされてきました。
イルカと人を守る、ルールづくりを
野生のはぐれイルカ(ハーミットドルフィン)が人に近づいた例として、ニュージーランドの「ピロウラス・ジャック」や「オポ」、イギリス領タークス&カイコス諸島の「JOJO」、そして北海道網走のシロイルカ「コリン」などが文献や記録に残っています。オーストラリアのモンキーマイアの、ハンドウイルカの小さな群れの例もあります。
いずれもおおよそは、野生のイルカが地元の人々に近づいたことで話題になり、イルカを守るべく対策がとられた経緯があります。
1904年、ニュージーランドのハナゴンドウの「ピロウラス・ジャック」は、世界で初めて法律で守られたイルカになりました。*1
1956年、ニュージーランドのハンドウイルカ「オポ」と、ホキアンガ・ハーバーのすべてのイルカに対する暴行と殺戮を禁止した保護法が公示されました。*1
1980年頃にタークス&カイコス諸島に現れた「JOJO」は環境保護のシンボルとして、国をあげて保護されました。*2
1985年、西オーストラリア州知事の援助により、モンキーマイアのイルカを保護する保護局ができました。*3
いくぶん古い事例もありますが、海外にはこのように人に近づいたイルカを法や行政が保護する動きがありました。
北海道にもはぐれイルカを保護した事例があります。2015年、北海道網走市のオホーツク海とつながる能取(のとろ)湖にシロイルカ(ベルーガ)、「コリン」がすみつきました。「コリン」の保護のため、「能取湖の自然環境を見守る会」による、餌付けはしない、さわらない、などのルールが設けられました。*4
「コリン」はその後、残念ながら傷だらけで打ち上げられた姿で見つかっており、スクリューに巻き込まれて死亡したとみられますが、こうした地元の取り組みは貴重な体験として、参考にされるべきでしょう。
日本沿海はシロイルカ(ベルーガ)の生息域ではありませんが、ときどき、群れからはぐれた、はぐれイルカがあらわれることがあります。オホーツク海とつながる海水湖である能取湖に、去年、船のスクリューによる事故で死ぬまで、はぐれシロイルカのコリン[…]
人に近づくようになったイルカにどう対応し、保護したらよいかは、こうした国内外の前例からも学ぶことができるのではないでしょうか。また、野生動物とはその生息環境も含めての野生であることも重要です。イルカを守ることはそのイルカの福祉(幸せと言い換えてもいいかもしれません)を守るだけではなく環境保護にもつながるのです。
もちろん福井県の水晶浜海水浴場でもイルカの被害を抑えるために様々な対策が取られましたが、学習能力の高い野生のイルカ相手にはなかなか難しかったことが連載からもうかがい知れます。
(第3回「海⽔浴場『イルカよけ装置』効いてる︖ 『追い払う』発想では限界」より)
イルカに注意するよう海水浴客に警告を出したり、イルカが嫌がる⾳を発する「イルカよけ装置」を設置したりしたのですが、ミナミハンドウイルカの嫌う周波がわからないため、あまり効果を出せなかったそうです。追い払うだけでなく、法による規制や研究、保護のためのネットワークや組織づくりの必要性を感じます。
ところで、「イルカよけ装置」ではイルカの種によって嫌う音の周波数が違うので、それがわかる必要があるとのことでした。現在、日本で唯一イルカの生け捕りが行われている和歌山県太地町のイルカ追い込み猟では、海中に金属音を響かせて、イルカの種類に関係なくパニックにさせて追い込んでいます。イルカ追い込み猟の金属音は、イルカが嫌うどころではない恐ろしい音のストレスであることがうかがい知れます。
悲しい別れにならないために
イルカに対して、「癒し」や「かわいい」を満足させて終わるのではなく、未知の部分もいまだ多い野生動物であると認識することが重要です。
そしてイルカはもちろん、ゾウや馬も、どんな動物もそもそも乗り物ではありません。「動物の背中は乗るもの」という発想が、見知らぬ人間にいきなり背に乗られたイルカの驚きや恐怖への想像力を阻み、事故へとつながりました。
イルカショーやふれあいにありがちな「生命力を感じてもらう」「身体能力を知ってもらう」という意図はどこか漠然としており、生態や生息環境も含めての野生動物であるという観点が全く抜け落ちています。
「かわいい」と感じることから保護の意識につながることもあるという意見もあるようですが、イルカショーが保護に関する発信をしていないのに、いつか保護につながるというのは都合がよすぎるのではないでしょうか。
海水浴場や漁港では、人間に近づくイルカを疎ましく思う人もいます。野生のイルカですから災害による死亡や自然死は避けようがありません。しかし人からの危害があったり、事故に巻き込まれたりなど、人災による悲しい別れにならないため、人とイルカとの関係の根本的な見直しが望まれます。
参考文献
*1 藤原英司「海からの使者 イルカ」朝日文庫(朝日新聞出版)
*2 坂野正人「JOJO 海からのメッセージ」双葉社
*3 辺見 栄「イルカのくる浜 モンキーマイアのイルカたち」 聖パウロ女子修道会
*4 能取湖の自然環境を見守る会「ベルーガ保護のお願い」 https://atelier-orca.wixsite.com/lake-notoro/blank-5
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