2019年改正動物愛護法解説:犬猫生後56日齢規制が実現するも、一部例外規定が入る
第二十二条の五(幼齢の犬又は猫に係る販売等の制限):犬猫生後56日齢規制に一部例外規定が入る
(幼齢の犬又は猫に係る販売等の制限)
第二十二条の五 犬猫等販売業者(販売の用に供する犬又は猫の繁殖を行う者に限る。)は、その繁殖を行つた犬又は猫であつて出生後五十六日を経過しないものについて、販売のため又は販売の用に供するために引渡し又は展示をしてはならない。
※改正前は附則に読み替え規定があった。
附則
(経過措置)
第七条 施行日から起算して三年を経過する日までの間は、新法第二十二条の五中「五十六日」とあるのは、「四十五日」と読み替えるものとする。
2 前項に規定する期間を経過する日の翌日から別に法律で定める日までの間は、新法第二十二条の五中「五十六日」とあるのは、「四十九日」と読み替えるものとする。
附則
※過去の附則第二項が以下のように改正された。
(指定犬に係る特例)
2 専ら文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)第百九条第一項の規定により天然記念物として指定された犬(以下この項において「指定犬」という。)の繁殖を行う第二十二条の五に規定する犬猫等販売業者(以下この項において「指定犬繁殖販売業者」という。)が、犬猫等販売業者以外の者に指定犬を販売する場合における当該指定犬繁殖販売業者に対する同条の規定の適用については、同条中「五十六日」とあるのは、「四十九日」とする。
※前回改正時の附則の第七条は削除された。
第七条 削除
新聞等でも繰り返し報道されていますので詳細は割愛しますが、前回の改正時に、本則に犬猫生後56日齢未満の販売禁止が盛り込まれたものの附則で日数の読み替え(第一段階として45日、現在は49日)がなされていた件については、今回の改正で附則が削除されることになりました。本則の56日齢は、無事施行となります。
ただし、ペット業界の抵抗がとても強く、施行時期は他の改正部分とは異なり、2年後となってしまいました。
※施行日が2021年6月1日に決まりました。(参考)
また、天然記念物として指定されている犬種を繁殖者から直接購入する場合に限り、生後49日とする例外規定が附則に盛り込まれてしまいました。親きょうだいとの早期引き離しが伝統的にも絶対に必要と主張する日本犬保存会と秋田犬保存会の強い抵抗が改正間際まで続き、法改正自体が流れる可能性もあった中、関係議員側が苦渋の選択をした形です。とにかく時間がない切羽詰まった状況でした。
生後56日齢本則の施行は私たち3団体としても求めていたところですが、当初はやはりペット業界の抵抗が大きく、もし予定通り2018年に改正されていたら、実現はなかったかもしれません。というより、この問題の調整がつかず改正が遅れたのですが、1年の間に徐々に雰囲気も変わり、最終的には自民党どうぶつ愛護議連の執行部が総会で「前回改正で本則に入れた責任を果たすべき」との形で決定打を打ち、解決しました。その場には、私たち3団体も呼ばれていました。
思えば、2005年に環境省の動物愛護部会で生後8週齢規制導入が検討されたとき(当時の読売新聞記事を参照)から実に14年の年月と、多額の調査研究費(環境省予算)が使われ、結論がゆがめられたような印象の検討会を経て、ようやく実現に至りました。当初は環境省がメディアにリークするほどやりたい政策であった印象でしたが、結果として店頭販売で多くの幼い犬猫を売りさばきたいペット業界の強い抵抗を招き、堂々巡りの議論に多くの時間が割かれました。
今後は、親と引き離しての店頭販売をどうなくしていくのかを含め、「ペット」の販売規制はどうあるべきなのか、また日本の動物福祉全体のあり方はどうなるべきなのか、より幅広い動物が救われる道を考えるステージに関心が移ることを願っています。
条文の解釈について
国会会議録から、参考となる部分を掲載します。
第198回国会 衆議院環境委員会 第7号 令和元年5月31日
※法律案起草について質疑的発言が行われた部分の議事録より該当箇所
(議員立法であるため、法案提出者である国会議員が答えています)
○堀越啓仁委員
次に、このたびの改正案における附則第二項、指定犬に係る特例、いわゆる日本犬の除外規定となる条文の中に「専ら」というふうに書かれておりますが、その対象範囲は一体どのあたりを指すのかについてお答えいただきたいと思います。
○生方幸夫委員
今回の法改正では、平成二十四年改正時の激変緩和措置を削除し、出生後五十六日未満の販売等を禁止する、いわゆる八週齢規制を完全施行することになっております。
その中で、特例として、天然記念物として指定された日本犬については、出生後四十九日未満の販売を禁止する現在の規定を維持することとしております。
八週齢規制の特例の適用範囲についての御質問ですが、この特例は、天然記念物として指定されている日本犬を繁殖している単犬種ブリーダーが一般の飼養者に直接販売する場合に限って適用されることを想定しております。
他方、日本犬以外の犬種を繁殖しているブリーダーや、ペットショップの販売を行っているブリーダーについては特例の対象外であり、出生後五十六日未満の販売等が禁止されることになっております。
○堀越啓仁委員
この件については、生方先生、大変苦しい中での今御答弁だったと思いますが。
やはりこれは、七週齢で規定対象外になる場合には、一般の飼い主に直売する場合、あるいは一つの犬種に限って繁殖している業者、これも天然記念物を扱うということ、これが規制の対象外になり、そして、同業者やペットショップに販売の場合や、一つの犬種に限って大量繁殖をしている業者に関しては規制の対象になるということでありますけれども、七年かけて、やはりこの八週齢規制を完全に実施するんだという一歩手前のところまで来たにもかかわらず、これが急転回したということに関しては、やはり、この立法過程において、私は正直、疑問を持たざるを得ない状況であると思います。
議員立法だからと言われてしまえばそうなのかもしれませんが、立法事実として、なぜ八週齢の除外規定をつくらなければいけないのかということについては、やはりもっと成熟した議論が私は必要になるのだと思っております。
このことについては国民の皆さんも非常に関心が高くて、この八週齢の除外規定はおかしいという声が多々上がり、そして、ネットでの反対署名に関しては、四十八時間で二万筆以上、今は恐らくそれを上回っている数字になっていると思いますが、かなり大きな反響を呼んでおりますので、このことについて、私は疑問を持たざるを得ないことでありますし、どうもすっきりしないということを所感として述べさせていただきたいと思います。
第198回国会 参議院環境委員会 第9号 令和元年6月11日
※審議が行われた議事録より該当箇所
(参議院の委員会ですが、法案提出者である衆議院の国会議員が答弁しています)
○福島みずほ君
今回の改正案には、八週齢規制の例外措置として、天然記念物の対象となる犬種は除外するという規定が入りました。この例外規定が想定する内容はどのようなものでしょうか。保存協会の会員同士とか、かなり限定された方々がその種の保存を目的とした場合に限るなどを想定しているのでしょうか。
○衆議院議員(生方幸夫君)
八週齢規制の例外として、天然記念物に指定された犬について、その犬種の保護との調整を図るため、専ら天然記念物に指定された犬の繁殖を行う業者が犬猫等販売業者以外の者に犬を販売する場合は七週齢規制とすることにいたしました。
この例外措置は、天然記念物として指定されている日本犬を専門に繁殖しているブリーダーが一般の飼養者に直接販売する場合に限って適用されることを想定をいたしております。
○福島みずほ君
保存会の会員ではない一般の飼い主に販売される場合であっても、天然記念物である日本犬の犬種の保存に資するものと言えるんでしょうか。
一般の飼い主が愛玩目的で日本犬を購入する行為は、天然記念物である日本犬の犬種の保存に資するという趣旨にそぐわないものですから、この例外規定は適用されず、八週齢規定が適用されるということでよいのではないでしょうか。
○衆議院議員(生方幸夫君)
天然記念物に指定された日本犬種以外の犬種を繁殖しているブリーダーやペットショップに販売を行う場合については、特例の対象外であり、出生後五十六日未満の販売等が禁止されることになります。
この趣旨は、天然記念物に指定された日本犬種以外の犬種の繁殖を行っている者は日本犬について十分な知識、経験を飼い主に伝えられないおそれがあること、また、一般の飼い主がペットショップから購入する場合は飼い主が日本犬についての十分な知識がないままに衝動買いをするおそれもあるので、日本犬の保存には適さないと判断したことにあります。逆に、今述べたような懸念がないと考えられる場合は、すなわち天然記念物として指定されている日本犬を専門に繁殖しているブリーダーが一般の飼養者に直接販売する場合には七週齢規制とする例外措置を設けたものでございます。
なお、一般の飼い主はペットショップで犬を購入することが多いと考えられ、この場合は八週齢規制を用います。
○福島みずほ君
今回の七週齢という例外規定の対象とする血統書を発行できるのはどの団体となると想定していますか。
○衆議院議員(生方幸夫君)
天然記念物として指定されている犬種に関する血統書の発行については、現在血統書の発行を行っている団体のみを想定をいたしております。
○福島みずほ君
この例外規定を定めている附則の文言について、その趣旨を説明してください。専らとの言葉が意味する内容、つまり指定犬の繁殖を行う者までを指すのか、それとも犬猫等販売業者以外の者に販売するというところまでを指すのか。専らの文言の掛かる範囲が異なると、例外規定の対象となる日本犬の範囲が大きく変わってきます。
この附則が成立した場合の販売形態、仕組みとはどのようなものでしょうか。
○衆議院議員(生方幸夫君)
今回の法改正における八週齢規制の例外措置は天然記念物である犬種の保護との調整の結果であり、天然記念物の保護に適さないおそれが高い場合には例外措置の対象としないこととしております。専らの意味するところは、天然記念物として指定された犬の繁殖を行う犬猫等販売業者が、犬猫等の販売業者以外の者に指定犬を販売する場合までに掛かっております。
なお、一般の飼い主への直接販売に際しましては、天然記念物である犬種の特徴などを十分説明し理解してもらうようにすることが、天然記念物の価値を知ってもらい、天然記念物を保護する上で重要であると考えております。
○福島みずほ君
環境省にお聞きします。
八週齢にすることは、みんなのある意味悲願というか当然だという思いでした。附則が削除されるということはいいんですが、例外が定められたということについては、例外、例外、例外、例外、例外ということで、極めて限定的、限定的、限定的で本当にあるべきだというふうに思っております。
この七週齢が適用となる犬種取引は極めて限定するべきだと考えます。この七週齢が例外的に適用される犬の頭数は年間何頭ぐらいになると想定していますか。
○政府参考人(正田寛君)
お答えいたします。
天然記念物として指定された犬の頭数につきましては、環境省としては把握をしてございません。
他方、今般の改正法の規定によれば、七週齢の特例は、専ら天然記念物として指定されている日本犬を自ら繁殖しているブリーダーが他のペットショップを経由せずに直接販売する場合に限って適用されることとなりますので、その対象となる犬は限定的であり、その割合につきましても非常に小さくなるものと想定をしております。
○福島みずほ君
本当に限定的になるのかしっかりウオッチしていき、また環境省自身もそれについて助言し、その穴がと言うと変ですが、どんどんやはり大きくならないようにということを是非環境省としてもしっかりチェックし、限定的にしていくよう心からお願いをいたします。
56日齢規制については環境省で調査研究とそれに基づく検討会も持たれた
8週齢規制については、環境省が麻布大学菊水健史教授へ外部委託した調査研究と、それに基づく有識者の検討会「幼齢犬猫の販売等の制限に係る調査評価検討会」が持たれました。
幼齢犬猫の販売等の制限に係る調査評価検討会
開催日 | 議事概要 | 議事次第・資料 | |
---|---|---|---|
第1回 | 平成29年9月27日 | 議事概要 | 議事次第・資料 |
第2回 | 平成29年12月15日 | 議事概要 | 議事次第・資料 |
数字としては、8週と7週のあいだで微妙な差がでましたが、検討会座長の見解により、強引に差はたいしたことがない=差として認めなくていいような展開になりました。環境省の8週齢調査研究について訂正のお詫びが出るなど、混乱を極めました。
そもそも環境省の週齢調査は、ほとんどがペットショップ由来の犬猫を対象にしており、サンプルが偏っています。
サーペル博士の研究では、問題行動が少ないのは良心的な小規模ブリーダー由来と出ていますから、これらのデータが含まれない日本の調査では8週で行動が改善される現象が起きなかっただけかもしれません。
3群の分け方もいまひとつなものでしたが、大まかにとらえると、もし8週と7週のあいだで差がないとするなら、日本では7週と8週の間だけではなく、6週と8週の間でも差がなかったことになります。日本では、8週での引き離しも6週と同じくらい悪いと考えたほうがよさそうな結果でした。
8週も7週と同じくらい悪いと見ることもできるかもしれないというコメントは、検討会で出ていました。
また大型犬については8週のほうがよいという差がでていましが、サンプル数が少なすぎるとして、検討対象から切って捨てられてしまいました。しかし、安全寄りに考えるなら、全ての犬を大型犬に合わせて8週齢で規制するのが妥当だと感じました。
結果をどう受け止めるかの議論は平行線となり、解析だけ他の研究者にもう一度やらせるのが一番よいのではないかと思わざるを得ませんでしたが、その選択はとられませんでした。
7週と8週で変わらない(8週のほうが少しいい)のだから8週でいいと政治的決着を見てほしいと思っていましたが、最後に結論が出て、ほっとしました。この問題にいつまでもリソースを割かれていると、日本の動物福祉がいつまで経っても進みません。
参考:14年前の新聞報道
日本でも8週齢規制が導入されると皆が信じてしまった2005年当時の新聞報道です。このとき急に8週の議論が登場し、既に日本でも禁止されたと誤解した人も当時多くいました。2回目の法改正が成立した直後のタイミングでした。
(読売新聞2005年9月22日) 環境省は21日、生後間もない犬や猫といったペットの販売を禁止する方針を明らかにした。かわいらしさなどから、国内では犬と猫の約6割が生後60日以内にペット店に仕入れされ、販売されている。しかし、生まれたばかりの犬や猫は、環境の変化や輸送に弱いほか、人間や他の動物に十分に慣らされていないという問題がある。
成犬などに比べてエサやフンの始末なども大変で、世話しきれずに捨てられるケースもある。
米国では8週齢未満の犬猫の取引、輸送を禁止。英国も8週齢以下の犬の販売を禁止している。
動物愛護法が今年6月に改正され、ペット店などの動物取扱業に登録制度が導入された。同省はこの登録基準に幼齢な動物の販売禁止を盛り込む考えだ。生後いつまでのペットを販売禁止にするかは、海外の事例や国内の販売実態を踏まえ、8週齢を軸に検討する。
(以下略)
2019年改正法の概要 目次
● 第一種動物取扱業による適正飼養等の促進等
- 登録拒否事由の追加により欠格要件が強化されました
- 環境省令で定める遵守基準を具体的に明示する条項が入りました
(飼養施設の構造・規模、環境の管理、繁殖の方法等) - 販売場所が事業所に限定されます
- 生後56日(8週)を経過しない犬猫の販売規制が実現するも、例外措置が附則に
- 帳簿の備付けと報告の義務が犬猫等販売業から拡大
- 動物取扱責任者の条件が追加されました
- 勧告・命令違反の業者の公表と、期限についての条項が新設されました
- 廃業・登録取消後に立入検査や勧告等を行うことができる規定が新設されました
参考:2019年改正動物愛護法に入らなかったこと<動物取扱業>
● 動物の適正飼養のための規制の強化
● 都道府県等の措置等の拡充
- 動物愛護管理センターの業務を規定、自治体への財政上の措置も新設
- 動物愛護管理担当職員の配置は義務になり、市町村にも設置努力規定
- 動物愛護推進員は委嘱が努力義務に
- 所有者不明の犬猫の引取りを拒否できる場合等を規定
● その他