先日、海外の団体が日本の獣医学教育における犬を用いた実習の廃止を求めてリリースを公表していました。
そこになぜか「カリキュラムの一部として犬を使用している大学は、日本獣医生命科学大学、北里大学、日本大学、東京大学、岐阜大学、麻布大学である」と書かれていたのですが、実際にはそのほかの大学の獣医学部・学科の教育課程でも全て、犬を用いた実習は行われています。(国公立大学は下記一覧参照、私立はほかに酪農学園大学)
国公立大学については、ちょうど昨年情報公開請求を行って入手した実習の動物実験計画書が手元にありますので、とりいそぎ犬を用いるものについて全てアップしてみました。下記のリストをご参照ください。(注:私立大学は開示請求できません)
注意していただきたいのは、他の動物もたくさん使われていることと、全ての実習について計画書が出されているわけではないと思われることです。
実習について動物実験計画書を出していない教員がいるために、提出するよう動物実験委員会が呼びかけていた記録が残っている大学もありましたし、国立大学実験動物施設協議会(国動協)が機関規程のひな型に学生の実習を追加したのは、昨年(2016年)2月のことなので、他大でも出されていないような状況はあるかもしれず、ここに載っているものが全てではない可能性もあることにご留意ください。
また、研究室での研究、もしくは研究に一部の学部生が加わっていると思われるものなどは除外しました。
ほか、一部確認中の事項もあり、わかり次第更新していきます。
ちなみに日本の獣医学教育については、昔から、臨床実習で実際の患畜(飼い主が動物病院に連れてくる動物)に接する経験が圧倒的に不足していることが指摘されてきていますが、生きた健康な犬を実習で犠牲にしている背景には、そういった問題も存在します。
臨床実習以外には、海外でも安楽死されたレース犬の死体を利用したりということが行われているそうですが、ほかにもアニマルシェルターでの不妊去勢手術を実習としたり、一般の飼い主から献体を受けたりといった方法もとられています。マネキン、シミュレーターなどの併用も一つの方法です。
以下の実験計画書の中には、記述が非常に簡素で苦痛の除去に関する詳細が不明なまま承認されている大学もあり、一概に実習内容の比較はできませんが、ほかの実習で致死処分された犬の死体を解剖実習に使うといったこともされていることなどがわかります。
日本でも生きた健康な犬の犠牲を減らし、なくしていくための工夫が、今後ますます求められていくことになるでしょう。
:致死処分を伴う実習(実習の最初もしくは最後に犬を致死処分)
:致死的でない実習(ただし、ほかの実習に回すことが書かれている場合は注釈をつけた)
:以下、全てリンク先はPDFファイルが開きます。
北海道大学
※外科実習を毎年実施しているが計画書がなかったため問い合せ中。
※安楽死を行わない獣医内科学実習および獣医臨床診断学実習で用いた犬を外科実習に用い、その死体を冷凍保存して解剖学実習に使うとのこと。
帯広畜産大
- 獣医外科学実習
- 解剖学実習・組織学実習 家畜解剖整理学実習
- 獣医内科学実習Ⅰ・Ⅱおよび臨床診断学実習、
獣医内科学実習および臨床診断学実習、
内科学的な臨床手技の習得 - 授業(総合臨床学実習Ⅲ)ならびに供血
- 帯広基礎獣医学演習における臨床実習(伴侶動物担当分)⇒但し外科実習へ
- 獣医放射線学実習
岩手大学
※実習について計画書が出ていなかった件についてはこちらをご覧ください。
東京大学
東京農工大学
※以下は卒後
- 臨床検査学実習⇒但し実験動物学実習などへ
- 獣医師の卒後再教育プログラム アドバンス イン 農工⇒但し学生実習やシャンプーの開発実験へ
岐阜大学
※下記以外に、平成28年度より「獣医生化学実習」、「獣医内科学実習」を犬を用いて実施。
※2016年3月、「屋外の犬舎での犬の飼育は現在も行っています」との回答。犬だけではなく応用生物科学部全体に施設に問題があり、内部で改善要望が出されている。順次予算請求し対応中とのことで、現時点でも一部しか対応されていない状況。改善要望全文はこちら。2回の質問に対し、犬舎は2017年3月中に新屋内施設が完成予定との回答。
※計画書は3年間有効。詳細についてはこちら。
大阪府立大学
- 外科臨床実習
- イヌ解剖学実習
- 診断治療学実習(H27より獣医麻酔・手術学実習に名称変更)
- 獣医内科学実習⇒但し獣医解剖学実習へ
- 細胞病態学実習⇒但し獣医解剖学実習へ
- 獣医麻酔・手術学実習⇒但し整形外科実習へ
- 診断治療学実習Part1(藤本担当部分)⇒但し整形外科実習へ
鳥取大学
- 獣医臨床検査学実習
- 獣医薬理学・毒性学実習
- 4年生外科学実習⇒但しほかの実験にも使用、10年を目安に里親に
宮崎大学
※計画書に致死処分に関する欄・記述がないため、厳密には致死的・非致死的の判断つかなかったが、それは更新用の申請書だからとの回答。詳細は、新規時の計画書を追加で開示請求中したので、各「新規時の計画書」を参照のこと。
※更新は6年間可能とのことだが、書類は5年で廃棄。すでにもともとの計画書がたどれない実習が犬以外で存在した。詳細はこちら。
- 獣医外科学実習Ⅰ、Ⅱ(継続)(3年分)⇒新規時の計画書 ただし、処置後、重度の感染症や重篤な疾患を併発し、獣医学的看護にもかかわらず予後不良と判定した場合には安楽死を行う
- 獣医内科学実習Ⅰ(継続)(3年分)⇒新規時の計画書
- 放射線学実習(継続)(3年分)⇒新規時の計画書
- 獣医臨床繁殖学実習(継続)(3年分)⇒新規時の計画書
山口大学
※下記以外に、解剖学、外科学、内科学における学生実習でイヌを用いた実習を行っている。
※鹿児島大学との共同獣医学部だが、現在は山口大学の学生が鹿児島大学へ行って実習することはない。今後、そのようなことが生じれば、鹿児島大学で審査を行うことになるとのこと。回答詳細はこちら。
鹿児島大学
※山口大学との共同獣医学部。学生が山口大へ行って実習を行うこともあり、その場合は山口大で審査する。その他詳細は大学からの回答をご参照ください。
- 獣医外科実習(不適切な管理により回復が困難な状況が予想される場合に致死処分あり)