環境省は犬猫以外の動物の基準には手を付けないつもり!
今回の動物愛護法改正によって、第一種動物取扱業者に基準遵守義務を定める第二十一条に新たに第二項・第三項が追加され、どのような事項を基準に定めなければいけないかが具体的に規定されました。(条文はこちら)
第三項に「犬猫は具体的に」とは書かれているものの、第二項に具体的項目が挙げられたのですから、犬猫以外の動物についても飼育基準が改善されると考えられていました。第二十一条は第二種にも準用されるため、動物取扱業者全般に対し、基準が強化されることになるはずでした。
しかし、犬猫の基準案がつくられた現段階で、環境省は、犬猫以外の動物種について手を付けないつもりであることがわかりました!
犬猫以外の動物については、現在の施行規則や細目をそのまま横滑りさせて、新しい省令に書き込むだけにするというのです。
犬猫の飼育基準案をとりまとめた「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」は法改正以前から進んでおり、平成30年に行われている第1回、第2回の検討会では、爬虫類や様々な動物種について議論がなされていますが、確かに、犬猫を先に検討する流れになっていってはいました。
しかし、このことは、施行までに犬猫以外の動物を検討しないということが決まったことを意味しておらず、実際そのような議事録は残っていません。犬猫の次に検討すると環境省は言っていました。
施行までに基準を改正しなければ、犬猫以外の動物を扱う事業者に対しては、何ら法改正がなされなかったのと同じになってしまいます。
確かに検討会では検討されなかったものの、これまでの政省令等改正では、部会での検討だけで改正が行われたこともあります。
私たちは、法改正で決められた内容を守る義務が環境省にはあると考えます。
(基準遵守義務)
第二十一条 第一種動物取扱業者は、動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため、その取り扱う動物の管理の方法等に関し環境省令で定める基準を遵守しなければならない。
2 前項の基準は、動物の愛護及び適正な飼養の観点を踏まえつつ、動物の種類、習性、出生後経過した期間等を考慮して、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 飼養施設の管理、飼養施設に備える設備の構造及び規模並びに当該設備の管理に関する事項
二 動物の飼養又は保管に従事する従業者の員数に関する事項
三 動物の飼養又は保管をする環境の管理に関する事項
四 動物の疾病等に係る措置に関する事項
五 動物の展示又は輸送の方法に関する事項
六 動物を繁殖の用に供することができる回数、繁殖の用に供することができる動物の選定その他の動物の繁殖の方法に関する事項
七 その他動物の愛護及び適正な飼養に関し必要な事項
3 犬猫等販売業者に係る第一項の基準は、できる限り具体的なものでなければならない。
変わらないとどうなる?
守るべき基準が今のままで変わらないことは、販売業や繁殖業だけでなく、動物園や水族館などの展示業も変わらないということを意味しています。
現在動物取扱業者が守るべき基準は、「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」や「第一種動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」で規定されていますが、これが変わらないということになれば、たとえば、以下のようなことが全く変わらないということです。(ほんの一例です!)
- カワウソは水中で泳ぐ習性を持つが、実際にはカワウソカフェなどでは泳げるような水がない状態で飼育されている。それが変わらない。
- 猛禽類は飛ぶ習性を持っているが、実際にはフクロウ等はフクロウカフェにおいて、ほとんどの場合飛ぶことができないし、歩き回ることもできない。短いリューシュに常時繋がれている。休憩中や夜間も拘束されたままであり、行動の自由がない。これも変わらない。
- 正直、どの販売業者においても、動物が運動できるスペースを確保しているということはほぼ無いが、そのままになる。運動ができないということは健康をじわじわとそこなっていくという状態が改善できない。
- 犬猫以外の動物は金網の床でも問題ないとされてしまう。
念のために付け加えると、「展示動物の飼養及び保管に関する基準」は努力義務でしかなく、動物取扱業とリンクしている施行規則や細目のほうが強い規制力を持っています。
特に飼養施設については、現在、「第一種動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」には、以下のように規定されています。
(設備の構造及び規模)
第3条 飼養施設に備える設備の構造、規模等は、次に掲げるとおりとする。
一 ケージ等は、個々の動物が自然な姿勢で立ち上がる、横たわる、羽ばたく等の日常的な動作を容易に行うための十分な広さ及び空間を有するものとすること。
また、飼養期間が長期間にわたる場合にあっては、必要に応じて、走る、登る、泳ぐ、飛ぶ等の運動ができるように、より一層の広さ及び空間を有するものとすること。
ただし、傷病動物の飼養若しくは保管をし、又は動物を一時的に保管する等特別な事情がある場合にあっては、この限りでない。
自治体に、羽を広げられないペットショップについて指導を依頼しても、羽を伸ばせなくても羽を動かせるなら良いと言うかのように指導せずに帰ってきてしまいます。「長期間」が具体的に示されていないために、年単位で拘束されて飛べずにいる鳥たちがたくさんいます。また、鳥にとって、羽を広げられるだけの広さしかないことは不適切です。
日常的な動作を容易に行う事ができなくてはならないのに、泳ぐことも飛ぶことも体を伸ばすこともできない状態が横行しています。
施設の問題以外にも、感染症が蔓延したまま鳥を売っている繁殖施設、過剰に産ませては売れ残りを殺しているという猛禽の繁殖施設(千数百羽いるらしい)、長く伸びた爪が巻いた状態になっているウサギの繁殖施設…… これらの状況を改善しなくてよいとするのはどういうことなのでしょうか。
狭く不衛生な状態が長年続いていて、なかなか改善されない堀井動物園を、現在の業の基準違反では取消しにできませんでした。基準がないからというのが理由でした。(取消しにできたのは、特定動物の違法飼育があったからです。)
何十回と立入り指導が繰り返された東京都のペットショップも、犬猫販売業が停止になっただけで、小鳥等の取扱いは以後も変わらず継続されていました。
環境省が犬猫の基準のみ具体化して、犬猫以外の動物の基準を強化しないということは、このような状態の継続を許してしまいます。
せめて、犬猫で強化される点は、犬猫以外の動物にも拡大を!
変えたいのはここ
当初、検討会では犬猫しか検討していないので、犬猫以外について環境省が勝手に大きな改正を行うことはできないと言われたため、私たち3団体では現行の「第一種動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」と「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」について、犬猫の基準案に合わせた微修正を主とした改正案を提案しています。
犬猫以外の動物は、哺乳類から爬虫類まで多岐にわたるため、種ごとの詳細な基準は、確かに別途今後専門的な検討が必要でしょう。
時間がないのは事実であるため、これらの改正要望は、犬猫基準案をベースに考えた定性的な表現になっています。また、現行の展示動物の飼養保管基準に既に入っているものを、一部、義務化してほしいと要望しています。ほか、これまで要望してきた点をいくつか加えました。
現行基準で機能しなかった原因を潰していったものでもあり、部会での検討を経れば実現可能なものです。条項に合わせて箇条書きにします。
一 飼養施設の管理、飼養施設に備える設備の構造及び規模並びに当該設備の管理に関する事項
- 「ケージ等」を「寝床、休息場等」に変更し、「運動スペース等(動物を運動させるためのスペースをいう。イと一体型である施設を除く。以下同じ。)」を追加する。
- 「動物が正常な行動をとるための設備」を追加する
- 「飼養期間が長期間にわたる場合」は「飼養期間が24時間以上にわたる場合」とする。
- 「個々の動物が自然な姿勢で立ち上がる、横たわる、羽ばたく等の日常的な動作」は「個々の動物が自然な姿勢で立ち上がる、横たわる、回転する、飛ぶ、飛び跳ねる、全身を伸ばす等の日常的な動作」とする。
- 「必要に応じて、走る、登る、泳ぐ、飛ぶ等の運動ができるように」は「個々の動物の種類、習性に応じて、走る、登る、泳ぐ、飛ぶ等の運動ができるように」とする。」
- 「地面を掘る、止まり木に止まる、爪とぎをする、砂浴びをする、水浴びをする、泥浴びをする、探索する、社会性を発揮する等の正常な行動をとるための設備等を有するものとすること。また、これらの運動スペース及び設備等については、日常的に動物の利用に供させること。」を追加。
- 「常時飲水可能な状態」にすることを追加。
- 「動物が直接接する床には、動物の脚等に負担をかけることのない、及び不快感を与えることのない素材を用いるものとし、金網の使用を禁止する。」を追加。
- 「習性に応じて排せつ用のスペースを設ける」を追加。
- 「適切な出産及び営巣の場所の確保等必要な条件を整えること」を追加。
二 動物の飼養又は保管に従事する従業者の員数に関する事項
- 「動物の飼養又は保管に従事する従業者の員数は、8時間労働を標準とし、1頭当たりの飼養管理に要する平均的な作業時間を想定し、1人当たりが管理できる頭数を算出した上で、動物の飼養又は保管に従事する従業者の員数の上限を割り出し、飼育頭数を見合ったものとすること。上限の飼育頭数は、犬猫の規定を指標とする。」を追加。
三 動物の飼養又は保管をする環境の管理に関する事項
- 「定期的に清掃」は、「1日1回以上清掃」とする。
- 「ケージ等」は「寝床、休息場等」とする。
- 「飼養施設の開口部を適切に管理」は、「飼養施設及び開口部を適切に管理」とする。
- 「動物種に応じ、著しく暑い、寒い、日照が不足している、乾燥している等の状態を防ぐため、空調、保温器具、ライト、ミスト等、環境管理を行うための設備を用いるものとする。」を追加。
- 温度計、湿度計等の計測器具の義務化や帳簿管理ができる事務所の設置
- 「犬又は猫」は「動物」とする
- 「群れ等を形成する動物については、社会性を発揮できるよう、その規模、年齢構成、性比等を考慮し、複数で飼養及び保管すること。」を追加。
- 「捕食動物とその被食動物を組み合わせることを避けること」を追加。
- 「野生由来の動物を業に供する場合」は、「家畜化されていない野生由来の動物を等に係る選定については、飼養及び保管が困難であること、譲渡しが難しく飼養及び保管の中止が容易でないこと、人に危害を加えるおそれのある種又は原産地において生息数が少なくなっている種が存在すること、逸走した場合は人への危害及び環境保全上の問題等が発生するおそれが大きいこと等から、その飼養については限定的であるべきことを勘案しつつ、慎重に検討すべきであること。」とする。
四 動物の疾病等に係る措置に関する事項
- 「高齢猫」は「高齢動物」とする。
- 定期的な獣医師の健康診断はすべての動物に対して行う。
- 輸送後2日間以上、状態の観察はすべての動物に対して義務付ける。とくに家畜種および野生種に関しては防疫の観点、人獣共通感染戦勝の観点から2週間の観察を義務付ける。
五 動物の展示又は輸送の方法に関する事項
- 「常時飲水可能な状態」にすることを追加。
- 「動物の生理、生態、習性等に配慮し、演芸、訓練等が過酷なものとならないようにすること。」は、「動物の生理、生態、習性等に反することがなく、演芸、訓練等が痛み、恐怖、及びストレスがかかるものとならないようにすること。」とする。
- 「正当な理由なしに顧客等に動物を接触させないこと。特に、野生種の動物を顧客と接触させることがないようにすること。」と記述を強化。
- 接触がやむを得ない場合は「顧客等に対して動物への接触方法及び動物の生理生態について指導するとともに、顧客と一対一の対応ができる従業員数を確保すること。また、常時飲水ができる状態を確保するものとし、接触が過度にならないよう、動物が休憩できる設備に自由に移動することが可能となる状態を確保すること。」とすること
- 展示動物の場合その生理、生態、習性等に合致した適正な飼養又は保管が行われていることを示すための表示を行うこと。
- 不必要な輸送が生じないようにすること。
- 輸送ルートの下調べをし、事前に輸送計画を立てること。
- 「一般人に誤解を与えるおそれのある食物や形態による与え方をさせないようにすること」を追加。
六 動物を繁殖の用に供することができる回数、繁殖の用に供することができる動物の選定その他の動物の繁殖の方法に関する事項
- 「ただし、希少な動物の保護増殖を行う場合にあってはこの限りでない。」を削除。
七 その他動物の愛護及び適正な飼養に関し必要な事項
方針は単純であり、以下のことを修正しているに過ぎず妥当であると考えています。
2. 妥当性がないものは妥当な記述へ
3. 悪いものを推奨してしまう記述を妥当な記述へ
4. 習性を反映する
5. 配置従業員数を法律通り規定
6. 犬又は猫とその他の動物の差別記述はなくす
7. 運用に必要なものは明記
8. 適正飼養の推進
犬猫と差が出る点については、こちらの記事も参照ください↓
参考:
- 第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令(仮称)を定めるにあたり、現行の「第一種動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」該当部分に関する改正要望案
- 第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令(仮称)等を定めるにあたり、現行の「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」該当箇所の改正要望案
環境省に意見を届けてください
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