先日、動物実験しか根拠がなく、意味不明のグラフや、疑わしい比較写真などが使われている健康食品のチラシについてブログでご紹介しました。こんな怪しい内容でも見たら信じてしまう人がいるかもしれないので商品名は伏せましたが、乳酸菌の一種です。
人への有効性を実証するデータがないのに広告することは不当表示に該当住宅のポストに動物実験の写真を堂々と使ったチラシが投函されていました。驚きます。マウスとカイコの動物実験を大々的に根拠としていますが、人でどうだったかの科学的根拠[…]
マウスとニワトリの実験は九州大学農学部で行われたように読めるため、九州大学に、当該実験を行った研究者は誰か、また大学として研究成果をこのように使用することを許しているのか等、問い合わせたところ、驚愕の事実が判明しました。
九州大学からの最初の回答
まず、これが動物実験について問い合わせたときの大学の通常の対応だということを知っていただきたいので、九州大学からの最初の回答もご紹介します。
このときは、全く答えになっていないため、絶望的な気持ちになりました。大学の研究によって問題が起きているというのに、このような内容で市民が納得すると思っているのでしょうか。形式的に答えておけばいいと思っているのでしょう。
九州大学において実験動物の飼養・保管及び動物実験を実施する際は、 「動物の愛護及び管理に関する法律」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」、 「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」、「九州大学動物実験規則」及び 「九州大学動物実験規則実施細則」を遵守した上で行っております。また、実験動物の飼養・保管及び動物実験を実施するには、事前に教育訓練を受講し、 動物実験従事者として登録した上で、動物実験申請書を提出し、 学内の審査を受けることとされております。九州大学の動物実験については以下のURLをご参照ください。 http://ura.kyushu-u.ac.jp/animal/ |
これに対しては、「肝心の点についてご回答を頂いておらず、また、ご回答の意図も理解しかねます」とし、以下の質問をしたところ、実に驚くべき回答が来ました。
なんと、写真で一番目立っているマウスの実験は行われていませんでした!
ニワトリの研究も、効能を調べるためのものではありませんでした!
ニワトリの試験は安全性試験として行われたのだそうです。いわゆる効能や機能性を研究するためのものではありませんでした。内容をすり替えて宣伝に使う健康食品会社の不誠実さには驚きます。
健康食品のチラシに掲載されている九州大学の研究について(回答)
※赤字はPEACEによる。
※回答にかかれていることが全て事実なら、ある意味、研究者も被害者なので実名は伏せました。
添付PDFのチラシ表面下部に掲載されている、マウス及び鶏を用いた乳酸菌■■の投与実験を行っている九州大学の研究者は誰か?
平成29年度から平成30年度にかけて、株式会社■■■■様と本学農学研究院との共同研究として、ニワトリに対する乳酸菌■■の投与実験が行われておりました。
カイコ・マウスに対する乳酸菌■■の投与実験は実施しておりません。実験責任者は、農学研究院 助教 ■■■■(在籍時)であることを確認いたしました。現在は 弘前大学農学生命科学部 に在籍されております。
この乳酸菌■■の投与実験は、動物実験計画書の審査を経て動物実験委員会に承認された実験であるということをご確認いただいたということか?
本学動物実験委員会にて承認された実験であることを確認いたしました。
実験課題名:新規乳酸菌■■のニワトリにおける安全性試験
承認番号 :A29-308-0
この乳酸菌■■投与実験の結果は、どこで公表されているか。もしくは公表されていないのか。
確認したところ、実験責任者からは当該実験結果に関する論文・学会発表は行っていないとのことです。
なお、上記回答と併せて、チラシの内容について本学よりお断りする点がございますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
チラシの「九州大学大学院農学研究院調べ」と記載されております、遺伝子名称、機能性、増加率の表は、本学が提供した未加工のデータに基づき、株式会社■■■■様の方で作成されたものであると思われます。
マウスの実験はどこでされたのか不明、特許は実在するが……
マウスの実験が九州大学農学部で行われていなかったことは驚きました。しかし、チラシをよく読むと、九州大学農学部で行われたと誤認されるように書かれているだけなのかもしれません。あくまで九州大学農学部との共同研究は、後に書かれているニワトリの実験のことだけを指していて、マウスの実験は、どこで行われたか明言されていなかったということになります。
単に若いマウスと成長したマウスを比較しているだけに見え、とても怪しい比較写真ですが、出典がどこなのか、本当に不明になりました。
ちなみに、九州大学の回答にはカイコの実験についても言及がありますが、カイコの実験は東京大学関水研究室で行われたものであることがチラシに書かれており、カイコの論文は実在します。
カイコの実験が、哺乳類で行われている動物実験の代替になるということについて尽力している研究者の名前をここで挙げるのは心苦しいですが、製品を売るのであれば、人でのエビデンスを示すべきで、カイコの一論文だけで著しい効能があるかのように広告するのは不誠実だと感じます。
またこの乳酸菌の特許も実在しますが、特許は新規性があるものに対して付与されるものであって、安全性や品質を保証するものではありません。効能についても、特許公報に書かれているだけでは根拠にはならず、ほかに客観的に実証された根拠が示せなければ、景品表示法違反となる可能性があります。
消費者庁に再度、通報しました
少なくとも、チラシに書かれているニワトリの実験の解釈は虚偽と言え、PEACEでは、景表法違反に関する通報窓口を通じ、消費者庁に情報提供しました。
回答に出てきている会社は製造メーカーで、以前ブログに掲載したチラシを配布したのとは別の企業でしたので、2社めの通報になります。(チラシを配布したのは販売代理店と思われます)
国が示している「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(令和2年4月1日)では、不実証広告(景品表示法第7条第2項) に該当する例として、以下のように書かれています。
消費者庁は対応してくれるのだろうか? 景表法も改正が必要!
問題は、消費者庁が本当に動いてくれているのかどうかがわからないことです。行政処分がくだされた場合は社名とともに公表されますが、それがなければ、問題がどう処理されたのか、消費者は知ることができません。これは企業にとって都合のよい制度です。
誇大広告や、エビデンスのない不実証広告などを規制する「不当景品類及び不当表示防止法」(景表法)は、以前は、通報した者に調査結果を報告する通報制度があったそうです。かつて、景表法は独占禁止法の特例法として位置づけられており、その時代のことです。しかし、景表法が独占禁止法から切り離され、消費者庁に移管された際に、その制度もなくなってしまいました。
「食の安全・監視市民委員会」という市民団体が、消費者庁に対し以下の要望をしたことをメールマガジンに書いていました。今、まさに必要な改正です。
2)表示改善だけではなく、表示に合わせた商品・サービスの実態改善を命令できるよう、運用の積極化を図れるようにすること
3)不実証広告規制制度(※)の運用にあたって、審査の透明性を確保するために、事業者が提出した資料及びその審査結果の内容について一般に公開すること
4)売上額のわずか3%を基準とする課徴金制度と違反事業者の自主性に委ねる消費者への返金制度について抜本改正し、違反根絶、被害者救済を保証する制度とすること(食の安全・監視市民委員会 FSCW メールマガジン 第91号 2021年6月16日発行より引用)
大学は問題を放置するのだろうか
このような広告を行う企業は共同研究先として大変不適切と言わざるを得ないと思いますが、大学は名前を使われて、黙っておくのでしょうか。
回答へ返信し、九州大学として、何か対応はされるのか聞いてみていますが、今のところ回答はありません。
また、大学は、共同研究先の選定についても慎重になるべきです。
このような不誠実な広告を行う企業のために、安易に動物が使われることは、あってはなりません。
人への有効性を実証するデータがないのに広告することは不当表示に該当住宅のポストに動物実験の写真を堂々と使ったチラシが投函されていました。驚きます。マウスとカイコの動物実験を大々的に根拠としていますが、人でどうだったかの科学的根拠[…]
人への有効性を実証するデータがない広告は不当表示!食品やサプリメントなどの宣伝では、よく「動物で効果があった」というエピソードが使われることがあります。しかし、種差が存在するため、効能などの反応は動物と人間で同じではありません。[…]