OIE(世界動物保健機関/国際獣疫事務局)のアニマルウェルフェアに関する規約(陸生動物衛生規約の関連章。OIEコードとも呼ばれる)が日本の基準に反映されていない部分について、昨年7月21日付けでNPO法人アニマルライツセンター、ヘルプアニマルズと連名で農林水産省に公開質問状を送りました。
農水省からは検討するとの回答が来ており、その後、畜産技術協会で指針の改訂作業が進められているとのことでしたが、最終的には今年6月、改訂版のアニマルウェルフェア指針となって公表されました。
では、私たちの求めていたOIEの規約との整合性は、どうなったでしょうか?
■OIEコードとの整合性を求めていた部分について
1.肉用牛の去勢について
<意見>
OIEコード「アニマルウェルフェアと肉用牛生産システム 」には「生産者は、とりわけ高齢動物における肉用牛の去勢を目的とする無痛法又は麻酔薬の使用の有無及び妥当性に関し、獣医師の指導を求めるものとする」と記載されていますが、肉用牛の飼養管理指針には、去勢時の麻酔や獣医師の指導についての記述はありません。この点の整合性を求めていました。
<結果>
「去勢を実施するにあたっては、離乳時期と重ならないよう考慮する等、牛へのストレスの防止や感染症の予防に努めつつ、」
という記述が
「去勢を実施するにあたっては、獣医師等の指導の下、離乳時期と重ならないよう考慮する等、牛へのストレスの防止や感染症の予防に努めつつ、」
に変更。赤字の部分が追加になりました。
しかしOIEコードにある「無痛法又は麻酔薬の使用」の記述は追加されませんでした。
2.肉用牛の除角ついて
<意見>
OIEコード「アニマルウェルフェアと肉用牛生産システム 」には、「生産者は、角の発育がさらに進行した場合には、とりわけ高齢動物における肉用牛の除角を目的とする無痛法又は麻酔薬の使用の有無及び妥当性に関し、獣医師の指導を求めるものとする」と記載されていますが、肉用牛の飼養管理指針には、除角時の麻酔や獣医師の指導についての記述はありません。この点の整合性を求めていました。
<結果>
「除角を行う際は、牛の健康状態をよく観察した上で離乳時期等と重ならないよう配慮する等、」
という記述が、
『除角を行う際は、獣医師等の指導の下、牛の健康状態をよく観察した上で離乳時期等と重ならないよう配慮する等』
に変更。赤字の部分が追加になりました。
しかしOIEコードにある「無痛法又は麻酔薬の使用」の記述は追加されませんでした。
3.乳用牛の繋ぎ飼育について
<意見>
OIEコード「アニマルウェルフェアと乳用牛生産システム 」には「家畜管理飼養者は、牛が繋がれている場合には、ウェルフェア上の問題のリスクが高まることを認識しておくものとする」と記載されています。このような記述を、日本の「アニマルウェルフェアの考え方に対応した乳用牛の飼養管理指針」にも追加することを求めていました。
<結果>
私たちが求めていた記述は盛り込まれませんでした。
そして「繋ぎ飼い方式」の項目には下記が追加されました。
- 牛を繫ぎ飼いする場合には、牛が自ら起立・横臥・身繕いができるように配慮し、正常な姿勢がとれ、頭が自由に動くこと等が必要である。
- カウトレーナーを使用する場合には、適切な方法で設置・使用されているかを確認することが必要である。
この2文の追加は確かにOIEコードに合わせたものになっていますが、本来ならば一つ目には「牛が回転できること」も含まれてはずだったところ、日本がOIEに「舎内では回転できなくてもよい」とのコメントを提出したため、それが採用され、このような一文になってしまいました。
二つ目も本来なら「カウトレーナーそのものを使用しない」という内容になるべきところを、日本が「カウトレーナーは正しく使えばむしろ高いウェルフェアをもたらす」とのコメントを提出したため、カウトレーナーを認めた一文となってしまいました。
4.乳牛の除角について
<意見>
OIEコード「アニマルウェルフェアと乳用牛生産システム」には『麻酔及び無痛法の使用は、摘芽を実施する場合には、強く推奨されており、除角する場合には、常に使用されるものとする。』と記載されていますが、乳用牛の飼養管理指針には、摘芽・除角時の麻酔及び無痛法の使用についての記述はありません。この点の整合性を求めていました。
<結果>
「除角を行う際は、牛への過剰なストレスを防止し、可能な限り苦痛を生じさせない方法をとることとする。」
という記述が、
「除角を行う際は、牛への過剰なストレスを防止するため、可能な限り苦痛を生じさせない方法をとることとし、必要に応じて獣医師等の指導の下、麻酔薬や鎮痛剤等を使用することが望ましい。」
に変更。赤字の部分が追加になりました。
乳牛については「獣医師」も「麻酔」も盛り込まれました。
なぜかOIE対応の部分とそうではない部分があります。つなぎ飼いOKの指針で「ウェルフェア」と言えるのかなど、大きな疑問もありますが、実際に生産者に「ウェルフェア」の言葉を届けるツールとしては大きな役割を担っています。「指針があります」で終わらない対応を国にも求めていきたいと思います。
参考ページ:
▼カウトレーナー