アメリカ:エンヴィーゴ社の実験犬繁殖施設封鎖、バージニア州は実験目的での犬猫の販売について法改正

有名な実験動物生産会社の犬繁殖施設が封鎖され、ビーグル4000匹が解放される

2021年、バージニア州カンバーランドにあった実験動物生産会社大手エンヴィーゴの実験犬繁殖施設の劣悪さがPETAによって暴露され、翌2022年5月、いよいよ捜索令状により、健康状態に問題のある150匹近くのビーグル犬が押収される事件に発展しました。

エンヴィーゴのこの施設は、もともとは悪名高いコーヴァンスのビーグル犬繁殖施設でした。さらにさかのぼれば、コーヴァンスは、残酷な犬の扱いが暴露されたことで激しい動物実験反対運動を引き起こしたハンティントンライフサイエンスと別の実験動物生産会社が合併してできた会社でした。(詳しくは過去記事参照)

その後コーヴァンスの実験動物販売部門はエンヴィーゴに買収され、さらにそのエンヴィーゴは創薬・開発業務受託会社であるイノティブ(Inotiv)に買収され、傘下に入っていました。

2021年11月5日、イノティブは、完全所有子会社をEnvigoに合併することにより、Envigo RMS Holding Corp. の買収を完了。

この繁殖施設は、日本に犬を輸出する際、検疫の特例を受けられる施設として日本の農林水産省の指定を受けているので、この施設から動物実験用の犬が日本に輸入されていたことは間違いありません。

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日本に動物実験用の犬と猫を輸出している生産施設の一覧を修正したことをこちらのページで報告しましたが、農林水産省が公表しているリストに古いと思われる施設が掲載されていたため、削除したほうがよいのではないかと情報提供したところ、回答がありました[…]

裁判所がエンヴィーゴに対し実験用の犬の繁殖と販売を一時的に差し止める仮処分をしたのち、去年6 月、エンヴィーゴの親会社であるイノティブはこの施設を閉鎖することを公表しました。さらに7月には裁判所が連邦動物福祉法(AWA)に基づくライセンスを必要とするあらゆる活動(実験用の犬の繁殖や飼育、販売など)を永久に禁じる決定をしました。

日本にも犬を輸出してきた有名施設がこうして一つなくなったことに驚きを感じつつ、4千匹のビーグル犬がここから救われ、新たに家庭に迎えられたことに深く感銘を受けました。アメリカの動物保護団体の底力を感じました。

犬の繁殖場で起きていたこと

PETAの告発は、 生きているきょうだいや母親のあいだで350 匹以上の仔犬が死んでいるのを目撃したという衝撃的なものでした。

PETA Exposés and Undercover Investigations

Beagle dogs and puppies are confined to barren kennels and c…

この施設では、犬にはベッドもおもちゃも刺激もありません。何百頭もの犬が一斉に吠えると、ほかに何も聞こえなくなるほど騒がしい環境でした。母犬たちはコンクリートの硬い床で出産し、一部の仔犬は、ケージの穴から排水溝に落ち、びしょぬれになり、排泄物などで覆われ、生き残ることができませんでした。

狭いケージの中で母親にうっかり押しつぶされて死んだ仔犬もいれば、水頭症で苦しむ仔犬、内臓が出てしまっている仔犬、過酷な環境に耐えられなかった仔犬もいました。

意識がある状態で(麻酔をかけずに)心筋に注射する殺処分が行われていましたが、これは安楽死に関する獣医会のガイドラインに反しています。

掃除は高圧ホースで水を吹きかけるので、犬たちはずぶぬれで過ごすことになります。水がかかるので、食べものにカビや腐敗が生じ、蛆がわいていることもあったそうです。

犬が病気になったりケガをしたりすると、素人の労働者が犬を診断して治療していました。獣医師ではなく、実験動物技術者でさえない労働者が、仔犬の目から脱出した組織を切り取り、犬の脱出した陰茎を縫合し、鎮静剤を塗った犬の腹部を切って仔犬を取り出しました。従業員は、死因を特定するために、仔犬の遺体を切り開いて「剖検」を行うことすら期待されていました。

出荷前の、仔犬と過ごす最後の48時間、授乳中の母犬を意図的に絶食させていました。農務省の査察官が最後の日まで犬に食事を与えるように指示しましたが、 施設の監督者はこれを拒否し続けました。

2021年7月以降、農務省はこの施設に対し4回の査察を実施、70以上の福祉違反を記録しています。査察レポートなどは、PETAのこのページから見ることができます。

PETA Exposés and Undercover Investigations

The USDA has cited Envigo for more than 70 violations of the…

この事件については日本語でもいくつか報道がありましたので、ぜひお読みください。忘れてほしくないのは、アメリカには動物実験実験施設や実験動物生産会社に農務省動植物検疫局(USDA-APHIS)が立ち入りをする権限などを定めた動物福祉法があり、実際に司法が動くこともあるが、日本にはそのようなことができる法令は一切ないことです。

米国にある実験動物の繁殖用施設で、数百匹のビーグル犬が死亡していた。実態を把握しながら、対策を講じなかった米農務省の対応…

東洋経済オンライン

裁判文書によると、アメリカ農務省の職員が昨年、バージニア州のビーグル繁殖施設を視察した際に、メスのビーグルが粗末なフロー…

CNN.co.jp

米動物保護団体HSUSは、バージニア州カンバーランドにあるエンビーゴ社の研究施設で飼育されていたビーグル犬4000匹を、…

カラパイア

アメリカで最大規模とも言える犬の救出活動が行われた。科学実験の為に繁殖施設にいた4000匹のビーグルは、飼育放棄され、病…

カラパイア

劣悪な環境で実験動物として飼育されていた4000匹のビーグルが保護された後、犬たちはどうなっているのか?人間との暮らしに…

日本の農林水産省の対応は?

前述したとおり、日本の農水省は、このエンヴィーゴの施設を検疫の特例を受けられる施設に指定しています。検疫は感染症が入ってくることを防ぐのが目的ではありますが、動物の扱いが悪く健康状態が悪化していれば感染症も出やすくなりますし、無関係とは思えません。

農水省に対し、この施設が既に封鎖されたことを情報提供するとともに、指定に際し動物の管理や状態についての現地確認はしないのかを質問しました。

農林水産省動物検疫所 企画管理部企画調整課 からの回答(2022年8月15日)

日頃より動物検疫に御理解と御協力ありがとうございます。
農林水産大臣が指定する試験研究用の犬及び猫の生産施設であるエンビゴ アールエムエス社につきまして、貴重な情報提供ありがとうございます。

東様よりご提供いただいた情報をもとに事実確認をさせていただきます。

また、お尋ねの犬猫の生産施設指定に当たっての評価方法につきましては、「犬等の輸出入検疫規則第4条第1項の表輸入の項第1号の農林水産大臣の定める方法等」(平成16年農林水産省告示第1819号)において、農林水産大臣が定める施設基準を設けております。輸出国政府当局からの施設指定要請を受け、当基準に従いまして、動物検疫の観点から現地調査を行った上で施設指定手続を行っております。

電話でも確認しましたが、現地調査では動物が劣悪に飼育されていないかというところももちろん見るが、基本的には、指定時に現地調査に行ったあとは、通報などがないと再度検査することはないようでした。エンヴィーゴの施設についても、この問題が発覚した後に確認に行ったりはしていないとのことでした。

今回はアメリカ側で施設封鎖に至りましたが、もし問題が長引いたとき、日本政府はどう対応するでしょうか。気になったことではありました。

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犬と猫の輸入は検疫の対象ですが、試験研究用(動物実験用)の場合には特例が定められており、農林水産省が指定する施設からの輸入であって一定条件を満たしている場合には、180日以内の係留検査が不要となり、輸入時の係留期間を12時間以内におさめるこ[…]

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バージニア州は実験目的の犬猫の販売について州法を改正

このエンヴィーゴの犬繁殖場の惨状が伝えられたのち、バージニア州では、実験目的での犬・猫の販売を禁止する州法に知事が署名したとの報道がありました。

なんと素晴らしい!と思い、リリースや法案を確認しましたが、残念ながら完全禁止ではなく、少なくとも過去2年間のあいだに1回でも直接的もしくは重大な連邦動物福祉法違反を指摘された者もしくは間接的または重大ではない違反を3回以上指摘された者、または施設への立ち入りを2回連続でできなかった者は、犬猫の販売目的の輸入、販売、売り出し(販売の提案をすること)を禁じられるという内容でした。これまで、犬の繁殖・販売にかかっていた規制を、猫および実験目的にも広げる改正でした。

販売禁止に関しては、今年7月1日以降に受けた出頭要請から適用されます。

翻訳

〔 〕内は訳注

緊急プレスリリース:2022年4月4日

グレン・ヤンキン知事、実験目的で飼育・販売される犬や猫に対する
動物福祉改革を支援する法案に署名

2022年4月4日(月)、知事公館前で、実験目的の犬や猫の販売を禁止する法案に署名するグレン・ヤンキン知事

バージニア州リッチモンド ー グレン・ヤンキン知事は本日、ロバート・B・ベル州議会下院議員が提出したHB1350に署名した。さらに知事は、ウィリアム・M・スタンレー州議会上院議員が提出したSB87、SB88、SB90、SB604に署名し、実験目的で飼育・販売される犬や猫の動物福祉改革を支援した。

グレン・ヤンキン知事は、「4本足の有権者を守るために、共和党と民主党がひとつとなり、本日の目覚ましい成果につながった」と語っている。「きょう私が署名したこの歴史的な一連の法案は、実験目的で繁殖・販売された犬や猫がバージニア州の動物虐待防止法によって保護されることを明確にし、福祉基準の確保と命の救済に役立ち、福祉違反が起きたときにバージニア州が措置を講じる権限を与えるものだ」とも述べた。

「ビーグル法案」の詳細

HB 1350 & SB 87:販売業者;実験目的で犬や猫を販売することを禁止。
包括的動物ケア法(Va. Code § 3.2-6500 及び以下の項目)を改正し、猫および猫の繁殖者も対象とする。現在の法案では、犬や犬の繁殖者のみが具体的に記載されている。また、「販売業者」「商業目的の犬又は猫繁殖者」には、連邦法で研究動物として規制されている犬や猫を繁殖させるあらゆる個人または団体が含まれることを明確にしている。これは、繁殖者や「販売業者」に適用される抜け道を塞いで、特定の連邦動物福祉法(AWA)違反のある者が繁殖した犬や猫の輸入・販売を禁止することを目的としたものである。

現在、米国農務省から一定数のAWA勧告〔citation:出頭要請〕を受けている場合は、この州では犬の販売業者や商業目的の犬繁殖者にはなれないことになっている。「実験目的の販売を含む」という文言も追加され、実験目的で犬や猫を販売する繁殖者や販売業者が使用できる抜け道がふさがれた。

この法案には制定条項が含まれており、2023年7月1日以前に受けた違反勧告には、これらの動物ケア法の改正は適用されないとされている。

SB 88:犬猫の繁殖者;動物実験施設に売却または譲渡された動物の記録。
実験目的の犬や猫の繁殖者は、販売や譲渡の日から2年間、それぞれの動物について記録を残すことを義務づけられている。この法案はまた、これらの記録の四半期ごとの要約を州獣医に提供することを義務づけており、要求に応じ、バージニア州農業消費者サービス局、動物管理事務所、および司法機関もこれを手に入れることができる。

SB 90:動物実験施設用の犬や猫の繁殖者;犬や猫の養子縁組〔一般家庭への譲渡〕契約。
動物実験施設に販売したり移したりされる犬及び猫に対して、もはや犬及び猫を保有する必要がなくなった場合には、その動物を安楽死させる前に、一般譲渡に出すことを義務づける州法の包括的動物ケア条項に繁殖者を追加する。現在は、動物実験施設のみが対象となっている。

SB 604:動物虐待;コンパニオン・アニマル〔伴侶動物〕、罰則。
包括的動物ケア法の条項におけるコンパニオンアニマルの定義を改正し、連邦法で「実験動物」として規制されているすべての動物を対象から外す現在の文言から、今まさに真正の科学実験または医学実験に使われている動物のみを対象から外す、より具体的な文言に変更する。この法案の意図は、実験目的の動物を販売する繁殖者が所持する犬や猫が、バージニア州の動物虐待防止法によって保護されることを明確にすることにある。

原文:Governor of Virginia, “Governor Glenn Youngkin Signs Legislation To Support Animal Welfare Reform for Dogs or Cats Bred and Sold for Experimental Purposes”

#エンビゴ #エンヴィゴ #エンビーゴ #ヴァージニア #イヌ #子犬

 

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