飼育下のコツメカワウソたちに起きている悲劇-獣医師からの警告 ※後半は閲覧注意

※記事の後半は写真が多く、一部は閲覧注意です。

手足を使い、活発に動き回る様子がとても愛くるしいコツメカワウソですが、本来は自然界に生きる野生動物であり、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは危急種(VU)に指定されています。

生息地の消失やペット取引により絶滅の危機に瀕していることが指摘されており、特に国際的に問題として挙げられているのが、日本における商業利用と密輸です。

コツメカワウソは、日本では水族館やペット業界のマーケティングにより、かなりいびつな形で知られてしまいました。親しまれているのは、あくまで飼育下での姿だけでしょう。

実は、野生のコツメカワウソの生態は、まだあまり深く研究されているわけではありません。人間はカワウソたちの本当の姿を十分によく知らないまま、安易に商業利用することで、生息地での種の存続を脅かし続けています。

そして日本では特に、飼育下の野生動物全般に言えることですが、「動物を飼育するのであれば、動物たちが本来自然に持つ欲求を満たす必要がある」ことを基本とする動物福祉の実践も、とても遅れています。

本来であれば、家族単位で川辺や湿地、湖などに暮らす半水生の動物であるコツメカワウソが、人間の住む住宅やカフェなどの店舗で飼育され、常時水槽へのアクセスできる環境もなく、活発で好奇心の強いその習性を満たすことができずにストレスをためています。

行動の異常などからもそのことは指摘されてきてはいましたが、昨年、日本の獣医師らによって症例報告がまとめられ、カワウソの飼育や流通管理などに対して警告を発する論文として公表されました。

この論文を見ると、多くのコツメカワウソたちが、密輸と思われる長時間輸送や飼養管理の問題から、命を落としたり、苦しんだりしていることがわかります。症例はここ10年のものが集められていますが、5歳になっている個体がいないのもおかしいように思います。

与える食べものが不適切であることもしばしば指摘されますが、実際にカワウソたちの体に悪影響を与えていることがわかります。コツメカワウソは、野生では、魚だけでなく甲殻類、軟体動物、カエル、小鳥など、幅広い動物を食べています。

コツメカワウソは、昨年ワシントン条約(CITES)の付属書Iにも掲載され、種の保存法による国内流通規制も始まっているため、繁殖の試みがふえるのではないかと推測されますが、ペアリングを行う際にもケンカが起き、それがもとで死亡した(と思われる)事例も耳にします。実際にかなり深刻なケガを負うことが写真でも確認でき、ショックでした。

日常的にエキゾチックアニマルを診ている獣医師自体がとても少ないですが、先生方も、犬や猫のような知見の蓄積がない中、本当に苦労をされていることがわかります。

PEACEでは許可を得て、一部の写真もお借りしました。

ぜひ、飼育下のコツメカワウソたちの状態について知ってください。

そして、野生動物を飼うこと(=買うこと)は、もう止めましょう。

動物カフェや触れ合いを楽しむことも、結局、動物たちを苦しめています。

論文「THE SITUATION OF PET OTTERS IN JAPAN – WARNING BY VETS(日本のペットのコツメカワウソの現状-獣医師による警告)」より

要約 ※翻訳です。読みやすくするため改行を入れています。2010年8月から2019年5月までに日本国内の二か所にある動物病院で治療された20体のコツメカワウソの治療履歴である。ほとんどの個体が病院に運ばれてきた時点で重症であった。持ち込まれたのは全てアジアコツメカワウソであり、ペットとして個人で所有されていたか、もしくはカワウソカフェからであった。そのうちの9体は違法に密輸されたとみられる(事例4~8、事例13)。

一番多くみられた病気は腎結石であり、次に肺炎、脱水症状であった。また、コツメカワウソの多くは適切な栄養が与えられていないせいかとても痩せていた。不適切な環境での飼育がペットのコツメカワウソの病気を引き起こす一番の理由であり、また栄養不良、ストレスと続く。

2体のコツメカワウソはストレスにより病気になった。この2体は同じカワウソカフェで飼育されていたため、多くの不特定多数の人間に触られたことがストレスの要因となったと考えられる。

2019年8月にアジアコツメカワウソがCITESの付属書IIから付属書Iに変わったことにより、日本国内での法律も変わったが、これからも状況の改善が見られるまで国内のコツメカワウソ市場の監視は必要と思われる。

結論としては次の2点が重要である。

先ず、コツメカワウソの適切な飼育方法を購入前に知るべきである。

2つ目は、捕獲されたコツメカワウソの管理システムの改善、そして動物福祉規制の観点から、日本のペットカワウソの現在のより悲劇的な死を防ぐために、できるだけ早く改善されなければならない。

この情報がカワウソのより良い管理と保護に貢献することを願う。

事例

※2010年8月から2019年5月に動物病院で収集された事例である。年齢は所有者の情報にのみ基づいている。事例の情報は論文では省略されているものも含まれる。

事例1

6カ月メス(2.34kg)、腎結石。個人宅で飼育されていた。18日後に死亡。

論文中のコメント
キャットフードと人間用ビスケットのみを与えられていた。食餌中の高塩分により腎機能が障害され死亡したと思われる。レントゲンにより多数の腎結石が認められた。

事例2と3

3歳6カ月オス(2.8kg)、低体温症。個人宅で飼育されていた。死亡の状態で発見。
2歳4カ月メス(3.08kg)、窒息。個人宅で飼育されていた。死亡の状態で発見。

論文中のコメント
胃には食物が残っていなかった。事例3の胆嚢は慢性的な飢えのために、肥大していた。

事例4~8

同居の推定1カ月のメス(200g)、同じくメス(250g)、同じくオス(350g)が輸入直後の状態悪化により2~5日間の間に死亡。脱水、鼻炎、肺炎が見られ、鼓腸症が見られたケースもあった。一部は解剖実施。同居の推定1-2カ月のメス(550g)と推定2-3カ月のオス(950g)も、それぞれ14日後、30日後に同様の症状で死亡。

獣医師による考察
無理な移動によるストレスや脱水、飼育知識の欠如、栄養不十分による体調不良および免疫低下による感染症の悪化。

事例9~11

3歳オス(3kg)、4歳メス(3.5kg)、4歳メス(2.8kg)の3匹が、同じ飼い主のもとで3年弱の間に次々と死亡(死亡の状態で発見)。3匹とも徐々に痩せていき、食欲の低下がみられた。腎結石。

獣医師の考察
プールなどは設置していたが、ネコの餌と海水魚を食餌として与えていたため、早期に腎機能が障害されたと思われる。

事例12

1.9歳メス(2.3㎏)、同居個体による咬傷事故。背側部の広範囲の皮膚脱落と潰瘍。

獣医師による考察
同居オス個体による咬傷事故が、発情によるものなのか、度々おこる。以前、別の同居のメスは死亡している。

事例13

4カ月メス(450g)、輸入直後の状態悪化。重度肺炎と腎機能不全、鼓腸症。

論文中のコメント
この事例は、20例の中でも特に衰弱し、体重はわずか450gであった。 血統管理データベースに基づくと、これは50日齢のカワウソとほぼ同じ体重である。

事例14

8カ月メス(2.2㎏)、同居個体による咬傷事故。背側部の広範囲の皮膚脱落、潰瘍。

獣医師による考察
同居オス個体による咬傷事故が、発情によるものなのか、度々おこる。以前、別の同居のメスは死亡している。

事例15

2歳メス(2.3㎏)、尾の自咬傷、皮膚炎。自咬傷は、心因性もしくは栄養性か。壊死した尾の切除。腎結石。

事例16

2歳オス(3.2㎏)、鼻出血と腰部皮膚炎。検査で異常は見つけられなかった。腎結石。深刻な歯の問題。

獣医師による考察
カフェでの飼育。水泳のための施設不足や、見知らぬ人間との接触などのストレス、キャットフードのみの飼育がみられた。

事例17

1.8歳メス(3㎏)、咳と脱毛。脱毛は検査にて心因性と考えている。咳については無処置。腎結石。

獣医師による考察
カフェでの飼育。水泳のための施設不足や、見知らぬ人間との接触などのストレス、キャットフードのみの飼育がみられた。

事例18

3カ月メス(1.4㎏)、突然苦しみだして虚脱し、落下した。咽頭部に食物が詰まり、落下による小脳障害。

獣医師による考察
カフェでの飼育。水泳のための施設不足や、見知らぬ人間との接触などのストレス、キャットフードのみの飼育がみられた。

事例19

2歳2か月オス(4.0㎏)、健康診断にて腎結石。腎結石症。生後8か月時には寄生虫症がみられたが腎結石はなかった。

獣医師による考察
事務所で飼育しており、水泳のための施設が不足している。

事例20

6カ月メス(1.95㎏)、便に血液が付着する。原因追求には至らず、食餌性を疑い食餌変更にて再発なし。腎結石症。

獣医師による考察
事務所で飼育しており、水泳のための施設が不足している。

考察

頻度では、腎臓結石が最も頻繁に観察され、次に肺炎が観察され、3番目が脱水であった。ほとんどのカワウソは痩せて見えた。

出典:THE SITUATION OF PET OTTERS IN JAPAN – WARNING BY VETS(IUCN/SSN カワウソ専門家グループの機関誌に掲載)

飼育する場合の参考情報

イギリスの展示動物の福祉団体「ワイルドウェルフェア」が、コツメカワウソの福祉に関するドキュメントを公開しました。日本語訳「私たちのケア」もPDFで公開されています。

コツメカワウソとはどのような動物で、どのような福祉への配慮が必要なのか、ぜひ参考にしてください。

また、IUCN/SSCカワウソ専門家グループによる飼育下のコツメカワウソのハズバンダリーガイドラインはこちらです。(概要版、英語)

このガイドラインには、例えば以下のようなことが書かれています。

陸地
カワウソは多くの時間を水の中で過ごすが、休んだり、身づくろいしたり、(地面を)掘ったり、餌を探し回ったりするための乾いた土地も必要である。
(…)
推奨する比率は、80%の陸地に対して20%の水であり、70%の陸地に対して30%の水が最小値である。

飼育場の広さ
推奨する広さは1ペアに対して60平方メートル、1匹追加するごとに5平方メートルが必要である。

▼コツメカワウソまとめページ

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