動物実験用霊長類、最近の動向~カニクイザルの密輸事件でチャールス・リバーに出頭要請 ほか

昨年、カンボジアの実験用霊長類の施設からアメリカに多数のカニクイザルが密輸されてきたことがようやく立件され、施設の関係者だけではなく、香港の本社の経営者や、カンボジアの国の役人までアメリカで起訴されるに至りました。

この事件に関するその後の動向や、世界中で起きている実験用霊長類をめぐる諸問題について、ざっとですが列挙していきたいと思います。世界各地で、動物実験用の霊長類の需要が問題を引き起こしています。
目次

実験動物販売大手、チャールス・リバーにも出頭命令

今年2月22日、この密輸事件に関連し、実験動物販売大手であり非臨床試験受託会社でもあるチャールス・リバー・ラボラトリーズ・インターナショナル (Charles River Laboratories International, Inc.)にも出頭命令が出たことが報じられました。

The Wilmington lab said the subpoena could delay potentially…

同社は、この日、投資家向けの業績発表で、2月17日に米国司法省から召喚状を受け取ったことを報告し、政府に全面的に協力するつもりだとしました。(議事録が公開されています)

このなかでチャールス・リバーの経営者は「司法省が調査を終了すれば、チャールス・リバー に関するいかなる懸念も根拠のないものであることが判明するでしょう」とは言っていますが、司法省から受けているのは単なる問い合わせではなく出頭要請(citation)ですから、合法ではない手続きでカンボジアから出されたサルがチャールス・リバーの施設に行ったことは間違いないと思います。同社は関与を否定するのでしょうが、実際に違法に輸入されたおよそ1000匹のサルをカンボジアに返そうとする動きがあります(下記参照)。

チャールス・リバー は、昨年12月中旬、この事件発覚後にいったん下がった株価が回復傾向と報じられており、恐ろしいことに、事件後もカンボジアからサルを輸入していました。(「サルの供給を再開 輸入業者の一時下がった株価は上昇に」スター☆カンボジア、2022年12月16日)

しかし、2月22日の投資家向けの説明では、カンボジアからのサルの輸入はすべて自発的に停止したとしています。株価は、出頭要請報道以降、さらに下落傾向にあります。

kabutan よりチャールス・リバー株価の動き

追記:証券取引委員会も調査に乗り出しました

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アメリカでは昨年11月、カンボジアから実験用カニクイザルの密輸が行われてきたことが公けになり、国際的な霊長類密輸組織に対する司法省(DOJ)の取り締まりの一環として、イノティブ(Inotiv)の子会社である霊長類サプライヤーの従業員とカンボ[…]

ちなみに、日本法人であった日本チャールス・リバー株式会社は2021年、実験用マウスの維持・供給で有名なジャクソン研究所に買収され、ジャクソン・ラボラトリー・ジャパン株式会社として実験動物の生産、販売、試験受託等を行っている。

新日本科学に追い風?

恐ろしいことに、チャールス・リバー に逆風が吹いていることは、日本のサル実験企業である新日本科学には追い風になっている可能性もあるようです。
「医薬品開発の前臨床試験に使用されるサルの密輸がカンボジアで行われた疑いにより、前臨床試験で世界最大手のCRL(チャールズ・リバー・ラボラトリーズ)がカンボジア産のサルの使用を一時中止したため、新日本科学について、サルを使った試験データの価格が上昇し恩恵を受けると予想している。」(「[概況/大引け] グロース株は売られたが、バリュー株が買われ、鉄鋼や低PBR株が上昇」日本証券新聞、2023年2月27日)

カンボジアに「強制送還」される? 1000匹のサルたち

3月 13 日、チャールス・リバー が、ヒューストンからワシントン DC のダレス国際空港まで、違法に輸入された約 1,000 頭の絶滅危惧種のオナガザル(カニクイザル)をトラックで輸送しようとしていることが発覚しました。

the Guardian

Long-tailed macaques at risk of being killed, or laundered o…

もしカンボジアに戻されれば、再び動物実験産業のための密輸パイプラインに流されることになります。(日本に売られるかもしれません!)

この日は、サルたちが研究所を出ることはなかったと報告されていますが、現在も、サルたちの運命はまだ不安定なままです。PETA は、テキサス州のボーン フリー USA霊長類サンクチュアリにすべてのサルを解放するよう米国魚類野生生物局 (FWS)に求めるメールアクションを呼びかけています。

Find out who the victims are and who’s responsible. …

PETAは、サルたちが保護区に送られれば100 万ドルを拠出すると約束していますが、残りの費用をチャールス・リバーが負担するべきだとしています。議会に、1,000 匹のサルを保護区に送るよう促すメールアクションも行われています。

Please urge your members of Congress to call for the release…

チャールス・リバーはサルの輸送でも違反

2022 年 9 月 のアメリカ農務省(USDA)の動物福祉法(AWA)に基づく査察の報告書によれば、チャールス・リバー・ラボラトリーズは法的に求められている獣医師検査のルールに違反して、リノの施設からユタ大学へサルを輸送していました。

研究所や繁殖施設間で輸送されるサルは、引渡す前10日以内に獣医師による検査を受け、健康であることや、人間や他のサルに感染するような病気の兆候がないことを確認する必要があるそうですが、PETAによれば、チャールス・リバーや他の研究所の要請により、必要な期日内に検査を受けていない、少なくとも1,881匹のサルが、ネバダ州を含む複数の州をトラックで移動されていたとのこと。

USDAは、関与した輸送会社の1つであるJKL Secure Freight Linesが14回にわたってこの連邦法の要件に違反したことを認定したそうです。PETAは他の研究所、企業の名も挙げています。

PETA

In a step toward ending cruel and dangerous monkey importati…

チャールス・リバー 実験用のサルの飼育の実態

チャールス・リバーはこれまでも多くの動物福祉違反を指摘されてします。十分な獣医学的ケアを提供できていない、苦しんでいる動物に痛みを和らげることができていない、霊長類の心理的健康を確保できていない、病理学的に無視したことにより恐ろしい死を招いた等です。

サルを閉じ込めたままケージを高温の機械式ケージワッシャー(洗浄機)にかけ、サルがやけどを負って死亡したこともありました。また、サーモスタットが故障し、誰もいなくなったネバダ州の研究所で 32 匹のサルが焼死したことにより、 10,000 ドルの罰金を科されました。

事件後の日本のカンボジアからの霊長類の輸入は?

日本にも、密輸を行っていたバニー(Vanny)社のカンボジアの施設と取引のある企業があります。日本の農林水産省は、日本へサルを輸出する際の検疫施設としてバニー社の施設を指定しています。

カンボジアの密輸事件が明らかになった昨年11月以降、生きた霊長類がどれだけ日本に輸入されているか、貿易統計を調べました。(貿易統計による)

頭数
2022年11月1094
2022年12月0
2023年1月0
2023年2月768

昨年11月の輸入は事件発覚前の可能性もありますが、今年2月に768頭も入ってきているのは驚きました。ただし、カンボジアにはバニー社以外の施設があることはご留意ください。新日本科学はカンボジアに拠点(SNBL Cambodia)を置いているほどです。

過去にバニー社のカンボジアのサルを扱っていることがわかっている株式会社新薬リサーチセンター(New Drug Research Center, Inc)は、以後バニー社と取引することはないと回答しました。また事件発覚以前から、サルの価格が高騰しており、購入できなかったとも言っていました。

株式会社ハムリーは、まだ回答がありません。現時点で何とも回答できないとのことでした。有罪となった場合はどうかとの問いには、そのとき考えるとのことです。(⇒回答が確認できたため5月11日に修正)

(他にも取引しているところがあるかもしれません。情報をお持ちの方はお寄せください。)

モーリシャスでもサルの密輸摘発。頭数、なんと440匹

今年3月17日、アフリカの南東沖にある島国、モーリシャスでもサルの違法取引で男が逮捕されました。なんと440匹ものカニクイザルが押収されました。動物実験をする研究所向けの違法取引の疑いでの逮捕です。

Another alleged monkey trafficker was caught, this time with…

上記の記事によると、逮捕された会社の役員は、サルの輸出許可を申請し、返答を待っていると語っているそうですが、当局は違法なサルの密売ネットワークの一部との疑いを持っていると報じられているとのこと。

日本は感染症法によりモーリシャスからの輸入は(特例を許可しない限り)できませんが、アメリカの動物実験産業は、昨年モーリシャスから絶滅の危機に瀕したカニクイザルを8,000 頭以上輸入しているそうです。あまりの規模に驚きます。

サル実験産業の貪欲さはとどまるところを知りません。

スリランカから中国へ10万匹!?

中国でも、コロナ直前の2019年にカニクイザルの大型の密輸が発覚しており、さらにコロナ後には実験用霊長類の輸出を停止しているので、サル不足が生じている可能性があります。

そこへ、先日驚くべきニュースがありました。スリランカからトクモンキー (トークマカク、Macaca sinica) 10万匹を中国に輸出する計画があるのだそうです。動物園に需要があるといいますが、いくら何でも多すぎるのではないでしょうか。

中央日報の報道(「『デフォルト』スリランカ、サル10万匹の中国輸出を検討…『食用・実験用』懸念」2023年4月13日)によれば、スリランカの動物権利団体「環境財団」は「中国がなぜそれほど多くのサルを望むのか知りたい」とし、「食用、医療研究用など他の目的があるかもしれない」と憂慮しているとのこと。

その規模から実験用の可能性が高いのではないかと疑いますが、これまで動物実験での実績がない動物種をいきなり新薬開発の毒性試験などで使うことはできません。どのような反応をする動物か、実験の積み重ねがあって初めて使える動物かどうかがわかってきます。

動物と人との間には薬剤等への反応の違いがあり、カニクイザルも人のモデルとすることは科学的ではありませんが、人との違いや同等性を外挿するための過去のデータがあるということで体裁を保っているわけです。

同じマカク属のニホンザルも、新薬開発などの安全性試験には使えないと研究者が明言しています。これまでのその分野でのデータの蓄積がないからです。サルが余っているからと言って、いきなりカニクイザルの代替に使えるわけではありません。

そういう意味で、いきなりトクモンキーに手を出すのは違和感もありますが、10万匹も手に入るのなら実験をし倒せばいいという考えなのかもしれません。

また、実はニホンザルも中国に輸出された実績があり、中国語サイトで検索するとペット用に販売されています。(一部写真の尾が長かったりするので、ニホンザルかどうか定かでないものも紛れ込んでいますが、もしかしたら交雑してしまっている可能性もあるかもしれません)

ですので、全てではないにしろ、ペット用に売られる可能性もあるのではないかと懸念します。

日本のテレビ番組でも取り上げていたようなので、やはり10万匹という数字は多くの人にとって衝撃的なのだと思います。

下記の記事にもある通り、PEACEも加盟するAsia for Animals Coalition(AfA、アジア動物連盟)は、Macaque Coalition  (MACC、マカクザル連盟)とともに既に反対の意見を表明していますが、これにPEACEも賛同しました。最終的な連名団体はもっと増えると思います。⇒追記参照

The Asia for Animals Coalition (AfA) comprising 19 associati…

追記(2023.6.6)

AfAの要請書への最終的な連名団体は、130になりました。要請の内容は、こちらの記事からご覧いただけます。

Asia for Animals

Nineteen Core Members of the Asia for Animals Coalition, tog…

この問題については、在スリランカ中国大使館がTwitterでプレスリリースを投稿しており、偽情報と否定するとともに、中国国家林業草原局はこの要請を認識しておらず、いかなる側からもそのような申請を受けていないことを明確に表明するとしました。

スリランカの農業大臣は、この中国企業と3回面談を行っているそうですが、このZhejiang Wuyu Animal Breeding Co. Ltd.(浙江鵡語動物養殖有限公司)はインターネット上には情報がありません。スリランカ農務省の問い合わせに対し、この企業からインターネット上の宣伝には興味がないとの回答があったといいます。

中国生物多様性保護・緑色発展基金会(CBCGDF-BASE)がこの企業に問い合わせたところ、10万匹ではなく1,000匹であるとの回答があったとの記事もありました。実際には10万匹の規模ではないのかもしれませんが、1000匹でもかなりの規模です。

また、公開された同社から農務省への書簡に使われている社印の画像は、漢字が裏返しになっており、中国企業としてはあり得ないように思います。何らかの怪しい取引が画策されているのではないかという懸念は持ってしまいます。

中国企業の社印裏返し

追記:計画は中止されました

その後、計画が中止されたとの公表がありました! 詳しくはこちらをごらんください。

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今年4月、デフォルト(債務不履行)に陥ったスリランカが、固有種のサルおよそ10万匹を中国へ輸出する計画を立てていると報じられました。対象となったのはトクモンキー(トクマカク、Macaca sinica)というサルで、2008年に絶滅[…]

アメリカ:霊長類検疫会社副社長が密輸の捜査時の重大な虚偽証言により有罪判決

2021年のことなので少しさかのぼりますが、アメリカ・テキサス州にある実験用霊長類の検疫・収容施設であるオリエント・バイオリソース・センター(Orient BioResource Center;OBRC) の副社長ゲイリー・タッカーが、霊長類の密輸に関わる犯罪捜査中に、米国魚類野生生物局の特別捜査官に対して重大な、虚偽であり架空の、詐欺的な陳述及び説明を故意に行ったとして、有罪判決を受けました。

これもカンボジアのサプライヤーに関する捜査の途中で起きたことだとだけ公表されていますが、バニー社の事件の起訴状で触れられている施設が、この会社の施設であろうと推測されています。(例えばこの記事

アメリカ司法省のプレスリリースによれば、本人が認める供述をしたそうです。3 か月間の自宅監禁という特別な条件を伴う 3 年間の保護観察及び 5千ドルの罰金を支払う判決を受けました。

2021年8月4日 アメリカ司法省リリース(罪を認めたとき)

A Texas man pled guilty today to knowingly and willfully mak…

2021年10月14日 アメリカ司法省リリース(有罪判決)

A Texas man was sentenced in federal district court in Fort …

このオリエント・バイオリソース・センターは、翌年1月、イノティブ(Inotiv Inc.)に買収されました。劣悪な犬の繁殖施設を運営していたエンヴィーゴを買収したのと同じ企業です。

ちなみに、オリエント・バイオリソース・センターは、もともとは新日本科学の子会社でした。2017年に経営権が韓国のオリエント・バイオ(Orient Bio Inc.)に移されました

霊長類の動物実験利用は、世界中で問題を引き起こしています。サルの需要を減らし、代替へのインセンティブをつけることが非常に重要です。

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ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」による 動物実験のためのサルの繁殖・供給の廃止を求めます

海外の署名活動

アクション・フォー・プライメイツという団体とフィリピン動物福祉協会(PAWS)が、行っている署名に、ぜひご協力ください。現在フィリピン国内で1件申請が出ている、実験利用目的での野生カニクイザルの捕獲について、許可を出さないよう阻止するための[…]


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