ここのところ日本の経済産業省は、動物興行業界の求めるままに、サーカス等短期展示目的でのCITES(ワシントン条約)の動物の生体の輸入について、規制緩和を続けている。
まず本来3年までだったものを6年まで延長できるようにし、さらに、理由があればその6年からもっと期間を延ばせるように関連文書の改正を行い、事業者に便宜を図った。木下サーカスにいたゾウ、そして、東北サファリパーク、沖縄子どもの国、岩手サファリパーク、那須サファリパークなどの間をぐるぐると回されていた、ラオスからの東日本大震災復興支援名目のゾウたちだ。
さらに驚いたのは、今年のパブリックコメントでは、延長時に必要な「内容証明書」を「内容説明書」に変更することを掲げていた。
書かせる内容は変わらないというが、だったらなぜわざわざ規制緩和と考えられるような名称変更の改正をするのか。納得のいく理由もない。日本国内での興業についての説明が真実であり、都合の悪いことが隠されていないか、合法に行われるものであるかどうか、つまり最低限、特定動物の飼養許可や第一種動物取扱業の登録を済ませたものであるかどうか等、証明を求めるべきだろう。なのに、内容の説明をすればいいように名称を変えるという。甘すぎないか。
6年以上に延長できるようにする改正時には、あまりに突然で経過が不透明であるため、情報公開請求を行ったが、見事に真っ黒墨塗り。政府の判断がサーカスやサファリパークの言うままに変更されてきているというのに、国民に理由を示すつもりもない。
実はこの規制緩和時の経緯については、木下サーカス社長木下唯志氏が著書に、アジア野生動物研究センター理事長の堀浩氏(なぜか、那須サファリパークや那須ワールドモンキーパークの園長でもあることは書かれていない)を頼って国に働きかけたことを書いている。だというのに、経産省はご丁寧にも事業者をかばって非開示だ。
豪雨で飛行機が飛ばなかった、ある航空会社1社(だけ)が使えなくなったと理由が書かれているが、やむを得ない事情があって延ばしたというなら、延ばした期間は正規の期間ではないのだから、興行にゾウを使うべきではないだろう。
しかし木下サーカスは本来9月返却だったものが返せなくなったと言って、翌年3月の公演までちゃっかり半年間もラオスに返すべきゾウを使っていた。仮に止むを得ない理由が本当にあり、返却がほんの少し程度延びたとしても、興行も終えているなら良識の範囲内かもしれないが、政府の態度が甘いために、なんと半年間も返すべきゾウで利益を上げ続けていたわけだ。これには驚いた。
(ちなみに、木下サーカスの公演が終わってからラオスに返されるまでの間、国内の展示業者のところにゾウがいることは確認したが、現地を見に行っていないので、そこでも展示に使われていたかどうかは確認できていない)
既にパブコメの結果が公表されているが、改正に反対の意見を送った。もちろん、市民の声など聞くつもりもなく、既に改正済みだ。
パブリックコメントに送った意見
【意見該当箇所】
「ワシントン条約動植物及びその派生物の輸入の承認について(平成19年3月6日付け輸入注意事項19第4号)」の改正について
「5その他遵守事項等」の以下の部分
「(10)(9)の延長を行う場合は、申請の際に提出した移動動物園、サーカス、動物展、植物展その他の移動する展示会の内容説明書(別紙様式6)に記載された再輸出予定日について、以下により内容変更を行わなければならない。」
および
[別紙様式6]移動動物園、サーカス、動物展、植物展そのたの移動する展示会の内容説明書」
【意見】
「内容説明書」ではなく、現行の「内容証明書」のままにするべき。
内容の「証明」ではなく「説明」でよくなってしまうのは、書いた内容が本当のことだと誓って書いていなくてもよいと感じられる。内容の証明書類であることを明確にするため、現行の「証明書」のままにするべき。わざわざ「証明」であったものを「説明」と改正するには意図があるはずで、単に内容の「説明」とするのは、規制緩和の意図があると感じられる。延長であっても、厳しく審査を行うべきであり、業者の説明をそのまま丸のみにして審査を行うべきではない。ラオスからのアジアゾウの貸与に関しては、ゾウの事業者間での「又貸し」と考えられる移動が頻繁に行われており、これらが「説明」で済んでしまうのはおかしな話である。すべての興行・展示について、証明書を提出させるべきである。
移動動物園、サーカス、動物展、植物展その他の移動する展示会のための動物の生体の輸入については、ここのところ、サーカス興行主(木下サーカス)らの求めるままに、3年間延長、さらにはそれ以上の延長も認められるような、規制緩和がずるずると行われてきている。これらの延長を可とする規定が盛り込まれたこと自体が不適切であり、特定の業者(木下サーカス)からの働きかけに対し経済産業省が便宜を図ったことは明らかだが、経済産業省は情報公開請求等においても事情を公開しておらず、意思決定の過程が非常に不明朗である。
営利目的での希少種の利用を事業者の求めるままに経済産業省は認めるべきでなく、さらなる規制緩和に反対する。