去年、キリンが堀井動物園に搬入されてからちょうど1年が経ちました。もう亡くなっていますが。
この死亡したキリンについて、血統登録はされていなかったことを先日確認しました。もちろん堀井動物園が繁殖に参加できるわけでもないでしょうし、日本動物園水族館協会(JAZA)には加盟していないので、参加する義務はありません。
キリンの輸入元はアメリカですが、アメリカにも血統登録を呼びかけても応じない施設があるそうです。もしそういうところから来ていれば、もともと登録がない個体ということもあり得ます。
アミメキリンは全て「自称」
キリンにはいくつかの亜種があり、野生では交雑しませんが、飼育下では一緒に飼っていると交雑してしまいます。
堀井動物園は書類に「アミメキリン」と書いていましたが、写真を見ると、斑紋にアミメにしてはギザギザが入っているような気がし、交雑個体事情や日本の血統登録上の亜種分類についてお聞きしようと現在の担当園である多摩動物公園に確認したところ、キリンの場合、アメリカでアミメキリンとウガンダキリン(ロスチャイルドキリン)の交雑が進んでしまっていることが判明、アメリカ由来が4割を占めることがわかった日本のアミメキリンも独立の亜種としての管理は既にしてないのだそうです。
つまり、血統登録上はすべて単に「キリン」。国際血統登録が既にそのように一本化されているので、日本も同じということらしいです。
ただし、各園で「アミメキリン」と名乗ることは自由であり、各園の判断にゆだねられているので、今でもそのように名乗っているところはたくさんあると思います。
このきっかけとなったのは2004年の調査で、北米の飼育アミメキリン、ウガンダキリンのDNAをそれぞれ野生のキリンのものと比較したところ、いずれもかなり野生のものとは違ってしまっていることがわかったからだそうです。
これにより、アメリカ動物園水族館協会が北米のアミメキリン、ウガンダキリンはすべて「アミメウガンダキリン」とする勧告を出したのだとか。
これを受けて、日本動物園水族館協会のキリン繁殖検討委員会(当時)でも調査を行い、日本に北米から輸入されたアミメキリン(実際はウガンダキリンの血が入ったアミメウガンダキリン)とその子孫が全体の約41%をしめることがわかったため、日本でもアミメキリンは単なる「キリン」として扱うことになったとのこと。(キリン繁殖検討委員会が勧告案をつくったのが2012年。参考文献参照。調査結果そのものは公開されていないそうです)
動物園の飼育下繁殖は「亜種同士は交雑させない」が原則であって交雑個体は繁殖から除かれるイメージが強いですが、要するにそここだわってしまうと動物園のキリンの数が減ってしまうため、アミメとされるキリンも、アミメウガンダキリンとわかっているものも、すべて「キリン」として同じ繁殖計画にのせているわけです。
野生のキリンとのDNA比較調査を日本もするべきだが、それを待っているとキリンが減ってしまうから、もう交雑黙認しましょうということですね。(ちょっとニュアンスが違ったら申し訳ないんですけれども)
キリンをアフリカに帰せないことはもう自明ではありますが、動物園のいう「種の保存」が、あくまで動物園で見せるための展示動物を確保し続けるためのものでしかないということをつくづく感じます。
動物園は、キリンの形をした動物を見せて行ければいいんです。野生にはいないキリンであっても。
◆日本のキリン輸入の歴史
- 日本では1907年に上野動物園が初めて2頭のキリンを輸入、1年で死亡。
- その後しばらく導入はなかったが、1950年代、アフリカから野生のキリン輸入が増え始める。
- 1980年代にアフリカからの野生個体の輸入は途絶えた。狩猟の制限や禁止、検疫の問題などが理由。
- 1989年から、北米からの輸入が始まる。キリン個体数のピークも、この年。
- 現在日本で飼育されているキリンは、すべて飼育下繁殖個体。
参考文献
細田孝久「国内のキリン個体群の状況と亜種問題」(JVM Vol.66 No.11, 2013)
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