2019年改正動物愛護法解説:引取りの拒否が所有者不明の犬猫にも
犬及び猫の引取り(第三十五条~):
所有者不明の犬猫の引取りを拒否できる場合等が規定されました
※下線が改正部分。
(犬及び猫の引取り)
第三十五条(略)
3 第一項本文及び前項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。
(犬及び猫の引取り)
第三十五条(略)
3 前二項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。この場合において、第一項ただし書中「犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして」とあるのは、「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合その他の」と読み替えるものとする。
所有者からの犬猫の引取り(いわゆる、飼えなくなった犬猫の保健所・センターへの持ち込み)に関しては、前回(2012年)の改正で自治体の引取り義務に但し書きがつき、一定の条件のもとで「拒否することができる」旨、改正されました。多くの自治体で当時既に拒否していた、営利目的で犬猫を飼養する事業者による行政サービスへの「ただ乗り」(無料もしくは格安での不要犬猫の処分)等、みだりな引取りを見直し、1件1件丁寧な検討と指導を伴うよう促すための改正でした。
しかし、所有者がいる犬猫ではなく、所有者がいないか不明である犬猫の引取りについては、前回の改正でも「引き取らなければならない」法律のままとなっていました。
屋外で放浪する犬については狂犬病予防法及び自治体の条例による捕獲があるので、これらの法令に従わなければなりませんが、屋外にいる所有者不明猫には飼い主がいる可能性がゼロではありません。所有権の問題があることを認識している自治体ではすでに、こういった猫の駆除目的の引取りはしていません。また、地域猫のように、所有者はいないけれども世話をしている人たちがいる場合もあります。
主に成猫について、所有者や世話をしている人がいる可能性を鑑み、所有者不明猫についてもケースバイケースの判断で引取り拒否できるよう、3団体では(JAVAさんを中心に)法改正を求め、実現しました。
しかし、議連骨子案の段階から「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合」の一文が入ってしまっており、これは私たちの改正を求める趣旨には反するので削除を要望していましたが、実現しませんでした。少しでも被害があれば邪魔だと保健所に持ち込まれていたのでは、殺処分が減らないだけでなく、所有者のいる外猫が殺処分に回る危険性を回避できません。
また、政省令の整備にあたり、引取りを拒否できる具体的な条件については、主要自治体で採用されている以下の3点を盛り込むよう、3団体では要望しました。
- 負傷や衰弱をしていない成猫であって、遺棄されていたことが明らかでない場合(=所有者・占有者がいる可能性のある)
- 負傷や衰弱をしていない子猫であって、遺棄されたことが明らかでなく、かつ母猫がいる可能性がある場合
- 排除・駆除する目的で持ち込まれた可能性がある場合
決議/附帯決議
衆参両院の決議/附帯決議には、以下のように書かれています。
施行規則改正
この改正に伴い施行規則が改正され、引取り拒否が認められる場合として下記が盛り込まれましたが、3団体の要望(上記参照)とはずいぶん違った形です。また、自治体に裁量をゆだねる形になっています。施行通知も参考ください。
動物の愛護及び管理に関する法律施行規則
(所有者の判明しない犬又は猫の引取りを求める相当の事由がないと認められる場合)
第二十一条の三 法第三十五条第三項において読み替えて準用する同条第一項ただし書の環境省令で定める場合は、次の各号のいずれかに該当する場合とする。
一 周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合
二 引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として都道府県等の条例、規則等に定める場合
また、改正施行規則公布と同時に公表された「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則の一部を改正する省令及び環境省関係告示の整備に関する告示について」には、概要として以下のように書かれています。
・周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合
・引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として都道府県等の条例、規則等に定める場合
を規定する。
施行通知
施行の直前、2020年5月28日付けで環境省から自治体に通知された「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律の施行について」(施行通知)では、以下のように説明されています。(この通知は、地方自治法に基づく、国から自治体への「技術的な助言」に相当します)
10 所有者不明の犬及び猫の引取りの取扱い(第35条関係)
法第35条第3項において、都道府県等(都道府県及び指定都市、地方自治法第252条の22第1項の中核市その他政令で定める市(特別区を含む。)をいう。以下同じ。)が所有者不明の犬猫の引取りをその拾得者等から求められたとき、引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、これを拒否できることとされた。
この規定は、所有者からの引取りだけでなく、所有者不明の犬猫についても、安易な引取りが殺処分数の増加につながる可能性があり、動物愛護の観点から望ましいとはいえないことから規定されたものであり、施行規則第21条の3において「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合」及び「引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として都道府県等の条例、規則等に定める場合」が引取拒否事由として規定された。
同条に定める「周辺の生活環境が損なわれる事態」とは、動物に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等である。各都道府県等は、必要に応じて条例、規則等を制定するとともに、同条の引取拒否事由や地域の実情を踏まえ、個別事案ごとに判断されたい。なお、法第35条第7項に基づく、犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について(平成18年1月環境省告示第26号)では、第1の3において、所有者不明の犬猫として引取りを求められた場合、周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがあると認められる場合のほか、動物の健康や安全を保持するために必要と認められる場合についても、引取りを行うこととされた。
また、所有者不明の犬猫の取扱いについて、第1の5において、所有者がいる可能性があることに十分留意して対応することとされた。都道府県等におかれては、これらも踏まえ、引取り以外の方法による生活環境被害の防止や引取後の個体の取扱いなどについて、地域の実情に応じて対応を考慮されたい。
通知
2020年7月28日に環境省自然環境局総務課長通知「所有者の判明しない犬又は猫の引取りの取扱い等について」が出されました。
2019年改正法の概要 目次
● 第一種動物取扱業による適正飼養等の促進等
- 登録拒否事由の追加により欠格要件が強化されました
- 環境省令で定める遵守基準を具体的に明示する条項が入りました
(飼養施設の構造・規模、環境の管理、繁殖の方法等) - 販売場所が事業所に限定されます
- 生後56日(8週)を経過しない犬猫の販売規制が実現するも、例外措置が附則に
- 帳簿の備付けと報告の義務が犬猫等販売業から拡大
- 動物取扱責任者の条件が追加されました
- 勧告・命令違反の業者の公表と、期限についての条項が新設されました
- 廃業・登録取消後に立入検査や勧告等を行うことができる規定が新設されました
参考:2019年改正動物愛護法に入らなかったこと<動物取扱業>
● 動物の適正飼養のための規制の強化
● 都道府県等の措置等の拡充
- 動物愛護管理センターの業務を規定、自治体への財政上の措置も新設
- 動物愛護管理担当職員の配置は義務になり、市町村にも設置努力規定
- 動物愛護推進員は委嘱が努力義務に
- 所有者不明の犬猫の引取りを拒否できる場合等を規定
● その他