中国では、昨年、動物実験用の繁殖施設へ向けてカニクイザル2735匹がベトナムから密輸されていたと報じられ、PEACEのブログでもこのことをご紹介しました。(こちら)
この事件では主謀者の呼び名は「阿六」と報じられており、広西チワン族自治区人民検察院の扱いとされていました。その後どうなったかを調べたところ、中国最高人民検察院のサイトで起訴状が2つ公開されていました。
- 广西壮族自治区防城港市人民检察院 起诉书 防检刑诉〔2019〕110号 2019年9月30日付け(サイト公開は2019年12月24日)
- 广西壮族自治区防城港市人民检察院 起诉书 防检刑诉〔2019〕74号 2019年7月31日付け(サイト公開は2019年12月18日)
110号が「阿六」(本名は沈其友)の起訴状で、74号が「阿六」に雇われて運転をした陳正清の起訴状です。ともに内容が一部、伏字になっています。
報道ではベトナムから密輸したサルの運び先は広西省梧州市の「某」実験動物繁殖会社としか書かれていませんでしたが、起訴状では「梧州市**有限公司」と伏字となっています。ただし、「以下、桂東**司と略す」と補足されているので、これらの点は、日本に実験用のサルを輸出することができる施設として農林水産大臣が指定している「広西桂東霊長類開発実験有限公司」の名称と一致します。
逆に「広西桂東霊長類開発実験有限公司」で調べると、同じく中国最高人民検察院のサイトに記載がありました。以下、和訳です。
防城市人民検察院 方子豪・曾大権ら5人を貴重動物密輸の罪で法に基づき起訴先日、防城港市人民検察院は、貴重な動物を密輸した罪で、方子豪、曾大権ら5人を法に基づき起訴した。調査の結果、方子豪は人に雇われ、厳煥栄、黄吉演、曾大権、黄吉柱らと幾度もグループを組み、ベトナムから密輸したカニクイザルを梧州市の広西桂東霊長類開発実験有限公司まで運び、合計643匹のカニクイザルを密輸した。
出典:防城港市人民检察院依法对方子豪、曾大权等5人走私珍贵动物案提起公诉(サイト公開は2019年12月12日)
2735匹の事件の「阿六」の起訴状に、「方なにがし」(名字だけ書かれ、名前は伏せられている)に雇われカニクイザルをたびたび密輸したこと、共犯者に「黄なにがし」が2名と「曾なにがし」がいることが書かれており、これらの関係者の件が別件として対応されていることが書かれているので、「阿六」の事件と関係すると見て間違いないでしょう。
つまり、動物実験のためにベトナムからの密輸のカニクイザルを集めていたのは、「広西桂東霊長類開発実験有限公司」で確定です。
起訴状は、2018年7月24日にサル輸送中に現行犯で警察に見つかり、摘発された事件(「阿六」の起訴状ではサル268匹、陳が警察に見つかって乗り捨てた車には70匹)についてのものですが、報道では、たびたび密輸を繰り返していたことが報じられています。
そして、それらのサルを平然と動物実験用として製薬会社等に販売していたのが「広西桂東霊長類開発実験有限公司」。
極めて悪質です。
日本へサルを輸入することのできる海外の施設については、日本の農林水産省が指定を行っていますが、その中に「広西桂東霊長類開発実験有限公司」が含まれています。(リストはこちら)
この指定は、感染症防止の観点からの規制によるものなので、ワシントン条約や希少種に関する中国の法令を守っているかどうかは無関係と農林水産省は言うでしょう。
しかし、農林水産省が指定する施設が、違法取引によって実験動物を集めていてよいのか。感染症についても、懸念を持ちます。
東南アジアで密猟によって集められた野生のカニクイザルが、中国を経由して世界中の研究機関に送られていることが以前から指摘されていましたが、事実でした。
日本で誰かが、この会社からサルを輸入していたからリストに名前が載っています。
違法捕獲と密輸を経て、野生のカニクイザル、もしくはその子孫が日本にも輸入され、製薬会社か大学の実験で使われていたと見て間違いないでしょう。同社の取扱数は多くないようで、密輸個体の比率が高そうにも思います。繁殖自体が虚偽である可能性もありますが、妊娠中のメスが密猟で捕獲され飼育下で出産することはあります。日本の過去の実験用違法捕獲ニホンザルで起きていました。
動物実験の裏には、こうした汚い世界が未だにあります。
PEACEでは、農林水産省及びワシントン条約の管理当局である経済産業省に情報提供を行うつもりですが、どうか皆さん、この事実を広めてください。
▼Google map 施設上空写真
追記
中国の動物実験施設への野生カニクイザルの密輸に関しては、中国の霊長類を使った動物実験について報告する2007年のCell誌の論考でも報告されていました。今回の摘発によく似ています。この事件の後も10年以上、変わらずに密輸され続けていたのだろうと想像させます。
Monkey Research in China: Developing a Natural Resource Xin Hao, CELL, VOLUME 129, ISSUE 6, P1033-1036, JUNE 15, 2007
https://doi.org/10.1016/j.cell.2007.05.051https://doi.org/10.1016/j.cell.2007.05.051
参考記事
▲中国の報道の動画中国でカニクイザル2735匹のベトナムからの密輸の摘発がありました。これまでで最大規模だそうです。主犯が捕まり、サルたちの行き先は広西梧州市の動物実験用にカニクイザルを繁殖する会社だったことが明らかにな[…]
アメリカから驚くべきニュースが入ってきました!11月16日、カンボジア政府の野生生物保護の担当職員が、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で身柄拘束され、なんと容疑は実験用カニクイザルの密輸等だというのです!これまで長[…]
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