Russian Orcasなどいくつかのソースによると、4月2日、ロシアが哺乳類捕食型のシャチ(トランジェント、回遊型)を絶滅危惧種に指定したそうだ。
ロシア・タス通信の記事によると、レッドデータブックの更新は1997年以来初めてで、絶滅危惧種リストには、鳥類29種と哺乳類14種が追加された。
シャチに関するこの決定は、2018年から世界的に問題になっていた「イルカ監獄」事件を受けて、実現したようだ。ロシアの漁業会社4社が、中国の水族館に売却するため、違法に捕獲した多数の鯨類(11頭のシャチと87頭のシロイルカ)をナホトカ沿岸の狭い生簀(いけす)に閉じ込めていた事件だ。全頭解放され、漁業会社には罰金が命じられた。
そして、今回のレッドデータブック改訂により、世界中の水族館へのロシアからのシャチの供給に終止符が打たれる可能性があると専門家はみていると、アメリカの非営利環境メディア「Mongabay」が報じている。
北太平洋のもう一つのタイプ、魚類捕食型(レジデント、定住型)が指定されていないため不安を感じるが、この記事でコメントをしている専門家のナオミ・ローズによれば、論理上、ロシアでシャチを捕獲可能なのはオホーツク海だけであり、この海域に生息するのは哺乳類捕食型だけというところがポイントだとのこと。
ちなみに、絶滅危惧種であるシャチの国際取引は、正規の記録では、2013年以降、全てロシアから中国への輸出だ。そのほかの国の間では、水族館間を含めても、すでにシャチの国際取引は行われていない。CITESのデータベースによると、中国がロシアから正規輸入したシャチの頭数は以下の通り。
2014年 5頭
2015年 2頭(但しロシアからの輸出数は4頭 ※)
2016年 4頭
2017年 2頭※死亡などにより誤差が生じることがある。
鯨類保護団体のWDCによれば、2012年から2017年の間に20頭以上のシャチ(哺乳類捕食型、トランジェント)がオホーツク海西部で捕獲されたそうだ。そのうち多くが中国へ輸出されたことになる。
ロシア国内の情報が直接手に入るわけではないので不安もあるが、この捕獲が止まるのであれば、かなりの朗報だ。
日本でも、サンケイビルなど7社の合弁事業体が神戸市に新たなシャチショーの施設をつくろうとしている。詳細について企業側から回答は得られず、シャチ入手を海外に頼らないかどうかが定かではないが(神戸市は国内施設からの移動と聞いているようだが、基本的に企業任せの体質)、少なくとも野生個体の導入は難しくなったと言えるのではないだろうか。(もちろん海外の施設で既に飼われているシャチを連れてくることについては何とも言えない)
北米でも、かつてはアメリカのワシントン州やカナダのブリティッシュコロンビア州の沖で、のべ200頭以上のシャチが捕獲されたそうだが、アメリカでは1972年に海洋哺乳動物保護法(MMPA)によりシャチも保護され、一定の例外(科学研究、公共展示、資源の保全や回復を促進するためなど)をのぞいて捕獲も禁じられた。(※追記も参照のこと)
ワシントン州沖については、1976年、猟の実態が捕獲許可事項に違反しているとしてシーワールドが州から告訴され、厳しい世論の批判のもと、捕獲許可を放棄せざるをえなくなった経緯がある。
以降、アメリカはアイスランドにシャチの供給を頼るようになったが、アイスランドからの直接のシャチの輸出は、1990年のフランス向けが最後となっている。
カナダでは、飼育下のシャチが1頭死んだら1頭捕獲してよいという運用ルールがあったはずだが、2019年、クジラ目の動物の捕獲や飼育、繁殖、輸出入等を禁止する画期的な法案が可決された。もちろんシャチも対象だ。すでに飼育されている鯨類はこれまで通り飼うことができるが、エンターテインメント目的の捕獲は許可されない。
シャチのショーを続けるには繁殖に頼らざるを得ないわけだが、母群の数や生存率、繁殖ペースなどから考えて、限界があるだろう。シャチ展示への批判の高まりから、繁殖の中止を決定している施設もある。
着実にシャチの展示は終わりへ向かいつつあるのではないだろうか。
※参考文献:『オルカ入門』エリック・ホイト著 どうぶつ社
※追記:アメリカでは1989年以来、野生のオルカの捕獲許可は下りていないそうだ。ソース
※追記2:学術研究等の目的でシャチの捕獲が許可されたことのある日本が、今後最も危険な国ということになるのかもしれない。保護意識も高まりつつある今、まさかそのようなことが許されるとは思えないが…。太地シャチ捕獲事件についてはIKA-netのサイトを参照。
向こう側へ行きたい……水槽には自由がない。