30日以内にしなければいけない数の増減の報告を10年以上怠っていた
今年1月23日、千葉県成田市の動物プロダクション「湘南動物プロダクション」で、飼育しているライオンに社長と役員の2名が咬まれて重傷を負った事故がありました。撮影のためライオンを洗っていたことが直接の原因であり、かなり報道もされました。
この件については警察も捜査していると報じられていますし、当初調べるつもりはなかったのですが、同社がこれまで多くの子ライオンを販売してきていることに関連し、とある情報提供があり、千葉県に対し情報公開請求を行いました。
その結果、ライオンの出入りについてたくさんの増減届の写しが出てくるのかと思いきや、なんとたった一枚の紙があっただけでした。
「?」と思い、しばらく意味がわからなかったのですが、これは事故をきっかけに2005年以降のライオンの増減を全て一度に報告したものであり、「同社は正確な頭数を県に届け出ていなかった」(東京新聞2017年2月4日)などと報じられていたことが事実であることを示しているのだ、と気が付きました。このことは保健所に質問をして、確認しました。(下記参照)
「特定動物の飼養又は保管の方法の細目」では、数の増減があってから30日以内に、個体識別に関する情報とともに届出をすることが定められていますから、同社は長年、この規定に違反していたことになります。
しかも、特定動物の飼養が全国一律に許可制になったのは、2005年の動物愛護法改正時ですから、施行された2006年以降ずっと違反していたことになります。(それまでは各都道府県の条例での規制にゆだねられていました)
離乳が終わっていない幼齢ライオンの販売
また当初はライオンの導入が続きますが、2011年に1頭、2012年に3頭、そして2013年には9頭も繁殖しています。それでも届出はしてこなかったわけです。といっても概ね生後2カ月程度で「譲渡」の記載ですから、幼くして販売されているわけですが…。
特に1頭は生後1カ月で譲られており、イエネコでも考えられないではないかと思い、千葉県に見解を問いました。回答は、獣医師がいないので、育児放棄された個体、健康不安がある個体を専門の獣医師が常駐する取引先等へ移動させるケースがあるとのことでした。
ライオンは生後3カ月くらいから肉は食べられるようですが、野生下で本当に離乳をするのは生後6~7カ月くらい。本当は生後2か月でも到底離乳したとは言えないのですが、親からの超・早期引き離しが業界の慣行となっていて虐待と認識されていない事情から、質問ではあえて生後1カ月で販売された事例に限ってしまいました。
しかし、「離乳等を終えて、成体が食べる餌と同様の餌を自力で食べることができるようになった動物」を販売に供することという法令の文言に照らし合わせれば、生後2カ月での販売でも第一種動物取扱業者の遵守基準には違反していると考えられます。やはりこの規定の遵守を浸透させていく必要があるでしょう。
こんなに早く親と引き離されて何に使われているかといえば、ふれあいや写真撮影です。一般の人が、「ライオンの子が親と引き離されてひとりでいるのは変だ、哺乳されているのはなぜなのだ?」と気がつくことも重要です。そういうサービスにお金を払うことで不幸なライオンが増えていきます。
2014、2015年は繁殖がなく、2016年に繁殖した2頭は移動檻での管理とありました。
情報公開請求では調べようとした目的は果たせなかったのですが、疑問点について保健所に質問しましたので、回答と合わせてご参考ください。(下記参照)
法律の問題点
特定動物の規制に関しては、厳しいようでいて緩いところがあるのが問題です。
まず、特定動物の飼養保管許可というのは、あくまで施設に対するものであって、個体ごとの許可にはなっていません。このことから頭数の増減の届出がおざなりになるのではないかと想像します。30日以内を守っていない事例は他にもありました。
個体ごとの許可にしなくても届出すればいいではないかという意見もあるかもしれませんが、1枚の届出書で複数の出入りを届出する場合もあり、届出書だけでは個体の動向がよくわからない欠点があります。(注:湘南動物は、エクセルの表を添付していたので動向はわかりました)
また、特定動物の無許可飼育等には罰則がありますが、人身事故を起こしたり逃がしたりさせても、業に対するペナルティはありません。食中毒でも営業停止になるのに、特定動物で重大な人身事故を起こしても営業停止にすることはできません。業の取消ともリンクしていません。
ここを改め、事故を起こさせないインセンティブを持たせる必要があるのではないかと考えています。
私たちの集めている動物愛護法改正署名では、特定動物の、いわゆる「愛玩」飼養(「ペット」飼育)の禁止を掲げています(現在飼育しているものについては一代限りとする)。
これが実現すれば、飼育するのは主に展示業者になりますから、それを前提とした、よりきめの細かい規制の整備を行う必要があると思います。〔⇒追記:2019年の法改正で実現しました! 詳しくはこちらをご覧ください。〕
◇参考:印旛健康福祉センターに質問した内容と回答
先日、湘南動物プロダクションのライオンについて情報公開請求をした者です。遅くなってしまいましたが、いくつか疑問点があり、以下の点についてご回答をいただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。
問1 お見込みのとおり、2005年からの分をまとめて受理しました。
問2 繁殖制限のため、2014年から雄雌を分けて飼養していることから、記載漏れではないと判断しています。
問3 今年1月の従業員がライオンに咬まれた事故について、報告書が開示されていますが、内容が途中で切れており、中途半端に終わっています。
(1) 個体台帳や管理記録について、確認は行ったのでしょうか? 平成29年1月31日に問1の増減届が出ていますが、これは増減届が出されていなかった法令違反について指導を行ったことにより、提出が行われたものでしょうか? そのあたりの経緯がわかる報告の記録がありませんが、最終的にどうなっていますか?
(2) また、ケガの状況についても、「病状不明」で終わっています。最終的にどの程度のケガであったのかは把握しているのでしょうか?
問3 (1) 個体管理台帳及び管理記録を確認しています。
増減届については、事故後の指導により提出されたものです。
最終的に文書を徴収したのが開示請求後であったため、開示した文書には含まれていません。
(2)怪我の程度についてはまだ把握していません。
問4 始末書、条例に基づく侵害発生届及び改善報告書を徴収しました。
問5 第一種動物取扱業者の遵守基準(法第二十一条第一項の環境省令で定める基準)として施行規則に挙げられているものに、「一 販売業者にあっては、離乳等を終えて、成体が食べる餌と同様の餌を自力で食べることができるようになった動物(哺乳類に属する動物に限る。)を販売に供すること。」という項がありますが、湘南動物プロダクションが提出している増減届を見ると、5月24日に生まれて6月25日に販売されている子ライオンがおり、明らかに離乳前です。これは、法令違反に当たるのではないでしょうか。法第二十一条第一項違反は勧告・命令の対象となっていますから、厳しい対応をお願いしたいのですが、ご見解を教えてください。
このように生まれて1~2か月程度で親から引き離されて売られたライオンの子たちがふれあいや写真撮影などの不適切な行為に使われていることは間違いないであろうと思います。また、これらのライオンの最終的な行き先はどのようなところかと、心を痛めます。
生後1カ月での引き離しというのは、同じネコ科のイエネコで定められている日齢規制よりも早く親から引き離されていることになりますから、不適切であるのは間違いないのではないでしょうか。
問5 湘南動物には常駐の獣医師がいないことから、離乳前であっても育児放棄された個体、健康不安がある個体を専門の獣医師が常駐する取引先等へ移動させるケースがあることを承知しています。
離乳前の移動が延命・治療目的であることから、実態として不適切ではないと判断しました。
動物プロダクションというのは普段から外部の人の目が入る場所ではないので、行政の監視が頼りです。お願いいたします。
以上、回答いたします。
引き続き、関係法令に基づき監視、指導を行っていきたいと考えております。
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