動物愛護法改正等を受けて、十勝ではクレーン吊り下げを伴う病畜の輸送が廃止されていました

ここのところ、動物用に購入する食品代の高騰などにより動物園の運営が厳しくなっていることがしばしば報じられていますが、先日、おびひろ動物園に関する記事では、それ以外にも気になることが書かれていました。

 十勝毎日新聞記事より

「2020年まで肉食動物の餌には、中札内村の廃用牛を取り扱う業者から牛肉を仕入れていたが、動物愛護法改正により業者が取り扱いをやめたことから輸入肉に切り替えたという。」(「腹が減っては展示はできぬ 動物園の餌代『持つかどうか』 農家の協力に期待」2022年10月8日 ※マーカーはPEACEによる)

この部分、とても不思議に思いました。

動物愛護法改正により、化製場での生きた動物の取り扱いが変わったことがうかがえる記述ですが、2019年の改正では、畜産動物に関する条文の改正は特にありませんでした。

強いて言えば、罰則の条文に追加があり、動物を殺す場合の方法についても国際動向に十分配慮するよう努めることとされ、関係機関との連携に畜産部局・公衆衛生部局が追加されましたが、いずれも直接改善を求めるものではないように思えますので、これらが影響したからなのか、よくわかりませんでした。

そこで、おびひろ動物園や、関連する行政機関等に問い合わせをしてみました。

おびひろ動物園によると、牛のクレーン吊り下げが動物福祉上の問題となった

おびひろ動物園によると、廃用牛をクレーンで吊るす行為が動物虐待にあたるということになり、化製場が肉を扱わなくなったとのことでした。

化製場とは、レンダリング施設のことです。産業動物をと畜、食肉処理した後に出る残骸や、農場で出た動物の死体などを高熱処理し、油脂、肉骨粉、肉粉などに分離加工する産業で、日本では化製場法による規制を受けています。

動物園によると、廃用牛の解体は、化製場で行われていたとのことでしたが、殺処分方法まで把握していませんでした。また、動物愛護法がどう影響したのか等、くわしいこともわかりませんでした。

化製場法を担当する帯広保健所に聞いてみた

化製場のことなので、化製場法の業務を所管している保健所に聞くのがよいかと思い、問い合わせをしてみましたが、ここでも現状がどうかということしかわかりませんでした。

乳量が減ってくる時期となった乳牛などの廃用牛も、食肉に回されていますが、と畜場でのと殺前の検査で食肉に供することができないと判断されたものは、農家に戻されます。

また農場では、立てなくなったヘタリ牛など病気の牛も発生しますが、こうした食肉に適さない病畜を含め、農家では、獣医師を呼び安楽殺処分を依頼するか、治療をするかの2択あるのみとのことでした。

生きたまま化製場に送ることは、今はされていないということはわかりました。

しかし、ではこれまではどうだったのか? また動物愛護法が影響したというのは本当なのだろうか? まだよくわからないので、動物愛護法の担当部署からの折り返しの連絡待ちとなりました。

本当に動物愛護法改正は影響していた!
環境省と農水省が連名で出した通知の成果でした!

北海道十勝総合振興局保健環境部環境生活課自然環境係から連絡をいただき、やっと詳細を確認することができました。

法改正施行前の2021年(令和3年)1月21日環境省と農林水産省の連名により「農場における産業動物の適切な方法による殺処分の実施について」という通知が出されていましたが、この内容を受けて、十勝では廃用家畜の扱いが変わったということでした。

また、畜産技術協会の「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の農場内における殺処分に関する指針」の第2版への改訂が行われたことも背景にあったそうです。

また、このころ関連部局・関連団体の連名により各農家に配布されたチラシの内容(下記)を見ると、改正動物愛護法の施行日以降、死体のみの運搬となったことがはっきりわかります。病畜の生きたままの輸送や、化製場での殺処分はなくなっていました。

▼農家に配布されたチラシ

北海道の農家に配布されたチラシ

では、以前はどういう殺され方をしていたのだろうか?

しかし、ここで一つだけ疑問が残りました。

クレーン吊り下げは、輸送時のことだけなのか、それとも殺処分時にも吊って放血死させるなどの方法がとられていたのか不明でした。(肉を動物園の動物に与えていることから、薬殺でないことは確かと思われました)

おびひろ動物園には取引先は教えてもらえなかったのですが、十勝農業協同組合連合会化成事業所に電話をしたところ、肉を卸していたのは、ここで間違いないようでした。

ここでは、と殺銃(事前に意識を消失させるためのスタニング装置)を警察の許可を得て設置しており、食肉処理場と同様の方法がとられていたとのことでした。

以前は、病気の牛が生きたまま輸送されており、そのためにユニック車を使ってクレーンで吊らざるを得ない状況があり、それらが動物福祉的でないということになったのは間違いないようです。

さいごに

畜産業全体の動物の苦しみの規模を考えれば、ごくわずかなことかもしれませんが、動物愛護法改正が畜産動物の扱いを少しだけ福祉的なものにしたということがわかり、とてもうれしく思いました。

十勝毎日新聞の記事は本当に合っているのかな?と疑っていましたが、正しいこともわかりました。

一つ残念だったのは、おびひろ動物園が、動物を扱う施設でありながら、その動物に与える肉のために、どのように牛が殺されているのか全く把握していなかったことです。同じ地域で飼育され、廃用となった動物であるにもかかわらずです。

そもそも動物園は、動物のために動物を殺しながら事業をしなければならない矛盾を抱える施設ではありますが、もし動物園が動物福祉に関心を持っていれば、動物愛護法改正を待たずしてクレーン吊り下げや、病気で苦しんでいる状態での輸送を止めさせることができたのではないかと思ってしまうのです。

参考

環境省・農水省通知「農場における産業動物の適切な方法による殺処分の実施について」

環自総発第2101214号
2 生 畜 第 1 7 6 3 号
令 和 3 年 1 月 2 1 日

都道府県・指定都市・中核市
動物愛護管理主管部(局)長
各地方農政局生産部長        殿
北海道農政事務所生産経営産業部長
内閣府沖縄総合事務局農林水産部長

環境省自然環境局総務課長 (公印省略)
(農林水産省)生産局畜産部畜産振興課長

農場における産業動物の適切な方法による殺処分の実施について

日頃より動物愛護管理行政の推進につきまして、御理解御協力を賜り厚く御礼申し上げます。

「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和 48 年法律第 105 号、以下、「動物愛護管理法」という。)第 40 条に規定する動物を殺す場合の方法については、「動物の殺処分に関する指針」(平成7年7月4日総理府告示第 40 号。以下「指針」という。)において、動物を殺処分しなければならない場合にあっては、化学的又は物理的方法により、できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の方法によることが規定されているところです。

今般、ある畜産事業者において、首吊りにより時間をかけて豚を窒息死させる行為や、適切な治療や殺処分を行わずに放置することにより鶏に餓死や衰弱死を招く行為が行われているとの情報を環境省において確認しました。

動物愛護管理法では、動物のみだりな殺傷や暴行等を禁止しています。これらは一般的に、不必要に強度の苦痛を与えるなどの残酷な取扱いをすることをいい、その具体的判断は、行為の目的、手段、態様等とその行為による動物の苦痛等を総合して、社会通念としての一般人の健全な常識により判別すべきものと解しています。

また、上述のとおり、指針では殺処分を行う際には適切な殺処分方法によることと規定されており、「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」(令和2年3月 16 日農林水産省生産局畜産部畜産振興課長通知)においても、治療を行っても回復の見込みがない場合や、著しい生育不良や虚弱で正常な発育に回復する見込みのない場合など、家畜の殺処分を農場内で実施しなければならない場合には、直ちに死亡させるか、直ちに意識喪失状態に至るようにするなど、出来る限り苦痛の少ない方法により殺処分を行うこととしております。

個々の行為が虐待にあたるかを一律に判断することは困難であるものの、動物虐待は、人が社会の中で関わるあらゆる動物の取扱いにおいて、法的にも道義的にもあってはならないことです。

このため、令和元年度の法改正により、昨年6月から動物のみだりな殺傷や虐待に関する罰則が大幅に強化されたことや、動物愛護管理部局と畜産部局等との連携強化が明示されたことも踏まえ、関係部局が連携して、日頃より、産業動物の適切な取扱いの確保及び虐待等の防止に係る事業者への指導助言や情報共有の徹底を図るとともに、適切な方法による殺処分が行われていない事態や飼養保管が適切でないことに起因して産業動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態が認められたときは、速やかな改善を求め、改善の意志がない場合は、警察への告発を含めて厳正に対処するよう御対応願います。

各地方農政局、北海道農政事務所、内閣府沖縄総合事務局におかれては貴局管内の都道府県畜産部局に上記の旨を周知するとともに、畜産関係者へ周知するよう依頼願います。

(参考)
「動物の殺処分方法に関する指針」(平成7年7月4日総理府告示第 40 号)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/laws/shobun.pdf
「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」(令和2年3月 16 日農林水産省生産局畜産部畜産振興課長通知)
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-42.pdf
「疾病の管理を目的とした殺処分」(OIE の陸生動物衛生規約)
https://www.oie.int/index.php?id=169&L=0&htmfile=chapitre_aw_killing.htm

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